第5話
「ああ、笹木さん。気になって見に来られましたか」
倉庫には今朝方集会所に来た警官のうち、最年長の佐伯と女性警官の三浦の二人。それに、焼けた電線の処理に来たのだろう、電力会社の人間が二人。その四人が向かい合って何やら話し込んでいた様子だった。
「何となくね、見ておこうかと。で、そっちは何か新しい発見でもあったようだが?」
辰虎の言葉に佐伯と三浦が目を合わせた。すぐに佐伯が顎でくいっと合図をすると、三浦が頷いて説明を始めた。
「盗電ですよ」
「盗電?」
「使用契約を休止していたらしく、電力量計の所で線を外していたらしいのですが……。こちらを見てください」
三浦が指し示したのは倉庫内の壁で、その裏には丁度メーターがある位置だ。その壁が焼け落ち、中を這っている電線がむき出しになっていた。なるほど、メーターを通る前の位置に室内線が繋げられている。確かに盗電されていたようで、辰虎は「なるほど」と頷いた。
「それで? 被害届の書き方でも話していたわけじゃなかろう」
「その室内線の先を見てください」
メーターの所から伸びた線は、壁であった所を下に向かい、膝ぐらいの高さで焼け切れ、その先に繋がっていたであろう電線は、倉庫の奥の方へ伸びていた。
「問題のモノはその焼け切れている箇所の下に……」
三浦が言ったモノとは何か、辰虎は床を注視した。
「こりゃあ……」
そこには、赤ん坊の握りこぶし程の大きさの黒い塊があった。
「カラスや猫に持ち去られなくて良かったです。犯人ですよ」
そう言ったのは佐伯だった。それは焼け焦げてはいるが、間違いなくネズミだった。
「どうやら連続放火ではなく、こちらは全くの偶然だったようです。こんなこともあるんですね。明日辺り宝くじでも買いに走ろうかと思ったくらいですよ」
佐伯がこんな軽口を叩けるのも、人的被害が無いからだろう。しかし、いまひとつ理由が掴めなかった倉庫の火事が無関係となると、辰虎が心の奥で抱いた疑念は、さらに大きくなるのだった。
「そういえば……」
佐伯が言葉を続けた。
「火災保険ですがね、家主が死亡してすぐに解約されていました。保険会社からは、空き家でも住居としての契約ができるからと、継続を勧められたようですが、そもそも人がいなくなって火の気が無くなるんだから、そんな無駄遣いするほど余裕はないと断ったそうです。こんなことになるんなら、継続していれば良かったと、息子さん本気で悔やんでましたよ。まあこれでまた家屋放火の方は手詰まりなんですがね」
辰虎の耳には、佐伯の話の半分も入ってこなかった。
犯人があの布団に執着したのは間違いないと思える。その理由が辰虎の想像した通りのものだとしたら、犯人もやはり想像がついていた。しかし今の段階でそれを問いただしても、否定されればお終いだ。
「パトロールの件だが、もし仮に……万が一犯人が次に火を着けるとしたら、あの家だ。あそこを重点的に頼む」
佐伯と三浦は突然の話に驚きながらも、辰虎が指す家を確認した。
「あれは確か……」
佐伯が慌ててポケットにねじ込んであった住宅地図を広げて確認した。
「飯室……あの母親と子供二人が住んでいる家、ですか?」
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