第5話 栞が”紡ぐ“

勉強机に座りながら思う。わたしが夜桜さんに出会ってからずっと想い続けてきたこと。現実は厳しい夢だったのかもしれない。

今までたくさんの本を読んできた。大賞をとるため、勉強だと思いながら読みまくった。そして短編小説とかも練習でたくさん書いて友達に見せたりした。友達は面白いって言ってくれていたけど、世間はもっと厳しいに決まっている。よく考えたら面白くない小説だったかも。 城ヶ崎さんにわたしは初めて現実をみせつけられた。

 なんだろうこの辛くて悲しくて心が冷めていく感じ。

 今までは自分の思いに正直に突っ走っていけていたはずなのに……。

 『わたしには無理だ』そんな思いが頭にぐっと刺さった瞬間、視界が真っ暗になった。

_________________________

じゃあしずくちゃん、おおきくなったらこのしおりのためにほんをつくろうよ!…………

_________________________

「しずく…………しずく……しずく!」

はっと起きる。いつのまにか机に突っ伏していた。

「もうご飯の時間よ」

「あぁ……ごめん……」

まだモヤモヤしている。

「部屋、まだ散らかってるじゃない。戻ったら片付けなさいって言ったじゃない」

んん……?言って……たかもなぁ……

「ご飯食べたら片付けなさいよ」

「はぁい……」

_________________________

部屋を片付ける。高校生になったわけだし、しっかりと整理することにした。

「これは、捨てていっか」

わたしは捨てれる子なのです。

「さてと……次は棚かな」

ごちゃごちゃした棚から物を引っ張り出して色々見てみる。

……なんかこういう思い出の品を見ていると色々思い出して片付けが進まなくなっちゃうよねー

そして最後に一番上に少し錆びているお菓子の缶が出てきた。

開けてみると折り紙でできた栞?のようなものが出てきた。

「栞……かぁ……」

今せっかく小説のこと忘れてたのに思い出しちゃったじゃん。

「さっさと捨てよっと」

もう一度栞を見つめる。

……なんだかすごく大切なもののように見えてくる。

「なんだろう、この感じ……」

下へ行き、お母さんに尋ねてみた。

「ねぇ、この栞知ってる?」

「……?なにその紙切れ」

やっぱ大切なものなんかじゃなかったっぽい

「あ、それ雫が小さい頃幼稚園で作って持って帰ってきたやつじゃない?」

「え?おねーちゃん知ってるの?」

「当たり前じゃない‼︎雫の持ってるものはなんでも知ってるわよ〜」

……怖いなぁ

「えっとねちょっと待ってね……このメモ帳に……確か雫が年中さんだから……これかしら。えっと『雫が”しおり”をみせてくれた。“おおきくなったらしおりのためにほんをつくる‼︎”』ってあるわね」

“おおきくなったらしおりのためにほんをつくる‼︎”

そんな小さな頃から思い続けてたんだ……。

「そっか、おねーちゃんありがとう」

自室に戻りベッドに寝そべる。

「大切な夢、諦めちゃダメだ」

この栞は思い出させてくれたなんのために、誰のために物語を紡ぐのか。

はっきりとは思い出せないけど約束した子は自分にとって大切な人だったはず。

「よーし、片付けがんばるぞー」

 栞を筆箱にしまい、明日からがんばろうと決心した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る