#9 虚部

突然僕の名前が呼ばれて、驚いて目を覚ました。

僕は、職員室にいた。あの、聞き慣れた声は、僕の担任のものだった。

僕の担任は、体育系だが、担当は数学だ。もちろん、僕らのクラスも受け持っている。この、夢の中で……

そういえば、現実の世界で、と話したことがない(もっとも、あちらではと奴らを除いて誰とも会ったことがないのだが)。それに……

それに、夢の声が、現実で聞こえる、なんてことはあるのだろうか。偶然だろうか、たまたま名前を呼ぶ声が聞こえて、たまたま夢でその声の主と会うなど。

本当に、が現実なのか?

「おい、お前。なにぼーっとしてんだ?大丈夫か?」

僕は考えに夢中で、目の前に担任がいたことを完全に忘れていた。

「最近お前、変だぞ。前まではきちんと授業を受けていたのに、最近はといえば、寝てばかりじゃないか。それに、前なら解けていた問題すらも、最近は解けていないようだし。何か、悩みでもあるのか?何か話したいことや、聞きたいことがあれば、なんでも言ってみろ。」

聞きたいこと……。そうだ。こちらの世界でも、聞いてみればいい。あの質問を……

「あの……」

「ん?どうした?」

「馬鹿げてるって思われるかもしれませんが、聞いてもいいですか?」

「ああ、答えられるようなものだったらな」

「先生は、ここは現実だと思いますか?それとも、夢の中なのでしょうか?」

「………」

僕の担任は、黙っていた。そして……

「…それで?夢だったらなんだ?それを聞いてどうする?そもそも、俺が『夢だ』と言ったら信じるのか?」

「えっ…?」

担任は、じっと僕を見つめた後、突然笑った。

「ははは、冗談や。気にすんな。それで…あぁ、ここが現実か、それとも夢の中か、だったな。まぁ、これはあくまで俺の考えに過ぎんが……」

担任は再び、真剣な顔つきに戻った。

「…それはそんなに重要やないんとちゃうか?一番大事なンは、夢だろうとなんだろうと、どれだけ本気でぶつかれるか、やないか?どっちかで手ェ抜いて、そっちが夢やったら損やし、残念やろ?まぁ、知らんけどなぁ」

最後の方はいつもの調子を取り戻しながら、そう言った。

夢だろうとなんだろうと、どれだけ本気でぶつかれるか。

その言葉が、帰路に着く僕の頭の中で繰り返されていた。

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