#8 実部

「それで、今日の夢は?」

「いつもとおんなじ。また学校。」

「そっか。相変わらず大変だねぇ〜」

僕は、彼女と、いつも通り他愛もない話をしていた。あの日から、一ヶ月が経った。

次の日から、僕は、いつものあの倉庫で目覚めることはなくなった。大抵は、ベンチに腰掛けたところから始まり、ベンチで一休みして終わる。相変わらず、街には誰もいない。

「そういえば、今日も暑いね」

「…………ぇ?あっ、そ、そうね〜……」

「ねぇ、大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫だから……」

彼女はそう、自分に言い聞かせるように言っ

た。

あの日から、彼女は様子がおかしい。

さっきまで話していたはずなのに、突然隣から消えていたり、物思いに耽っていたり、何度も『大丈夫、大丈夫だから…』というようになった。しかも、それは日を追うごとに、酷くなっていった。

「それで、夢の中で、どうしてたの?」

「あ、そうだ。定期テストが返ってきてた」

「それで、どうだったの?」

「まぁ、酷かった。どれもこれもちんぷんかんぷん」

「そうなの……」

「でも…」と僕は続けた。

「でも、夢の中だから、きっと大丈夫。現実はこっち。楽しくおしゃべりしてるだけで1日を過ごす、素敵な世界なんだから。でしょ?」

僕は彼女の方を見る。

彼女は、いなかった。

またどこかへ消えてしまったのかと辺りを見渡すと、彼女は少し後ろで考えに耽っていた。

「どうしたの?」

「やっぱり…大丈夫、なんかじゃ…ない、よね……」

「え?」

そこで彼女は、僕が見ていることに気がついた。

「あ、いや、ごめん。やっぱり、夢の中でテストがひどいのは、大丈夫じゃないよね、っていう話。だってそうでしょう?夢の中でも解けないってことは、理解できてないってことでしょう?」

僕の中で、今の彼女とあの日の彼女が重なった。あの日に、そっくりだ。

「暑いね〜、アイスでも買ってくるよ」

彼女は、袖で汗を拭いながら、そう言い残して去っていった。

僕は、またひとり残された。

僕は、いつも座っているベンチに腰掛けた。

彼女はいつ戻ってくるのだろうか。

その時、僕の名前を呼ぶ声がした。彼女の声ではない。もっと低く、どこかで聞いた声…

「おぉ〜い!」

彼女の声も聞こえてきた。彼女の方を向こうとした時、僕の記憶は途絶えた。

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