#5 アイをかける少女
目が覚めると、また、例の倉庫。
「お前、遅いぞ!」
「今日もきちんと頼んだもん、買ってきたんだろうなぁ〜?」
いつになったら、このいつもの風景から逃れられるのだろうか。
「あ?なんだ、その目?」
「なんか文句でもあんの?あぁん?」
いつもと同じ。でも…
「なんか言ってみろよ!」
また腹に強い痛みが走る。
「うぅっ、、、」
例のごとく、あの拳が僕の腹を抉る。
奴らが、こちらへ、来る。
今日もまた、心の中で叫ぶ。
『助けて!!』
相手が振りかぶった、その時。
脇腹に強い痛みが走った。
僕は、蹴られた。
次々と、僕はボコボコにされていく。
『助けて!!助けて!!』
何度心の中で叫んでも、彼女は来なかった。
奴らは、まるで言葉を無くしたかのように、僕に暴力を振るった。
その時、彼女の言葉が蘇った。
『あなたね、そろそろ一人で奴らを倒せるようにしなさいよね』
『あたしだって、いつも駆けつけられる訳じゃないんだから。』
『それにね、このままだと、あなた、まともに考えることすら出来なくなっちゃうよ!』
このままでいいのか、僕は。
このまま、ずっと彼女を頼るのか。
僕は、自問自答の末、答えを出した。
「「うわぁぁぁあ!!」」
僕は、奴らに向かって走り出した。
驚いた。僕に、これだけの力があったとは。
僕は、奴らの攻撃をするりとかわし、奴らの下っ端を、腰巾着を、そして奴らのリーダーを打ち倒した。
「う、うわぁぁ!」
奴らは恐れをなして、一目散に逃げ出した。
一人になって、僕は呆然としていた。そこへ
「ごめん!遅くなっちゃった!大丈夫!?」と彼女が入ってきた。
そして、誰もいない倉庫、開け放たれた扉、そしてまだ握られていた僕の拳を見て、その後に僕の顔を見ていった。
「強く…なったね……」
その時、僕は驚いた。彼女は、涙を流していたのだ。
**********
それから、僕らはいつものように、誰もいない街を歩いた。
「そういえば、今日見てた夢にも、君はいなかったよ」
「ぇ、あぁ、そう……まぁ、そうよね……」
彼女は、何かを考えているように、上の空だった。だが、彼女の目元に、何か光るものを見た気がした。
不意に彼女は立ち止まった。
「ねぇ、この前、聞いたでしょう?ほら、こちらとあちら、どっちが現実かって。あたし、答えを、見つけた。」
僕が振り返ると、彼女は大きく息を吸った。たが、一回では足りなかったらしく、もう一度、深呼吸をした。そして、真剣な面持ちで、僕に言った。
「きっと、こっちの世界が、現実よ」
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