第6話 束の間の平穏
放課後、僕は意を決して、長瀬さんと共に長瀬さんの家に向かった。
事前に打ち合わせをして、僕は長瀬さんの恋人役として話をすることにした。
「…ただいま…お義父さん…」
「朋美…その子は誰だ?」
「初めまして、お義父さん!
僕は 進藤 恭介 と言います。
ちょっと前からお嬢さんとお付き合いさせて頂いているものです。」
「何!?」
「お義父さんと直接お話合いがしたく本日は伺わせて頂きました。
僕は…全てを知ってます。」
「!?!?…朋美…お前!!」
「お義父さん…そんな事をやっても誰も喜びません…
皆傷つくだけです…」
「お前に…お前に何が分かる!!
大事なものを失った気持ちがわかるものか!!」
「分かります!!
私は幼い頃母を亡くし…そして数か月前に父も事故で亡くしました…
愛する人が急にいなくなってしまう悲しみ、苦しみ、辛さ…
僕も経験しているから痛いほど分かります!!
でも…どんなに想いを馳せても…死んだ人はもう…生き返らないんです…」
「!?くっ…」
「大事なのは今生きている人です…
朋美さんは…血は繋がってないかもしれませんが…
大事な家族なんでしょう?
その大事な家族を傷つけるような真似をしても…
その先に何も光はないです…」
僕は…自分に言い聞かせるように言った…
雪奈さんも…病院でああ言っていたし…何か事情があるのかもしれない…
辛くても…向き合って話くらいは聞くべきなのかもしれない…
「……………」
「勿論こんな若造に急に言われても…思う所はあるでしょう…
今日の所は引き下がります…」
・・・
「進藤君…今日はありがとう…」
「長瀬さん…今日は…どうする?僕の家に来る?」
「…あんなに落ち着いたお義父さん…久しぶりだから…
今日はお義父さんを信じてみようと思う…」
「…分かった…
危なくなったらこの住所に来るか、電話で連絡をしてね。
すぐに駆け付けるから…」
「ありがとう…」
「これで上手くいかなかったら…
色々と聞かれることになるだろうから…嫌かもしれないけど…
一緒に警察に行こう?
僕も…付き合うから…」
「…うん…ありがとう…」
・・・
次の日、長瀬さんが少し涙ぐみながら僕の家の前で待っていた。
「どうしたの?まさか…」
「ううん。そうじゃないの!
お義父さんが昨日謝って来たの!!
謝って許されることじゃないけど…
本当に酷い事をしたって…
頑張ってやり直すから…見ててほしいって」
長瀬さんは感極まって僕に抱きついて泣きながら笑った。
「ありがとう!ありがとう!進藤君!!
私…やっと…」
「そっか…お義父さんは…前を向いたんだね…
僕なんかの言葉で前向きになってくれて良かったよ!」
「あの…進藤君…良かったら今度の土曜日、お買い物に付き合ってくれない?」
「え?良いけど…」
「ふふっ、良かった。学校行こ♪」
あどけない笑顔を見せる長瀬さんは、とても可愛らしかった。
・・・
そして土曜日…
「お待たせ!」
長瀬さんは眼鏡を外し、髪をアップにして、
胸を強調するようなキャミソールワンピースを着ていた。
とても可愛らしく、僕はドキドキしていた。
「ふふっ、ひょっとして…見惚れてる?」
長瀬さんは意地悪な笑みを浮かべた。
「…いや…その…奇麗だよ…とても…」
僕たちは恋人でもないのに良い終始良い雰囲気になっていた。
そして帰り際…
「進藤君…今日は…色々ありがとう…私…進藤君の事…好きになっちゃった…
今度は私が…進藤君の心の傷を癒せたらなって思ってるよ…」
「え!?」
「…それとも…私みたいな薄汚れた身体じゃ…嫌?…」
「そ、そんな事は…」
僕が迷った顔をしていると
不意に口に柔らかいものが当たり、
僕の舌に長瀬さんの柔らかい舌が絡みついた…
僕も途中から舌を絡めて長瀬さんを求めた。
暫くしてお互いの口が離れて、艶めかしく唾液が垂れ下がった。
お互いに赤面し、長い沈黙の後…
「……またね♡」
長瀬さんは帰って行った。
僕は浮かれて、機嫌よく自分の家に帰った。
ニヤリと不気味な笑みを浮かべる影に気づかずに…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます