時間泥棒-④

 時間を奪う【ターゲット】と、時間を与える【レシーバー】は、完全にランダムだ。だから、その年齢も様々だし、それぞれの性別も違うことがある。

 また、同じ人が何回もターゲットやレシーバーに選ばれることもある。要するに、運次第ということだ。


 ──ピーッ、ピーッ!


 そんなことを考えていると、探知機が鳴った。僕はすぐに現場へ向かう。


 今回は、少し難しい仕事のようだ。ターゲットは一人の主婦。僕が向かった時には、洗濯物を干していた。

 ターゲットから時間を奪うには、隙を作る必要がある。僕は、少し離れたところで様子をうかがっていたのだが……。

 彼女はなかなか手を止めようとしないのだ。

 洗濯物を干し終えるとすぐに、今度は掃除を始めた。だから僕は自身を透明化していても、気を抜くと彼女にぶつかりそうになってしまう。


 このままじゃ、いつまで経っても仕事が片付かないぞ……。僕は焦り始めていた。

 しかし、僕はタイムキーパー。与えられた仕事をやり遂げるのが使命だ。僕は、どうすれば彼女に隙を作り出せるか頭を悩ませた。

 そして、一つの方法を思いつく。これならいけるかも……!僕は早速行動に移った。


 僕はまず、彼女の部屋を探すことにした。この家には部屋がたくさんあるので、探すだけでも一苦労だ。

 やっと見つけた部屋のドアを開けると、僕は中に入った。そして、本棚からアルバムを取り出し、彼女のいる部屋へと向かう。


 彼女は、窓の掃除をしていた。「なかなか落ちないわね……」なんてつぶやく声が聞こえてくる。

 僕は手に持っていたアルバムを、こっそり部屋のテーブルに置いた。


 しばらくして、彼女は振り向き、アルバムに気づく。


「あら……懐かしい!こんな写真もあったのね!」


 彼女はそう言うと、ページをめくり始めた。


「あぁ~!この子、昔よく遊んでたっけ!」


 そう言うと、彼女はクスリと笑う。


「今何してるのかしら……。……そうだわ!電話してみましょう!」


 そう言うと、彼女はスマホを手に取り、電話をかけ始めた。

 僕はその様子を見てホッとしながら、時の砂時計をテーブルの端に置く。よかった、うまくいったみたいだ。


 数分後、彼女は突然笑い出した。

 一体、何を話しているのだろう。僕は不思議に思い、耳を澄ませる。


「やぁだ、みっちゃんったら!相変わらずお転婆てんばさんなんだから~」


 彼女は楽しそうに話している。相手は友達だろうか。


「えぇ~!?ホントに~?ふふふ、そうかも~!」


 彼女は終始楽しそうだった。僕は、彼女が幸せな時間を過ごせていることに安堵した。

 ターゲットから奪う時間は、楽しい時間である必要がある。それは、レシーバーに与える時間でもあるからだ。

 楽しい時間はオレンジ色の砂となり、時の砂時計に溜まる。もし、それが楽しい時間でなければ、砂は青色になってしまう。そうなると仕事は失敗だ。


 青色の砂が溜まった砂時計は、僕らタイムキーパーが消費しなければならない。僕はこの仕事を始めたばかりの時に、失敗してしまったことがある。……その時はとてもつらかった。溜まった砂の分の時間、僕は悲しみや苦しみにさいなまれたのだ。

 だから、僕は仕事の時はいつも、ターゲットが幸せな時間を過ごせることを願っている。

 楽しそうな彼女の姿を見届けると、僕は静かにその場を離れた。


 ◆◇◆◇◆


 彼女のところへ戻ってきたのは、およそ2時間30分後だった。この間、僕は一人のレシーバーへ時間を与え、二人のターゲットのところへ砂時計を置いてきた。


「結構長かったな……」


 僕は思わずつぶやく。ターゲットから何時間奪うかは、僕らタイムキーパーにもわからない。だが、今回のように長いケースはまれだった。それだけ、あの主婦が幸せな時間を過ごしたということだろうか。


「まぁ、いいか……」


 とにかく、今は目の前の仕事を終わらせよう。僕は、開いていた窓から彼女の部屋へ侵入した。そして、オレンジ色の砂がたくさん溜まった砂時計をカバンに入れた。


「……あらやだ、もうこんな時間じゃない!それじゃ、また電話するわね~!」


 ちょうどそのタイミングで、彼女はそう言って電話を切った。

 僕はその様子を確認すると、部屋を出た。


 時間を奪うために、ターゲットに通話という手段を使わせる時は、通話先の相手の時間も奪うことができるのだ。

 今回は"みっちゃん"の時間も、他のタイムキーパーから奪われていることだろう。こうした連携も、この仕事では大切なことなのだ。


 さぁ、次の目的地はどこだろうか。

 僕は探知機を起動させると、画面を見た。


 ──ピピピッ!


 すると、探知機はまたも僕をかすような音を出した。僕は急いで現場へと向かった。

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