第4話 ギフトの代償 - 2
号令がかかる。
「やめ!!!」
「下がれ!」
新兵達が列を整え、練兵場の中央を開けて下がる。
教官の一人が龍司に視線を据えて声を掛ける。
「水城教官、『ライズ(見取り稽古)』をお願いできますか?」
事前の打ち合わせなく指名された事に苛立った龍司だったが、相手の教官を見返して歩み寄った。
「すいません、教官殿、失礼ですがお名前をお聞きしても?」
「は、私はヴェルーガと申します。」
「ヴェルーガ教官殿、ご存知の通り、私は本日初めて教官の任に付きました。
『ライズ』は見る側としては経験しましたが、教官としてのご説明を受けておりません。
ご指導頂けますでしょうか?」
剣道ではよくある見取り稽古なので内容はわかるが、事前の打合せ無しなのは乱暴すぎるので敢えて指導を乞うてみた。
「ああ、すまんな、水城教官の指導を見ていると、新米教官だという事を忘れてしまってな。」
頭を掻きながら弁解するヴェルーガに周りから笑いが漏れる。
「静まれ!!
では、本日の『型』では攻守の9番から21番がメインでしたので、
『攻め手』が10、16、18で『返し手』が11、13、20の組合せ、、、
これではいかがですかな?」
龍司は昨夜渡された指導用教科書に記された攻守番号の、具体的な動きを脳裏に再現してみてから慎重に答える。
「流れはわかりました。一度だけ『試し』をお願いします。
それと、18の攻めに対しての受けは20ではなく、14の方が自然で効果的な『返し』に思えるのですが。。。」
ヴェルーガは太い笑みを龍司に返して、
「ふ、さすが私が見込んだ男だ。それがわかるとはな、、、、」
龍司も不敵な笑みを浮かべて、
「では教官殿、私は『返し手』を務めればよろしいですか?」
今度はヴェルーガ教官の目と口元に咄嗟の驚きが宿る。
「1度だけの『試し』だけで、『返し手』を申し出るとは、
私の『攻め』を甘く見ているわけでは、、、、ないだろうね?」
じわり、と古参士官の殺気がその目から漂い出る。
龍司は内心 (しまった!やり過ぎたか?)とかなり焦ったが、冷静を装って返す。
「いいえ、今私は貴殿の期待に応える事のみを欲しておりますので。」
「くくく、若さだな、悪くない!」
通常、『攻め手』よりもそれに対応して技を返す『返し手』の方に優れた技量が求められるのが当然なので、龍司の申し出は『思い上がり』と受け取られて当然であった。
一度だけの『試し』の後、ヴェルーガ教官の遠慮無し、ほぼ全力に近い『攻め』がヴァリエーションを加えながら何度も打ち込まれたが、龍司は限界ギリギリでも何とか破綻なく『返し』切ったのだった。
しかし、教官の数名がヴェルーガの異様な殺気と勢いを纏った『攻め』を見て呆然と呟いていた。
「鬼だ、あそこに鬼がいる。。。。。」
その後、その『ライズ』を手本にした新兵達による熱心な稽古が繰り返し行われ、訓練終了となった。
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