第2話 不良戦士 - 2


この世界で、人間の数が中規模であるアルクレイド王国に対して数百年前から定期的に侵攻を繰り返していた魔王が統べる王国グランダークという魔族の国が存在する。


これまで、戦力がほぼ拮抗していたために侵攻と防衛を繰り返していたが、現在、人間側の異世界からの召喚技術が発展して、アルクレイド王国では多くの勇者グループを整備することが可能になった。


それに対してグランダークでは、魔王の代替わりと共に反乱が起きて、派閥による大規模な分裂によって著しい戦力ダウンが生じているという情報がこちらにも回ってきている。


この最大のチャンスを利用して、アルクレイド王国は魔王国家グランダークへの大攻勢を仕掛けようとしているらしい。


一般的に知られている以上のこの世界に関する情報をなぜか、ただの戦士である水城龍司は他の転生者達に比べて数多く掴んでおり、それには理由があった。


この世界に転生してきて約2ヶ月が経過した龍司は、密かに独自の情報収集コネクションを作り上げていたのだ。


特に、約1ヶ月前に偶然出会い契約を結ぶ羽目になった精霊との関係が龍司の情報収集の効率化に拍車を掛けたのである。


当然その事は、王族関係や勇者仲間達には完全に伏せている。


実態の掴めない世界の隠れた意図に踊らされないためには、無知を装ったままできる限りの背景を掴んでおく必要があるのだ。


龍司の元いた世界でも、西洋などの歴史書を読めば、個人が愛国心や支配者への忠誠心のために無駄に使い潰されてきたという事実を確認する事ができる。


それなりに読書に親しんできた龍司には、形態的には中世時代に近く見えるこの世界のシステムがその歴史的記述に被って見えたのだ。


『召喚され、その優れた能力から優遇されている勇者達も、この中世的システムの中では決して安泰ではない。』


これが、龍司が情報収集と知識からの考察で生み出した結論である。


それでもとりあえず、得体の知れない魔界王国グランダークに比べれば、対応可能なこの人間社会であるアルクレイド王国の中で、それなりに上手くやるべきだとこの時は、龍司も思っていたのである。



少なくとも1週間後の、想定外すぎる出会いまでは。。。

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