将来へ

動点t/ポテトたくさんの人

超短編

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石川啄木

 不来方のお城の草にねころびて

 空に吸われし

 十五の心           

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「俺、あの子に一目惚れしちゃったんよね。」


そう、一目惚れをしたのだ!…とは言っても俺には告白する勇気も、なんなら話しかける勇気すらない…。臆病者だ。


「んじゃ僕が取るぞー。」


「ダメだ…!それは…!俺の…もんだ!」


「もう告白だろそれ。」


そうか、彼女は高嶺の花。狙っているやつも多くない。…俺が先行しないと、負ける。


でも…俺にはまだやることがある。


それは、大好きな文学に打ち込むこと。


夏目漱石に森鴎外、その他の文学者の作品を読み漁っては思いに浸り、はたまた歌の勉強を…。


俺は将来、文学で食っていくんだ。



________


「あの…俺と昼飯食いませんか?」


「いいわよ。ささ、いこうよ。」


俺の目標、達成。これを言うのに1週間かかってしまった。


しかしこれでも大きな前身。嬉しい限りである。


俺の恋…いつか実るかな。不安である。



_______家に帰って


「お母さん、応募した歌のやつどうだった?」


「そう…優秀賞とってたわよ!すごいわねほんと。雑誌にも載るみたいよ。」


「え…!ほんと!やったぁ!!!!」


嬉しすぎて家中飛び回った。

努力していてよかったと心から思った。


自分の好きなもので結果を出せることがなにより嬉しいことだ。


こちらも一歩前進。このままの波に乗っていこう。


その後、お姉ちゃんとお父さんにも、自慢話をした。



_______


「はぁ〜、授業なんかつまんねぇや。」


自分のやりたいことをやりたいときにしたいのに、なぜ授業なんかあるのか。

邪魔しないでほしいもんだ。


もうこの世界、文学で埋め尽くしたいくらいだ。


疲れた。もう学校を抜け出そう。


「先生、つまらないので帰ります。ではさようなら〜。」


教室を出た時、教師含むみんなの顔が唖然としていたのが少し、見えた。



________


猛ダッシュで正門を乗り越えて、追いかけてきた先生をまいた。そして通学路から少し逸れた、街を眺望できる小さめの山に入った。


「せっかくだし、登ってみるか。」


そう高くないので、すぐ頂上に辿り着けた。



「うおーーーー!!!!この眺め素晴らしいなぁ!」


歩く人々がギリギリ見えないくらいの高さで、小さく車が走っている。


街全体を見渡せるのかというくらいの見晴らしの良さ、自然豊かで、心地よい風の通り道。ふんわりと自身を照らす太陽。


あまりの心地の良さに、少しだけ茂った草に寝転んだ。


あぁ…地面と一体化しそうだ。


と、目を開けてみると、そこには広大な青空があった。


やわらかい様々な形の白が、かっちりした空一面を塗り尽くす青とが混ざり合わずに共存している。

そこに小さな生物も浮かべてみてもいいだろう。


あぁ…なんで綺麗なんだ。


恋愛成就の不安も…、将来への自分の不安も…、全部空に吸われていく…。


心が浄化されゆくその感覚が心地良すぎたあまり、いつのまにか意識も空に吸われていた。



________


「…ん、あ…あぁ、寝てたんだ。」


重い体を起こしてとりあえず前を向いた。


「よし。」


と一言、そして、


「やってやるぞぉぉーーー!!!」


と叫んだ。



これからは胸張って、自分の中の二大不安を消し去るくらい元気に生きていこう。


そして両方とも実らせるのだ!


そう決心して、家路についた。

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