12 中毒

「お兄ちゃん起きてー(ユサユサ)」

「むにゃあ?」


揺らされてる感覚で、僕の意識は覚醒する。


「はっ! しらないとこ! ここどこっ!?」

「体育倉庫だよっ」

「あっ、思い出した」


授業中、閉じ込められて寝ちゃってたんだ。


「僕、何分くらい寝てたー?」

「ここに凸してから五分くらいユサユサしてようやく起きたんだよっ」

「なら大して落ちてないなぁ。まだ授業中かぁ……こらっ、授業中だぞリノちゃんっ」

「凄い切り替えの早さっ。だ、だってぇ……お兄ちゃん、もう片方の体育倉庫に来ないから……」

「そっちにいたのかぁ」

「まさか、もう片方のこっちに仕掛けてた鍵閉めトラップをお姉に使われるとは思わなかったよっ」

「シノさん?」

「ぅぅ……狙ったわけでは……」


何故か僕とは目を合わせないシノさん。

寝る前の記憶が曖昧だが……何か僕、失礼な事したっけ?

心当たりしかねぇな?


「寝る前に僕、何か言ってた?」

「どうなのお姉!」

「……と、特に何も言ってませんでした」

「絶対なんかゆってるやつぢゃん!」

「まぁまぁリノちゃん、口に出すのも恥ずかしいド下ネタかもしれないだろう?」

「お兄ちゃんに下ネタ言われるなんて羨ましいっ、許さんっ!」

「この妹は……」

「どんな時でも目の前の女の子を不快にさせないのがお兄ちゃんだからねっ。きっとお姉好みな俺様系キャラで言ったんだっ」

「俺様系? つまり僕は『俺に抱かれろよ』みたいな事言っちゃったの? 俺様系好きなのシノさん?」

「か、勝手に話を発展させないで下さいっ」


ぷりぷりと怒った彼女は、それから会話に加わろうとしなかった。

その後、リノちゃんを自分のとこに戻らせ、僕らは授業終わり間際に何食わぬ顔でグラウンドの方に戻って……



で、放課後。

学校から少し離れた場所の道路脇にて……


「あははっ、私の連絡先は貴重だよー? 簡単には教えないんでっ」


あらら。


「デジャヴかな? まーたリノちゃんが男達に絡まれてるよ。助けなきゃねっ」

「大丈夫です。見ていて下さい」


シノさんに手で制される。


「さっき体育倉庫でイジられたお返し?」

「人をなんだと思ってるんですか……いいから、心配ありません」


ホントかなー。



「ガード固いなぁ(笑)別にウザイくらい連絡しないから(笑)とりあえずカラオケいかね? (笑)」

「えー、でもウチー、親が厳しくてー。登録した連絡先もLINEもー、親が逐一確認してるんだよねー」

「別にそれぐらいならさぁ(笑)」

「もし本当に連絡先知りたいんならー、パパと面接しなきゃだよー? あっ、因みにこれウチのパパねー(スマホすっ)」

「えっ……?」



「男くん達青ざめてるけど、どんな画像見てるの?」

「恐らく……(スマホスッ)これ系の画像かと」

「スキンヘッドで顔に傷のある強面のおっさん……がどうしたの? パパなら面接して気に入られれば連絡先ゲット出来るんでしょ?」

「貴方はノータイムでそういう判断をするのかもしれませんが……」



「ま、まじで?」

「あはは……ちょ、ちょっと考えるわっ、また明日なっ」

「…………はんっ(笑)」



「あらら、諦めちゃった」

「この状況には慣れていますからね」

「あ! おーいっ」


こっちに手を振りながら駆け寄ってくるリノちゃん。

数時間ぶりの三人での集合だ。


そう、集合。

僕らは別々に学校を出て、指定の場所で集まろうという話になっていた。

実は朝も、マンションからは僕だけ先に出て登校していたり。

まぁわりとガバガバな作戦。

こうして結局集まるんならバレるのも時間の問題だが、その時はその時だと。

適当過ぎる。


で。

ついさっき、そこらで僕とシノさんが合流、直後、リノちゃんがナンパされてるシーンに出くわした、という流れ。


「おのれ貴様ー、昨日は僕の前でか弱いフリをー(頭グリグリ)」

「ぐわーっお慈悲ーっお慈悲ーっ」

「目立つんでやめて下さい」

「全く。てかさっきの二人、ウチらと同じ学校の制服着てたよね。知り合い?」

「さー。同じクラスって言ってたけど、転校したばっかだしね。男子は当然として、いつも話してる女子の名前すら曖昧だよっ」

「転校したばっかって、君らもう一か月以上学校に居るでしょや。まぁ僕はそれ以上居るのに(クラスメイトの名前を)覚えてないけどな、ブヘヘ」


しかし、改めて、凄い子達だなぁ。

そんな短い期間の間に、シノさんは学力テストやら運動部の助っ人で、リノちゃんは絵画コンクールなどで結果を出し、しっかりと存在感を出してるんだから。

住む世界が違うとはこの事だ。

僕は昨日から同じとこに住んでるけど。


「因みに、さっき彼らにはどんな画像を見せていたんだい?」

「んー? これっ」


かざされたスマホには、先程シノさんが見せてくれたヤーさんみたいなおっさんが。


「へー、これが君らのパパンかー。アレだね、二人ともママンの遺伝子が強いんだろうね」

「え? あははっ、違うよお兄ちゃんっ、この人はアイドル時代のマネージャー? 的な人で【花山さん】。パパの知り合いだよっ。コワモテだから優秀なボディーガードにもなってくれたんだっ」

「なぁんだ」

「パパはもっと怖い顔してるけどねっ」

「へぇ。まぁ、だったとしても、だ」

「うん?」


首を傾げるリノちゃん。


「君のさっきやったナンパ回避技には穴があるぜ? もし、花山さんやパパンが怖い人と知ってなお、諦めないような根性のある男なら……どーすんだ?」

「あー、それ?」


傾げた首を戻すリノちゃん。

既に、その答えは本人の中で用意されていたようだ。


「なら、こっちも真摯に対応するよっ。『もう席は埋まってまーすっ』て」


ニコッと、彼女は笑う。

本気には、本気で。


「まぁ確かに、それが一番だね」

「でしょー?」

「ああ、考えたら僕も、君らのご両親には挨拶しなきゃだね」

「まぢ?」

「嫌な予感が当たりましたね……」


何故だか渋い反応を見せる姉妹。


「おかしな話かい? 本来なら連絡先を聞くだけで面接なんだろう? 同棲なんて何段飛ばしだい。義理ってもんがあるべ?」

「いや、ほら……面接ってのは体よくあしらう為の方便でね? そりゃあ、挨拶は『然るべき時』にはして欲しいけど……(指イジイジ)」

「何しおらしいとこ見せてんだ。いいかい? 僕はご両親からすりゃ『どこの馬の骨』だ。だけど挨拶すりゃあヒトとナリが判明してただの『馬の骨』になるわけ。悪口言われるんなら僕を知ってからにして欲しいね」

「どういう拘りですか……」

「い、いや、お兄ちゃんはどこの馬の骨じゃなく、普通にパパとママに会った事あるよ。言ったかどうか忘れたけど、そもそもウチらの両親同士が知り合いだからっ」

「君ら二人すら忘れてたのに僕が君らのパピーマミーの顔覚えてるわけがないぜっ」

「自慢げに……」

「というか話は通ってるのっ。『あの子なら娘二人任せても大丈夫』と快く了承されてるのっ」

「はぁ? 僕の何を知ってるんだよっ。一言いわなきゃ気が済まねぇっ。今から行こうぜっ。」

「面倒くさい人ですね……」

「明日ねっ、明日っ。ほらっ、今は夕飯の買い物に来てんでしょっ」


目の前を指差すリノちゃん。

言い忘れていたが、ここはスーパーマーケットの前だ。


「うー、モヤるなぁ。せめて電話っ、明日伺う電話させてくれっ」

「後でっ。家に帰ったらねっ」

「菓子折りっ。礼儀としての菓子折りっ」

「マナーという中毒にかかってますね……」

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