9 官能小説
お昼休み。
文芸部部室でバトルが始まりそう。
「◯すぅ? 生徒会長さんがそんなセリフを生徒に吐いて良いんですかぁ?」
「いいんだよ。お前は私の心の平穏の為に◯んどけ」
「正体現したねっ。これで貴様の天下も終わりだっ。今の暴言録音したぞっ。校内放送で流して本性バラしてやるっ!」
「おーおー勝手にやれ、どーせ辞めるつもりだったんだ。代わりにそこの奴家に連れて帰るからな。なんなら出るとこ出る(警察呼ぶ)ぞ」
「上等だよお義姉さまよぉ!」
「やめてっ、僕の為に争わないでっ!」
……って。
「この台詞、今回ばかりは使い所あってるよね?」
「んんんんっ、ごめんよお兄ちゃん不安にさせてぇ! (ギュッ)」
「テメェこら引っ付くな!」
「ヨミちゃん、(校内放送で)呼び出されてるでしょ? 後でまた連絡するから」
「……ちっ、命拾いしたなクソ女」
「わははっ、それじゃあ遠慮なくお兄ちゃんを味わうよっ」
「おい、その女が変な真似して来たら首へし折れよっ」
バダンッ!
ヨミは勢いよく部室の扉を閉めた。
廊下に、その瞬間を見てた他の生徒が居なきゃいいけど。
「もー、ダメだよリノちゃん、ヨミちゃんはブラコンなんだから」
「はーいっ。小姑になるんだから仲良くしなきゃねっ」
ソファーにはスペースがあるのに、リノちゃんは僕の太ももの上に座って抱き付いてくる。
僕の太ももにはお尻、身体には胸を押し付けてきて……この子の警戒心の無さは不安になるレベルだ。
他の男の前ではガードが硬い、と思いたい。
「にしても、学校では(触れ合い)我慢するって話じゃ?」
「私には無理だと学習したよ、半日も耐えられなかったー。今までは耐えられても、いざ昨日今日と大量摂取したせいで中毒者(ジャンキー)になったんだよ。お兄ちゃんのせいだ」
「ごめんね」
「許すー(ギュッ)」
まるで人懐っこい犬のようにバウバウと身を擦り付けてくる。
二日目でこの距離感だもの。
「お昼はちゃんと食べた?」
「んー、どうだったかなー、記憶にないんだよねー。学校に来てから三大欲求は性欲しか働いてない」
「性欲だけじゃお腹は満たされないぜ?」
「でも別に今も空腹感無いし、それどころか色々、主に多幸感で満たされてる感覚があるんだよねー」
「もしかしたら君は、性欲の摂取だけで生きられるのかもしれないな」
「サキュバスだったかー。ならお姉もだねー」
「巻き込むな巻き込むな」
……ふと、廊下の方から話し声。
『さっきまでこの辺にリノちゃん居なかった?』
『見たけどどっかに消えちゃったな……』
『仲良くなりてーよなー、ああいう元気っ子と』
『お前、どうせエロい事しか考えてねぇだろ? (笑)』
『うるせぇ(笑)なんかそういう知識なさそうだよな』
『純粋って感じだからな。俺が一から優しく教えてやりたいわ(笑)』
……成る程。
「そういう知識はなさそうだってよ、このサキュバス」
「むふふ、みんなの前で本性見せて幻滅させたいねぇ」
「シノさんに迷惑掛かるからダメよ」
「お姉と私どっちが大事なのよっ」
「じゃあ僅差でシノさん」
「くそッ、身内が最大の敵だったかっ」
「これからのご活躍をお祈りしています」
「未来に期待、つまり身体のエロさの差だけって事だねっ、すぐに追いつくよっ」
「この流れ昨日もやったなぁ」
多分明日もやるぞ。
「しっかし、どうしようかなぁ。お兄ちゃん成分を我慢出来るのは、学校がある日はお昼までが限界だよっ」
「我慢出来てた?」
「というわけで、明日もお昼ここに来るよっ」
「それはいいけど、普段はお友達とご飯を食べたりしてたんじゃ?」
「してたけど、どうせ高校生活三年間だけの仲だからねっ」
「ドライだなぁ」
「お兄ちゃんはお友達と食べないの?」
「オトモ……ダチ……?」
「言葉を覚えた悲しきケモノのように……! ごっ、ごめんっ、なんでもないからっ」
おーヨシヨシと頭を撫でられた。
なぜ哀れまれたんだろう?
「でも君の場合、なんて言ってお昼に教室を抜けてくる気だい? 男に会ってくるって?」
「言いてぇけど、あーしの影響力考えたらなぁ。教室が阿鼻叫喚になるぜ。取り敢えず『新作仕上げるから部室にしばらくこもる』とか言っときゃ疑われんでしょ」
「あ、なんか表彰されてたね。美術部だっけ?」
「違うけど、なんか個室貰えたんよ」
「実在したのか……そういう、漫画みたいな贔屓される存在」
「当初はそこにお兄ちゃん連れ込んでアレヤコレヤしようと画策してたけど、その必要は無いねっ。ここのが広いしソファーもあるしっ」
「こらこら、神聖な文芸部室で何をする気だ」
「そーいやここ文芸部だったね。……お?」
リノちゃんが僕から下りて、本棚までトコトコ歩いていく。
「これ、私の本じゃんっ」
「なにぃ?」
彼女は一冊のライトノベルを引き抜く。
僕が買ってるシリーズもののやつだ。
登場人物は、カッコいい年上お兄ちゃんな主人公と、久々に再会した一途な年下幼馴染がヒロインなラブコメ。
「知らなかった? 金稼ぎにテキトーにラブストーリーを書いたら大賞取ったやつだよ」
「元アイドルで美術と文学の才能もある美少女とか盛り過ぎだろ……」
「ま、殆どノンフィクションだけどねっ」
言いながら、彼女は本を棚に戻す。
「つまり、この物語は実際の出来事って事かい?」
「執筆時はキャラと現実の年齢が違ったけど今は追い付いたかな。名前とか細かい時系列、まだ実際にやってないイベントはこれから『回収』するけどね」
「モデルは僕と君?」
「せやでー、よいしょ」
ボフンッと定位置(僕の太ももの上)に戻るリノちゃん。
つまり、原作通りならこれから『あんな事』や『こんな事』もやるって事か。
「なら、キャラの設定も同じって事は、僕らはガチに幼馴染?」
「一度でも遊んだんなら立派な幼馴染でしょ?」
「そっかぁ」
原作では、主人公とヒロインが幼少期に遊んだという以上の情報は開示されていない。
何故、主人公相手に恋に落ちたのか、そのきっかけは現在も触れられていない。
僕も昔、姉妹と出会っていて、遊んで仲良くなった……そう言われたら、そんな記憶もあった気がする……が。
それ以外、僕の中から、当時の記憶がポッカリ抜けているのだ。
今後の新作で、リノちゃんが過去編を執筆するのかどうか……それこそ、彼女の気分次第だろう。
「よおし、なら私も文芸部に入ろう。今まで何にも入ってなかったし丁度良い。プロが入れば部にも箔がつくでしょ?」
「それはいいけど、ちゃんと活動する?」
「文芸部の実態なんて、創作でよくあるお茶飲み駄弁り部っしょ?」
「文学を舐めやがってっ」
「てかお兄ちゃんは普段どんな活動してたん?」
「本読んだり小説サイトにちょこちょこ上げたり、立派に文学やってるぜ?」
「それで許されてたなんて、流石、生徒会長に贔屓されてる部だぁ……」
キーンコーンカーン
おっと、昼休み終了のお知らせだ。
「サボらない?」
「サボらない」
「もー、まじめー。学園祭辺りに出す官能小説の造詣でも深めようと思ったのにー」
「例えば?」
「『私、官能小説書きたいんですけど、その……経験が無くって……だから……(脱ぎっ)』的なエロ小説あるあるシチュを二人で再現して登場人物の気持ちを識る、みたいなっ」
「あ、なんか楽しそー。でも学園祭で官能小説通るかなー」
「文学と官能は切り離せないんだぜ?」
リノちゃんなら教師を言いくるめられるだろう。
生徒会長の審査は突破出来ないだろうが。
「……やはりここでしたか」
「おー、お姉」
シノさん、来るのが遅かったね。
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