8 ひざまくら
お昼。
文系部の部室にて、僕は二人掛けソファーに一人座り、目の前のテーブル上にお弁当を広げる。
この時だけは、『周りからの視線』も無く、落ち着いて過ごせる至福の時間。
視線……
思えば、今日一日は、普段とは違った視線を味わえて、新鮮だった。
シノさんの場合、普段『ジロッ』とキツく感じていた視線も、なんだか柔らかくなったような気がしたし。
リノちゃんの場合、普段どこからか感じていた視線が、実は彼女のものと判明、すれ違い様に「ぅーぅー」とゾンビのような声を漏らされた。
僕と遊びたいのを我慢してるのかな?
兎に角、学校がこれから楽しくなりそうな予感。
「いただき」と、お弁当に手を合わせた僕。
そんな時、丁度、廊下の方から話し声が。
『ああ、私は少し野暮用があるんでここで』
『手伝える事であるならお供しますよ会長っ』
『いや、いい。個人的な事だ。理解(わか)るよね?』
『……はい。では、何かあれば生徒会室の方にいますので』
『ああ、よろしく。…………、…………』
ガチャ
スタスタスタ
「おい、説明しろ」
「まーすっ。弁当の中身は……わぁ、ハートのさくらでんぶっ。あの子(リノ)何かしてるなぁと思ったけど、粋な真似するねぇ」
「おい」
「うん?」
声のした方を見ると、生徒会長様がいた。
その金髪は怒ってる猫のように逆立っていた。
「どしたー?」
「なんでケータイ出なかった?」
「めっちゃオニ電来てたりLINE来てたら、なんか怖いって思うじゃん?」
「はぁ……もういい」
どすんっ。
生徒会長様が、僕の隣に座った。
「ヨミちゃんのご飯は?」
「別に良い」
「おにぎり食べる?」
「誰が握った?」
「僕」
「……なら、食う」
後で小腹が空いた時用のやつだったが、可愛いこの子の為だ。
ヨミがおにぎり(筋子)を一口食べた後、
「(モグモグ)……で、昨日は何があった?」
「色々あってねー」
アスパラベーコン巻きを口に入れた後、僕はかくかくしかじかと出来事を話す。
リノちゃんとの出会い、家へのお呼ばれ、引越し業者、シノさん、そして姉妹とのホニャララ……
話し終えると、彼女は頭を抱えていた。
「それ……ふつーに拉致監禁じゃねぇか。分かってんのか?」
「だよねー。でも新生活へのときめきが勝(まさ)ったよ」
「相変わらず流されすぎなんだよ。どーせあのデカい乳に釣られたんだろ?」
「男は下半身で物を考えてるからねぇ……ふぅ……ごちそーさま。なんか半分以上のおかずを君に食われたから腹五分目だよ」
「我慢しろ。……寝るぞ」
「どぞー」
ゴロン
二人掛けソファーに寝転がるヨミ。
頭は僕の太ももの上。
「そんなに不満かい? ママンはなんかOKしてくれたっぽいじゃん? 僕より先に」
「頭おかしいんだよあの親は。そこはしっかり、お前に受け継がれてるし」
「部屋の家具まで移されちゃあ、すぐに戻るのも勿体ないでしょ。飽きるまで楽しませて貰うよ」
「それこそ『アイツら』の思う壺だっての。……だから言ったろ、関わるなって」
「それ言ったのいつの話よー。君はどこまで『知ってる』んだい?」
「言わねー」
それは、自分の為にか、僕の為にか。
僕はヨミの頭を撫でる。
今更、彼女は何も言わない。
この気まぐれな猫のサラリとした金色の髪質は、あの姉妹にも劣らない。
普段の僕のケアの賜物だな。
「全く。君はブラコン過ぎるぜ。彼氏の一人でも作って安心させておくれ」
「いらねー」
「まぁ精神的にも肉体的にも愛情的にも収入面的にも、僕の納得いく相手の男じゃなきゃ認めんぞー」
「それが一番厄介だろ」
どこぞの馬の骨にはやれん。
「はぁ……生徒会はもう辞めるわ。飽きた。次の選挙の時期で引退だな」
「折角みんなの信頼勝ち取ったのに、勿体ない。何か得る物はあったかい?」
「さぁな。頂点取ったところで、所詮は学生レベルだよ。辞めたらここでダラける。その為に、ここ(文芸部)は生徒会権限で整えたんだ」
「生徒会特権(それ)って実在したのか。部員が一人なのになんか待遇良いなと思ったら」
「いっそガッコーもやめるかー。お前も道連れな」
「完璧生徒会長から一転しすぎだろ。しっかし、君が辞めたら騒ぎになるだろうねー」
「どうでもいいわ。副会長が継ぐだろ」
「あのイケメンと話題の?」
「そうなのか? 知らんけど。てか辞めたい理由に、アイツの私を見る目がキモいのもあるんだよなー」
「マジ? ◯す?」
「お前も大概シスコンこじらせすぎなんだよなぁ」
ブブブ…… ピー
『生徒会長。至急、生徒会室の方までお願いします』
「お、校内放送で呼んでるよ」
「面倒くせぇなぁ……別に、私が居なくても解決出来んだろ……」
と、文句を垂れつつも、身体を起こすヨミ。
真面目な子だなぁ、僕とは似てないなぁ。
「週一……いや、週五はウチで夕飯食いに帰って来い。それなら許してやる」
「それじゃあ引越した意味が無いよ〜」
なんて、イチャついてた時だ。
バンッ!
と勢い良く部室の扉が開かれ、
「ええい! もう我慢出来ねぇ!」
リノちゃんが飛び込んで来た。
興奮した様子の彼女は、僕のそばに居るヨミを見るなり、
「……あら、お義姉(ねぇ)様、うふふ、いらしたんですねぇ」
「◯すぞ」
やだ、女のバトルが始まっちゃう。
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