1 シノとリノ(過去編)
……ん?
授業中、彼女と目が合う。
けれど、すぐに逸らされた。
多分、気の所為じゃあない。
最近……いや……彼女が転校して来てから、その視線は感じ続けている。
自意識過剰では無いと思う。
会話はゼロだから、気に障るような事はしてない筈だが……。
転校生の彼女、シノさんはすぐに人気者となった。
銀髪ハーフ、人当たりの良さ、文武両道、その美貌とプロポーション。
そもそも、トップアイドルだったが、人気絶頂の中、突然の引退。
盛りに盛り過ぎな設定だが、現実に存在する生き物。
彼女が人気にならない理由が無い。
休み時間となると、彼女の周りには常に人がいる。
今は放課後だが、その輪は健在。
シノさんと帰りたいという者は多いようだったが、彼女は丁寧に断っていた。
(今日部室の方には……いいか、行かなくて)
そんな事を考えつつ遠巻きに彼女を見ていた僕は、『大変だな』と感じながら、教室を出る。
背中に、いつもの視線を感じながら。
「こ、困りますっ」
帰り道、女の子がナンパされていた。
若い男二人組。
どうやら言葉の通り、困り顔。
助けてあげよう。
「ねぇ君、アイドル『シノリノ』のリノちゃんでしょ? なんでこんなとこに? まぁいいや。遊び行こうよ(笑)」
「連絡先教えて(笑)」
「そ、そういう困りますっ」
「……(ジー)」
「そんな怖がんなくていいから(笑)」
「シノちゃんも呼ぼうよ(笑)」
「い、いい加減にして下さいっ」
「……(ジー)」
「……………………なぁ、さっきからお前、なに? (怒)」
「ジロジロ見て何か文句でも……って! お、おいっ、コイツ、まさか『噂』の!?」
「噂って……も、もしかして『あの』!?」
「ああ……『見た目』からして間違いねぇ……に、逃げるぞっ」
「リノちゃん置いてくのかよ!?」
「庇ってる余裕なんてねぇ! 行くぞ!」
タッタッタッタッタ……
男二人組は去って行った。
噂って何?
よく分かんないけど、『喧嘩最強』とか『暴走機関車』みたいなカッコいい噂が広がってるんだろう。
ホント身に覚えがないけど。
「災難だったね君。気を付けて帰りなよ。それじゃ」
僕が何かしたわけじゃあ無いが、解決したのでヨシ。
僕はその場を去ろうと グッ した時、手首を掴まれる感覚。
「ん? なに?」
「あ、あのっ、えへへ、助けて頂いてありがとうございますっ」
僕を引き止めたのは、今し方助けた(?)少女。
はぁはぁと、頬をあからめ、興奮したように息を荒げている。
いや、興奮ではなく、今更ながら恐怖がどっと押し寄せて来て、何とか呼吸している状態なのだろう、可哀想に。
というか。
よく見れば、『彼女もまた』、銀髪美少女だ。
そりゃあナンパされるのも分かる。
さっきの会話だと、この子もアイドルだって?
僕の周りにはアイドルが多いなぁ。
「いや、気にしないでいいよ。実際何もしてないし。それじゃ」
「お礼させて下さいっ、是非とも今からウチに!」
「めっちゃグイグイ来るじゃん」
ギュー! 腕に抱きつかれた。
彼女の豊満が母性が形を変えるほどの密着力。
ギチギチという音が聞こえ、最早関節技に近い。
予定も無かったので、彼女について行く事に。
知らない子について行っちゃダメと親に教わったが、なんかお菓子とお茶頂くだけだろうし平気平気。
彼女……リノちゃんは、あれから腕の抱擁を離そうとしない。
まぁ、それは別に良い。
不安から来る行動なのだろう。
周囲の視線は気になるけど。
「私っ、お兄さんと同じ学校なんですよっ。明日からグイグイ絡みに行きますねっ」
「ほんとにグイグイ来るじゃん」
「うふふ、あそこでナンパされて良かったぁ。お兄ちゃんと仲良くなれたからっ」
「呼び方含め親密度が秒単位で上がって行くなぁ」
「あ、あの、それで……」
リノちゃんは急にもじもじとし始めて、
「私の事、覚えてたりする?」
そんな事を、訊いてきた。
「えーっと……その言い方からして僕ら、知ってた仲、だって事だよね。悪いけど、昔会ってたってんなら、その内思い出すと思う」
「ううんっ、いいのいいのっ、大した事じゃないしっ」
本当に、彼女はそこまで気にした様子じゃ無かった。
ふぅむ……リノちゃんの勘違いでなければ、僕らは既知の間柄らしい。
思い出話なんかを聞ければ、ふとした時に思い出すかもしれない。
いや……でも……
心当たりは無いが、この子と、そして『あの子』を見た時に、僕の中で、デジャヴに似た感覚があったのは確かだ。
夏休み……田舎に帰省……謎の外人幼女と遊んでそれきり……十年後にバッタリ学校で再会し……
と、いうのは、僕の憧れのシチュである。
はて? 外人幼女……
思えば昔、そんな友人が居たような? 居なかったような?
それから少しして、リノちゃんのお宅に到着。
目の前には高級マンション。
「えへへ……今日両親は居ない……というか、両親とは離れて暮らしてるの……」
めっちゃグイグイ来るやん。
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