元アイドルでクラスの人気者で銀髪ハーフでよく僕を睨んでいて幼馴染で同棲していて元カノで
月浜咲
プロローグ
「ナンパされて困ってる女の子を助けたら実はその子が疎遠だった幼馴染の妹、でさ」
「え? はぁ」
「その幼馴染は海外の血を引く銀髪(巨乳)美少女で、クラスの人気者な上文武両道、更には元アイドル」
「はい」
「昔はあんなに主人公と仲が良かったのに、今は態度が冷たくって、目が合うと『フンッ』と逸らされて」
「そうですか」
「でも、その子の妹を助けたのがキッカケで、二人の止まっていた歯車は再び動き出す……」
「へぇ」
三つ編みの片っぽを片手で弄るシノさん。
「こういう話書けば、PV伸びたりしないかな?」
「どうでしょうね。色々と話の都合が良すぎだと思いますが」
「設定盛り過ぎ?」
「ですね。胸焼けがします。というか、既にありふれてるのでは」
「んー……今書籍化してる作品の要素をこれでもかと盛って見たんだがね。まぁ異世界や異能要素は除いたけど」
「文才がある作家さんであれば上手く料理出来るでしょうが、貴方にそのような腕が?」
「書いてる内につくでしょ、力(リキ)」
「はぁ……まぁ好きにすれば良いのでは」
ここは文芸部。
いや、部じゃなく、同好会?
部員三人だけだし。
確か部は五人からだっけ?
そんな同好会なのに、そこそこまともなクーラー付きの部室を貰っている。
入部希望者は、シノさんと『もう一人の部員』目当てな奴で多いが、今の所受け入れてはいない。
時刻は放課後…………僕らが校内で、まともに話せる時間。
「作家になってのんびり暮らしてぇなぁ」
「大変な仕事だと思いますよ、物書きは」
「それは『見てれば』分かるけど、文芸部としてその諦めはどうなん?」
「私は別に物書きを目指してませんからね。読む専です。貴方は書くのが好きなんですか?」
「そうでもないかな」
「この会話中身が無さすぎでは」
「中身のある会話とは?」
「夕飯のメニューとかあるでしょう」
「文芸部から遠ざかってくなぁ。でも僕はこうしてシノと中身の無い(僕はあると思ってる)会話するの好きだよ?」
「はいはい」
会話をしながら、シノさんは一度も本から視線を逸らさなかった。
手にあるのはライトノベル。
部に入るまでは手にした事すら無かったようだが、僕のおすすめの日常系(エッチな描写多め)マンガやラノベをいくつか貸してやったら、そこそこ気に入ったようだ。
「チ◯ちゃん」
「シノです」
「だって君、成長した◯ノちゃんみたいに見えるから……」
「だからと言ってそう呼ぶのは違うでしょう」
「コーヒー淹れてくれよ、サイフォンとか贅沢言わんから」
「自分でやって下さい。ああ、やるのならばついでに私のも。ブラックで」
「うぃー」
僕は椅子から立ち上がり、ポットの方へ。
ここにはいくつかの飲み物をストックしている。
お菓子好きな『もう一人の部員』が主に用意したやつだが。
それぞれのマイカップにインスタントコーヒーの粉末を入れつつ、
「そーいや今まで何となく訊かなかったけど、部室に来たら『見た目変える』のはどうして?」
「……そこまで変わってますか、見た目」
「話し方もね。教室じゃあ普通のキャラだし、ストレートヘアーだし、眼鏡もかけて無いし」
「話し方は戻してるだけでしょう」
「まぁ素は(チ◯ちゃんと同じ)敬語キャラだけどさ」
シノさんは癖のように『銀髪』の三つ編みをイジる。
まぁ困った時に髪をイジるのは彼女の癖だが。
コポポポ……
彼女のカップにお湯を注ぐ。
僕のカップには半分までお湯を入れ、冷凍庫から氷を取り出し カララン アイスコーヒーに。
「……ただの気持ちの切り替えですよ。形から入ってるだけです」
「文芸部スイッチか。僕が前に『文芸部女子は三つ編み眼鏡が嗜みだぞ』って言ったの素直に実行してるのかと」
「自意識過剰です。たまたまです」
「そっかぁ。はい、コーヒー」
「ありがとうございます」
ラノベを閉じ、机に置くシノさん。
それから、コーヒーを一口。
「……気に入りませんか?」
「あん? 何が?」
「なんでもないです」
「変なのー」
放課後の気怠い空気。
眠くなりそうなのを冷たいコーヒーでシャッキリさせる。
シノさんと二人きりという希少な時間を、居眠りで過ごすのは勿体なさ過ぎる。
「ほんと、贅沢な時間だよねー。なんか、君『ら』をこんな生産性の無い空間に縛り付けてるのがホント贅沢」
「なんですかその安い悪役のような言い回しは」
「だって、君『ら』は頭も運動神経も良いし、器用で人望もある。生徒会や運動部、音楽美術演劇などの文化部……みんな喉から手が出るほど欲しい逸材だ。君なんかはチアとかの応援系で、その華を活かすのも良いだろう」
「なんなんですが急に、誰に説明してるんです」
「なのに、この文芸部は何だ? 彼女『達』を持て余してるんじゃないか? 宝の持ち腐れじゃないか? お前は彼女『達』とどういう関係なんだ?」
「誰目線で話してるんです」
「いや、前ここに来た生徒会長が言ってたじゃん、そんな事を」
「生徒会長……顔が思い出せませんね」
「イケメンでモテモテって話なんだがなぁ。それで、僕が彼に言ったセリフを覚えてるかい?」
「『俺が自分の所有物(もん)どう使おうが勝手だろ? 部外者は黙ってろ』でしたっけ」
「それは覚えてんのかよ、怖いなぁ」
僕は頭を掻き、
「アレは場を和ませようと俺様系を演じただけなんだがなぁ。そしたら会長、顔を真っ赤して部室から出て行って……次の日からなんか周囲の視線がイタイイタイなのだった」
「部員を守る部長として格好良い姿を見せたのですから誇って下さい。『俺が自分の所有物(もん)どう使おうが勝手だろ? 部外者は黙ってろ』」
「なんでスマホで録音してんだよ、怖いなぁ」
熱くなった体を冷やす為にコップを傾けるも、既に中身は無くなっていた。
二杯目は……別に良いかな、夜眠れなくなるし。
「これまで色々やって来たので、もう慌ただしい日常は過ごしたくないだけです。気楽なんですよ、ここが」
「君に帰宅部という選択肢は無かったんだなぁ。『あの時』は驚いたよ、君が急にこの部室にやって来て、」
スッ
僕が話してる途中だと言うのに、不意に、シノさんは廊下の方に視線を向ける。
まるで、敵が来たのを察知したような小動物の敏感さ。
シュルル
それからすぐ、三つ編みを解き、眼鏡を取り、『いつもの』彼女のスタイルに。
「文学少女スタイルも『お気に入り』なのに」
「……今更ですか」
「個人的には文学少女な見た目なのにスカート短めだとグッド(サムズアップ)」
「知りません」
ガラッ!
「ちわーっ、美少女のお届けものだよっ、着払いでっ」
「コレが代引き詐欺ってやつか」
「料金は愛情だよっ」
「金よりも重そうな代価きたな」
急いでやって来たのは、もう一人の『銀髪美少女』だった。
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