異文化

 彼女とイスセンスダが闘戯場へ向かう道中、背の低いカエルだかトカゲだか分からないような、石色をした奇怪な容姿の集団と擦れ違った。

 一団は彼女を横目で見るも、イスセンスダと目が合いそうになると、慌てて俯く。その様子から彼女は、この集団とイスセンスダの明確な身分の違いを察した。

 一団が通り過ぎた後で、彼女はイスセンスダに問う。


「あの人(?)たちは何なんですか?」

「石拾いです」


 それを聞いて、彼女は自分に話しかけてきた石のことを思い出す。


「言葉を話す石を集めているんですか?」

「そうです」

「……何のために?」

「資源の回収です」

「資源……なんですか? 言葉を話す石が?」

「はい」


 どういうことなのか、彼女にはさっぱり理解できなかった。その内に闘戯場の外観がはっきり見える距離まで来る。振り返れば、赤い液体の海はもう遥か遠くだ。

 闘戯場は白い円形の建物で、スケートリンクぐらいの広さがある。屋根も外壁も存在せず、円柱が並んだ吹きさらし。雨風が吹き込んで困ることはないのかと、彼女はそれとなく空を見上げた。

 ……白い空には雲一つない。それに風を感じることもない。もしかしたら、この世界では雨や風の心配をする必要がないのかもしれない。あれはあれで合理的な造りなのだろうと、彼女は納得した。


 更に闘戯場に近づくと、歓声が聞こえてきた。大勢の人の気配を感じて、彼女の心は浮つく。記憶があった頃の彼女は、スポーツを現地で観戦することが好きだったのかもしれない。

 そわそわする彼女にイスセンスダは問いかける。


「どうかしましたか?」

「いえ、中で何が行われているんだろうなと気になって」

「闘戯場ですから、戦いですよ。それも命懸けの戦いです」


 彼女の浮ついた心は一瞬で沈んだ。脳内で凄惨な戦いの光景を思い浮かべたのだ。血しぶきが飛び散り、時には内臓が飛び出すような……。

 彼女の足は恐怖で鈍る。


「どうかしましたか?」


 再びのイスセンスダの問いかけに、彼女は恐る恐る答えた。


「怖くないですか?」

「怖い?」

「命懸けってことは、死ぬこともあるんでしょう?」

「ここで暮らす者たちは、誰も退屈して生き飽きていますから」


 イスセンスダが言ったことの意味が、彼女には分からなかった。

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