石ころ

 赤への道のりは遠くはなかったが、相も変わらず足の感覚が麻痺しているようで、足元が覚束おぼつかない。そのために彼女は実際に歩いた距離よりも、長く移動していると感じていた。


 赤まで十mぐらい近づいて、彼女は赤の正体が地面だと気づく。それまでの白い砂の地面の代わりに、のっぺりとした平坦な赤い地面が、どこまでも続いている。

 これは何だろうと、彼女は赤に近づきながら、いくつかの事実を認める。この赤は朱色に近い明るい赤だ。そして、赤の周辺の白い砂の上には、やや大きな石のような物が転がっている。その石の形は様々で、丸い物もあれば、角張った物もある。

 赤に触れられる距離まで近づいて、彼女は更に新しい事実を認める。この赤は固体ではなく液体だ。しかし、触れても体が濡れたと感じない。感覚が麻痺しているからではなく、少しもベタつかない。まるで肌に反発しているようだ。試しに赤い液体に片足を浸してみると……強い反発力が働いて足が底に着かない。


(何これ)


 彼女は不気味なものを感じ、赤い液体の海から離れて、途方に暮れた。先程まで赤い液体に浸っていた足は、少しも濡れていなかった。

 全く奇妙な世界で、これから自分はどうすれば良いのか……。彼女は砂の上に体育座りして、赤と白の交わる先を見詰めながら、大きな溜息を吐く。

 そうしていると、横から何者かに声をかけられた。


「もし、お嬢さん」


 誰かと思い、彼女は辺りを見回すも、人影は存在しない。


「ぼうっとしてないで、気をつけなさい」

「……誰? どこなの?」

「あなたの足元」


 そう言われて、彼女は自分の足元に目を向けた。しかし、そこにあるのは白い砂の他は石ころばかり……。


「もしかして?」

「その通りです。あなたに話しかけているのは、この石くれです」

「意識があるの?」

「はい。今でこそこんな姿ですが、私も元はあたなのように人の形をしていました」

「どうして、そんな姿に……」

「壊されたのです。後は石拾いに回収されるのを待つばかり」


 石の話に興味を持った彼女は、その場に留まって石との会話を続ける気になった。人恋しさが彼女にそうさせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る