これは転移か転生か

 そこは彼女にとって、まさしく異世界であった。

 彼女の知る世界は、私たちと同じように赤い太陽と青い海、茶色い土と緑の植物の世界だった。しかし、ここは見る限り真っ白な世界だった。

 まず空が白い。雨や曇りの日だって、ここまで一色にはならないだろうというぐらいの白さだから、やはり「空そのものが白いんだろう」と彼女は考える。

 そして大地も白い。両の足は細かい砂のようなものの上に立っている。


 ――この時点で彼女は三つの疑問を抱えていた。

 第一は、「ここはどこだろう」。気がついたら見知らぬ世界にいたのだから、この疑問は当然だ。彼女の持っている記憶にも知識にも、こんな場所は存在しない。地上のどことも似ても似つかない。

 第二は、「私は誰だろう」。彼女は自分のことを一切覚えていなかった。出自や家族はおろか、自分が何歳なのかも、どんな容貌をしていたのかさえも。そればかりか自分が着用している白い衣服が、本当に自分の物かさえも。自分に関しては、「人間の女だ」と言うことしかできない。他のことは本当に何も覚えていないのだ。

 しかし、第三の疑問は前二つにも勝る。それは……「私の体はどうなってしまったのだろう」。とにかく彼女は自分の体に違和感を覚えていた。まるで麻痺してしまっているかのように、体中の感覚が鈍い。それでも体が思うように動かせているから、まだ良いものの、肌に触れる物が温かいのか冷たいのかも分からない。「これから自分はどうなるのか」という不安が彼女の中に生まれる。

 彼女は改めて辺りを見回す。そうすると、空の白と大地の白がずっと続く先に、赤の広がりが見えた。白、赤、白の二色三層が、遥か先まで続いている。「あれは何だろう」という疑問が彼女の中で新たに湧く。

 彼女は不安から逃れるように、赤に向かって歩きはじめた。

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