幕間 ありがとうとキミの名前

「それじゃあ納得もしてもらったところで、誕生ですねー」

 私はホロスクリーンの前に立ち、最後のコマンドを入力する。

 私のワクワクを焦らすように、円筒形の”ゆりかご“内の調整液がゆっくりと引いてゆき、外側のガラスが糸状に解け下部に収納されていく。

 貴方は本当に自分の十分を感じられる貴方だろうか。

 こんな思いつきが初めの最初から身を結ぶとは、自分でもどこか信じていない。何かの大正解で(間違ったものになったとしても間違いだとは言いたくない)、自分と今を感じることのできる貴方になったとして、貴方を生んだこの行いは私のエゴで。

 だからきっと、私を恨む貴方になってしまうのかもしれない。

 だけどヒトは究極的には自分のしたいことをするしかないから。

 決して私が与えたのではない。

 ただ私が見つけて、並べて、きっかけを傷付けただけ。

 貴方の身体と貴方の意思は元からそこに存在していた。

 私から与えるのは唯一これだけ。

 ただの我儘だけれど、これとこれを伝えるのは誰にも譲れないから。

 喜びからのはじまりの挨拶をさせて欲しい。

「生まれてきてくれてありがとう」

「私はミヤウシロ・ユイ」

「君の名前はヒダカ・オリ」

「末長くよろしく!」

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