第3話 幸せな花嫁

 学生時代からの恋愛。

 正直、終わるかもしれないと千紘は思っていた。

 現実的なことを重ねているのに、どこか夢みたいで、ままごとのような桜子と理央の将来。

 世の中の数々の恋愛の大半がそうなように、二人の関係も終わるだろう、と。


 だけど桜子は予定通り、理央の大学院を卒業した三年後の春に結婚した。一年卒業が遅れたが、最後の一年は待たせた分のお詫びと、理央は毎週のように桜子を会社の寮まで迎えに来た。『アレの時』の週末にも、会社の寮までやって来た。

 

 結婚式は県内で人気のおしゃれな式場で開かれた。

 本当は出席したくない千紘だっだが、女子の同期全員が招待されているのに、自分だけ行かないわけにはいかなかった。

 桜子はとても綺麗で可愛らしくて、飛び切り幸せそうな笑顔をしていた。理央は少し緊張していたが、優しそうにずっと微笑んでいた。

 ──理想の結婚式だった。幸せそのものだった。

 


 結婚と同時に理央は大手化学メーカーの研究員として就職し、桜子は予定通り会社を退職した。二人は理央の研究所のある神戸で、新婚生活を始めた。

 千紘はQ県の本社で働いたのちに、桜子の退職から遅れること一年、26歳の時に東京支店に転勤が決まった。実家も東京だが戻るのは色々不都合で、都内にアパートを借りて一人暮らしをしている。


 桜子とは時折ラインで近況を報告し合っている。千紘の転勤を、やっぱり千紘はすごいね! かっこいいなあ! と桜子は称賛した。

 そんなことないと、千紘はスマホの画面を見てひとり呟く。

 仕事はやりがいもあるが、つらいことも大変なことも多い。やりきれなさと寂しさを抱え、一人家で泣く夜もある。

 そんなことを何も知らずに理央に守られて、家のことをしている桜子の方がどんなにいいだろうか、と。

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