第2話せんべろ

昨日と同じ時間、センチュリーは今池のガスビルの前に止まった。

昼間、福島とLINEで待ち合わせした、地下鉄7番出口に中村は向かった。

丸々太った醜い中年男性が喫煙所でハイライトを吸っていると、

「福ちゃん師匠、お疲れ~」

福島は中村に気付き、

「ケンちゃん。タバコ吸ったら、せんべろ梯子をしましょう」

福島は灰皿にタバコを押し付けて、中村とせんべろツアーに向かった。

「師匠、せんべろって何の事?牛タン?」

「アハハハ、ケンちゃん。千円でべろべろになる店をせんべろって、言うんだ」

「せんべろねぇ。センスを感じるね」

先ずは2人は、味噌おでんの大番へ入店した。

おでんはどれも1個100円。ビールより安いホッピーを飲んだ。

「師匠、私は初めてホッピーを飲みましたよ」

「ビールより安いから、早く酔いたい人にはピッタリだね。元々ホッピーはコクカ飲料って会社だったんだよ。それが、今はホッピービバレッジになったんだ」

2人はおでんをつつきながら、ホッピーを流し込んだ。

15分後。

「ケンちゃん、一軒目終了」

ケンちゃんが支払いしてくれた。1870円だった。


2人はちょっと歩くと、角打ちの佐野屋へ入店した。

「ケンちゃんは角打ち初めて?」

「角打ちってなんですか?」

「立呑屋の事。赤星大瓶が380円で飲めるよ」

2人は瓶ビールで乾杯した。

「どうして、いい年こいた、じいさんが角打ちとか知らないの?」

「恥ずかしい話しだけど、私は3代目の経営者なんだ。高級クラブや料亭しか行ってはならないって、2代目の教育だったんだよ」

福島は口の中の白滝をクチャクチャ食べながら、

「社長ってのも、大変なんだね。僕は一生平社員でいいや」

「師匠はたしか、お客様相談室係だったよね。課長は山田だな?君の所属先は、我々は姥捨山って呼んでるんだよ。君の好きな課に異動してもいいよ」

「ケンちゃん、ありがとう。でも、今の部所が好きなんだ。クレームの大半は寂しい独居老人なんだかね」

「何時でも言ってね。異動は」

「ねぇ、ケンちゃん。腰が痛いから、河岸かえようか?」

「それが、いいね」


2人は途中、ヘパリーゼをコンビニで買いその場で飲み、三軒目を目指した。

ホルモン焼きの七福神。

ホルモン焼きと、中村は日本酒を注文し、福島はハイボールを注文した。

「師匠、ここのホルモン最高ですな」

中村は手帳に何やら書いている。

「ケンちゃん、何書いてんの?」

「店名、メニュー、値段だよ。さっきなんか、2人分で1700円だったし」

「ここは、僕が払うよ!」

「いやいや、私が払うよ!経費で落とすんだ。これも、立派な社員福利厚生費だから」

「じゃ、遠慮なく、ハイボールお代わりするね」

最後の店は、2150円だった。

しかし、明日、中村トランスポートが窮地に立たされる事をまだ知らない。

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