飲酒の鉄人

羽弦トリス

第1話出会い

貿易会社社長の中村は、センチュリーの後部座席に座り、行き先を告げた。

「君、今日は今池で下ろしてくれ」

名古屋市今池は居酒屋街なのだ。

「社長、今日はさかえのクラブではないのですか?」

「いや、前々から気になる店があってね。下ろしてくれ」

センチュリーは程無く、今池のガスビル付近で止まる。

中村は、焼き鳥専門店の前でうろうろしていた。

「なんか、不味そうな店だが煙がいい匂いがする、ヨシッ決めた!」

中村はカウンター席のど真ん中に腰かけた。

それから、焼き鳥のメニューを見るとどれがどの部位か判らずそわそわしていた。

先客の中年が近付いてきた。

「おじさん、どうしたの?」

中村は素直に、

「このネックとは何でしょうか?」

「ネック?首回りの肉だよ」

「では、キンカンは?」

「これは、小鉢でてくるけど、鶏の玉子の元だよ」

「焼き鳥には何が合うんでしょうか?」

「それはおじさん、なんでもいいけどビールが合うよ。生ビールが一杯目は美味しいよ!」


「ありがとうございます。お兄さんも隣で飲みませんか?」

「ま、1人よりは楽しいからね。おじさん、暑いのにジャケット着て!後ろのハンガーに掛けなよ」

「そうします」

「見た目はどっかの社長に見えるけど、どうせシルバー派遣のおじさんでしょ?」

「……えぇ、似たようなもので」

2人は、串を食べながらビールを飲んだ。

「おじさん。ここは焼き鳥屋なのに黒ビールがあるんだ」

「私も黒ビール好きなんです」

「じゃ、黒ビールとバクダンちょうだい」

中年は店員に注文した。

「お兄さん、バクダンってなんですか?」

「ニンニクのホイル焼きだよ!韓国じゃ、バクダンは焼酎にウイスキーの入ったグラスの酒の事を指すんだけどね」


「さすがですね。これから、会ったら師匠と呼ばせてもらいます」

中年は、黒ビールを1口飲み、

「いいよ!僕も若い連中より、おじさんみたいな乾いた老人と飲みたかったんだ」

中村はキンカンを口に頬張り、

「今日は、師匠に会えて良かったです。これから、今池で飲みます」

「おじさん、旨い店何軒も知ってるから、何時でも連絡してよ。名刺の裏に電話番号書いて置くし、LINEも交換しよう」

「LINEは今すぐ、交換しましょう」

2人はスマホをかざして、繋げた。

そして、最後に名刺の交換をした。

「私、こういうもの、、、中村トランスポート?」

「あっ!、、、うちの会社のし、社長」

「あ~、お客様相談室の福島さんですか~」

「社長って、中村賢二って名前なんだね」

「はい。師匠」

「じゃ、僕はケンちゃんっ呼ぶね」

「福ちゃん、今夜はありがとう。ここは奢ります。色んな店教えて下さい。一つだけ。会社で我々の関係は絶対に秘密にしていて下さいね」

「はい、分かったよケンちゃん」

2人は焼き鳥屋を後にした。

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