三
「茅野駅に着きました」
「・・・」
反応がなく再度つげる。
「終点ですよ・・・」
耳の奥で山彦のように響く。運転手の掛け声に、はたと心地よい夢の世界から引き戻され、目が覚めた。
「おっと、茅野に着いたぞ!」
眠気眼で周りの状況を見つつ、阿部が二人を起こす。村越らがはっとして起きる。
「おお、もう茅野に着いたのか。寝込んでしまって気がつかなかったよ」
「俺もだ。車内が温かったし、ちょうどいい揺れで、ついうとうとと寝入ってしまった。それにしても、気持ちよかったな」
すっきりした顔で佐久間が言った。キスリングザックを肩に掛け、運転手に一礼して諏訪バスを降りた。とたんに村越が満足気に呟く。
「ああ、いい気持ちだった。すっかり寝てしまった。そうだ、昼飯を食った後だったから、余計眠くなっていたんだ。それにバスの中が温かったしな」
喋りつつ、肩にかけるキスリングを背負い直し、ピッケルをぶらつかせ茅野駅へと入って行った。初日の早朝と比べ、昼下がりともなると、さすが構内は一般客が多く、むしろ登山客の姿は見られなかった。
「そう言えば、今まで鉱泉小屋以外では、ほとんど三人きりの行動だったよな。こんなに人のいるところはなかったもんな」
人混みに驚く様子で、阿部が辺りを見回した。
「そうだな、人息が懐かしいぜ」
周りの匂いを嗅ぎ村越が応じた。
「たしかにそうだ。この三日間、山ん中だったし、小屋以外ではまったく人と会うこともなく、自然だけが相手だったからな」
阿部が返した。すると思い起こすように、佐久間が付け加える。
「そうだったよな。あのぴゅうぴゅう叫ぶ風雪が話し相手だった。それもひつっこく纏わりつかれて、往生したぜ」
ひとしきり話し、登山靴を引きずって構内に入り、辺りを見回しながら切符売り場へと向かった。ダイヤを見ると新宿行は午後一時三分にあった。長野発の普通列車である。
「あれに乗って帰ろうぜ。如何せ鈍行だ。長野から来るやつだから、座れねえかもしれねえな」佐久間が推測すると、
「いいじゃねえか。座席が駄目なら床に座るか、ザックの上に腰を下ろせばばいいんだ。汚ねえ格好しているから、汚れたって構わねえよ」
「そりゃそうだ。座席に座ったら、かえって汚しかねねえ。まあ、そんときゃ、乗車料金の中にクリーニング代も入っていると思えばいいんだ」
阿部の後に、村越がさらに講釈した。
「なるほどね。村越、上手いことを言うじゃねえか。でも、それってご都合主義って言うんだろ?」
阿部が構った。
「まあ、そうとも言うが。それくらい図々しくなきゃ、世の中上手に渡って行けねえぜ。俺はその点、世間じゃ泳ぎが得意いなんだ。娑婆じゃ、すいすいと渡って行けるもんな」
村越が両手で泳ぐ真似をし、勝手にのたまった。
「なにを馬鹿なこと言っている。まあしかし、村越の図々しさがあれば、世の中楽しいかも知れんが、周りの者が迷惑する。本人の都合主義というのは、とかく他の者が犠牲になっている。俺なんかは、その一番の犠牲者だ。村越はその典型だぜ。どれだけ被害を被ったか」
阿部がぼやいた。
「あいや、諸君。お言葉ですが、今回の山行のリードオフマンの活躍を忘れてもらっちゃ困るぜ。有能な俺様の大きな貢献をな」
また歌舞かれ、村越が渋々頷く。
「ああ、分かったよ。好きにしろ!」
「ところで、本当はもっと早く帰りてえんだが。そうだよ、金があったら「特急あずさ」で帰れるのに。ほれ、見ろ。十二時五分にあるだろ。座席指定の特急がよ」
阿部が話題を変えた。
「ああ、あるな。そりゃ、特急だったら待たずに、鈍行より断然早く着くしな」
躊躇いなく、村越がほざいた。すると、阿部が反論する。
「仕方ねえだろ、俺らは貧乏人なんだから。所詮、鈍行の各駅停車に揺られてしか帰れねえんだよ。それが身分相応と言うもんだ」
さらに続ける。
「まあ、仕方ねえな。我らは何時ものように鈍行で来て、鈍行で帰るのが山歩きの定石だ。それが当たり前なんだよな。それを欲出し特急に乗ろうなんて、あつかましいというんかも知れん。それに俺らみたいに、こんな汚れた格好でいたら、特急に乗るのを断られるんじゃねえか。強引に乗せてくれと頼んだら、「それでは別途、クリーニング代を頂きます」とかなんとか要求されかねねえぞ」
そこまで言うと、佐久間が割り込む。
「それもそうだな。こんな汚ねえ格好じゃ、鈍行が最適と言うもんだ。まあ、少しぐらい遅くても、寝て行けば東京へ連れて行ってくれるし、有り難いというもんだぜ」
「そういわれれば、そうだ。俺らのような山男は、金がないのが常識だ。それを高望みしたって叶うわけがねえ。だから、はなから特急でなんか来ずに、鈍行の夜行列車で来ているんだ。大体山男というのは、皆、鈍行を使うもんだぜ」
村越が了解した。阿部が辺りを見回す。
「さて、ここにいても仕方ない。時間もあるし、あそこにザックを置いて、そこら辺でもぶらつくか」
「ああ、そうしようぜ。ここでじっとしてもつまらんからな。駅前の土産屋にでも行ってみようぜ。もしかしたら、可愛っ子ちゃんがいるかもしれんぞ」
意味深に村越が賛同した。
「佐久間もぶらつくだろ?」
阿部が促す。三人は構内の隅にザックを置き、外へと歩き出した。構内に入る時は気づかなかったが、出てみると澄んだ空気が流れているのを感じ取る。
「まだ、陽は高いし気持ちがいいな。しかし、ここら辺は雪が積もらないのかな?」
「そのようだ、全然ないもんな。如何だ、村越。今し方下山したばかりだが、今回の山行の感想は?」
佐久間が問うた。すると、村越が満足気に返す。
「そりゃよかったぜ。こうして怪我もせず無事に帰ってこられたんだ。それに厳冬期の八ヶ岳を充分堪能させてもらった。これぞ山男冥利に尽きるとつくづく思う。夏山じゃ味わえねえ、冬山の醍醐味を昨年に続き味わった。まあ、随分きつい行程だったけど。それでも、今は充実した気分に浸っているぜ」
入山した連峰での軌跡を回想するように語った。すると、阿部が続く。
「そうだよな、普通じゃ冬山なんかに入らねえから。そういう意味からすれば、俺らは一歩先に進んでいると言ってもいい。だって、こうして厳冬期に入山して、素晴らしさを味わえたんもんな。満足しているよ。ちょっと、寒さとあの風雪のひつっこさには参ったがな」
感じた思いを告げた。
「まあ、たしかにそうかもしれねえ。これも日頃訓練をしていればこそ、こうして計画通り縦走出来たということだ。やはり冬山は体力勝負。皆、バテなくてよかったよ」
改めて感慨深気に、佐久間が締めくくった。
「それにしてもよ。阿弥陀岳から赤岳、それに硫黄岳までの稜線の岩肌のアイスバーンはすごかったな。岩道がすべて凍っているんだからよ。冬の間、ずっとあんな具合じゃねえか。突風に煽られて踏み外し一歩間違えれば、それこそ命を落としかねねえところだったよな」と佐久間。
「いや、それだけでじゃない。あの谷底から吹き上げる風雪、あれが我らの行く手を阻んでいるようなもんだ。一日中緊張のしまくりだった」と阿部。
「それもそうだ。少しでも気を緩めたら足元をすくわれ、これまた取り返しのつかねえことになっていたかも知れんからな。魔の稜線ということか」と村越。
互いの顔を見ながら、三者三様の意見が飛び出していた。さらに、阿部が付け加える。
「たしかに、夏や春なんかじゃ味わえないスリルと醍醐味があったな。それによ。あの雪景色、遠くから見るとすっぽりと冠雪しているように見えるけど、実際は大違いだ。麓の方は積雪が多く雪が積もっているが、途中から段々少なくなってゆき、山の中腹を過ぎると、後はごつごつした岩肌か凍っていて、ところどころに雪が積もっている。という感じだったように思ったが」
一息で説いた。続けて佐久間が説く。
「そりゃそうさ。我々を苦しめた強い風だ。あれが積もる雪を蹴散らしてしまうんだ。だから、岩肌を露出させ麓のように積もらず、剥き出しになり凍りついていた」
阿部が感慨深げに応じる。
「うん、そうだったな。それにしても、阿弥陀岳から見た赤岳がすごかった。あれこそ鋭鋒の冬山という感じだ」
「おお、ああいうの、なんて例えるか知っているか?」
村越が二人に尋ねた。すると、はてな顔で互いに見合うが答えが出ない。
「はて、なんというのか。分からんな?」
二人がそんな顔をすると、村越が鼻をつんとのち上げる。
「それじゃ、教えてやるよ。あんなに迫力ある姿を、八ヶ岳の王者って言うんだ。雄大で男らしく見えるだろ。ほれ、俺の雄姿を見れば分かるだろ。この美男子をな」
背筋を伸ばし澄まし顔で答えた。唖然と二人は口を開けていたが、直ぐに阿部が呆れほざく。
「なにを、また言うかと思えば、俺みたいだなんて。おまけに美男子だとは、空いた口がふさがらねえぜ!」
「あれ、そう思わねえか。よく見ろ、この俺と赤岳を見比べて連想してみな。ちょうどぴったり結びつくだろ」
村越が惚けた。すると今度は怒鳴る。
「なんと阿呆なこと抜かす。まったく減らず口の多い奴だ。いい加減、呆れてものも言えんぞ!まったく、自己過信甚だしいとはこのことだ。身の程を知れと諭したいね。村越には、いくら言っても無駄だと思うけどよ」
阿部が吐き捨てた。二人のやり取りを聞き及ぶ佐久間が、白け気味に言う。
「しかし、村越にはかなわねえな。まあ、いいか。本人が勝手にそう思い込んでいるだけなら、他人様に迷惑をかけているわけでもねえしよ」
「そりゃそうだ。阿呆の言っていることと思って、取り合わなければいいんだ」
阿部が気を取り直した。すると、村越が己の頭を指差し、しゃあしゃあと吹く。
「しかし、分からねえかな。俺がいい男だということをよ。二人とも、どこに目をつけているんかな。どれだけ素晴らしい赤岳を見てきたのかと、言いたいね。その凛々しさが、この俺と重なることを言ってるんだが、それを理解できねえお前らには、甚だここの程度を疑うよ」
するとマジになり、馬鹿らしくなったのか、阿部が歯の浮くような言葉で、わざとらしく絶賛する。
「ああ、そうだな。村越の言う通りだ。おお、間違いなくいい男だ。まあ、赤岳の素晴らしさと、村越の凛々しさはぴかいちだぜ。それに、相共通するところがあるぞ。何時まで見ていても飽きねえもんな」
「そこまで言われると、何だか妙な気持ちになるな・・・」
片腹が痒いような心持ちになっていた。
「いや、そんなことはないぜ。どちらも絶賛しているんじゃねえか」
阿部が煽てると、村越が不審がる。
「そうか?俺にはお前の言っていることが、如何も見世物でも褒めているように聞こえる。その言い方、どこか引っかかるんだよな。阿部の美辞麗句がよ。如何も、猿回しの猿の如くに見られ、笑われているような。馬鹿っ面をしていると貶されているみたいだぜ」
すると阿部がずばりと言う顔をする。
「あれ?分かったのか。そうだ、お前の言う通りだ!」
「なにを、そうだったのか。俺を馬鹿にしやがって。もう、お前とは口を聞いてやらねえ。くそっ、忌々しい!」
阿部のあざける態度に、ふくれっ面になっていた。
「まあ、まあ、二人とも、聞いていれば言いたい放題。いい加減にしろよ。もういいだろ、互いに言いたいこと言ったんだ。せっかくここまで来て続けてんじゃもったいないぜ。もっと有意義な話をしようや」
佐久間が促し、話題を変える。
「阿弥陀から見た赤岳には感動していたけど、横岳側から見た名峰のことはあまり出ないな。俺も印象に残っていないもんな。それで、お前らは如何だ?」
阿部が応える。
「そう言えば、そうだな。でも横岳からだと、ちょうど南側に赤岳が位置する。横岳に向かったのが、たしか昼飯を食ってからだから、十二時過ぎ頃か。景観としては決して悪くはないよな。俺もまじまじとは見ていなかったんで、鮮明には残っていないな。ところで、村越。お前は如何なんだ?」と話の流れで振った。
「二人とも、いいシャッターチャンスを逃したな。俺は二十三夜峰のところで立ち止まった時、まじまじと主峰を見直していたんだ。だって、阿弥陀の方ばかりから見ていたんじゃ、もったいないと思ったからな。角度が変わって、また別の素晴らしさを堪能したぞ」村越が得意気にほざいた。
「おお、そうかい。それはすげえな。俺なんか先のことばかり考えていたんで、お前が見ていることすら気がつかなかったよ。さすがだな、村越!」
阿部は意識的に褒めた。
「ううん、それ程でもないぜ。まあ、俺くらいのプロになると、いろいろな角度から、その山の持つ素晴らしさ、美しさを目ざとく見ておくものさ。今回のことだって、当然の如くしたまでさ」
「それは大したもんだ。さすが山岳のプロ。俺なんか、お前の足元にも及ばないぜ」
さらに、阿部が煽てた。
「うん、まあな・・・」
そうとも知らず、村越が鼻をついと上げる。すると佐久間が、小声で阿部に囁く。
「お前も、お世辞が上手いな。村越は単純だから、ちょっと褒めれば直ぐに機嫌がよくなるんだ。ほれ、見てみろ。にたついた顔をよ」
「おお、そうだな。けど褒めるのもこれくらいにしておくか。これ以上褒めると付け上がるからよ」
相槌を打ちながら、こっそりと舌を出した。
「なんだ、なんだ。お前ら、なにをひそひそ話をしているんだ!」
村越が聞き耳を立てた。
「いや、なんでもないよ。もうそろそろ駅へ戻ろうかと話していただけだ。なんだ、村越なにか言いたいのか?」
阿部が咄嗟に嘯いた。村越が疑う。
「なにか俺のことで、内緒話でもしていたんじゃねえのか?」
「いいや、空耳だろう。お前のことなんか話してないぜ。帰りのことを話していただけだ」阿部が嘯く。
「そうか、それならいいけどよ」
村越が不納得ながら頷いた。
「それじゃ、ザックを持ってホームへ行くか。新宿行きの列車が来るまで三十分切ったからな」
さらに続けて、
「そうだな、先程の西側から見た赤岳の残り話は、ホームに入ってから続けようぜ。それ以外にも、お前らの知らんもっといい絶景を話してやるからよ」
得意気に胸を張り言つつ歩き出した。ふたたび切符売り場へ戻り買い求め、キスリングザックを肩に架け、新宿方面行のホームへと入った。キスリングを置くや、調子こく村越の独占場となる。
「さっき話していた二十三夜峰からの赤岳なんだけどよ。すんごくよかったぜ。それに午後の陽だまりからの景色は、朝の景色とは一味違うんだ・・・伝々」
そんな熱弁が列車に乗ってからも続く。長野方面から来た列車は、比較的空いていて、床に陣取ることなく座席に座われた。向かい合わせの座席である。車内は程よく暖房が効いているせいか、村越の話もそう長くは続かなかった。列車の揺れがちょうどいい揺り籠と化し、徐々に途切れて行く。聞く阿部らも、相槌を打っていたが、話が途切れるに連れ、遠くの方で喋っているような感覚に陥っていた。そのうち、話の内容が意味不明になり、列車の揺れと波長が合い、軽い鼾に変わっていた。佐久間らは心地よい揺れと温かな暖房に包まれ、村越の声が耳から消えて行った。山での疲れも手伝ってか、三人は半口を開け、背もたれに寄りかかり眠りの中へと誘われていったのである。
新宿駅に着いたのは午後六時を廻っていた。すでに日が落ち、ネオンの明かりの中に埋まっていた。
「ああ、よく寝たな、着くまで一度も起きなかったぞ」
けろっとした顔で村越がほざく。
「そうだな、俺もよく寝た。疲れていたんだな。でも、八王子辺りでちょっと目が覚めたが。ああ、まだ八王子かと思っているうち、また寝入っていたよ」
阿部が返す。すると隣で欠伸し、背伸びをしつつ佐久間が告げる。
「さあっ、降りるか」
座席を立ち、ピッケルとザックを持ち列車から降りた。村越らも続いてホームに降り立った。
「ううん、やっぱり違うな。ここは八ヶ岳の空気と違うわ!」
村越が匂いを嗅ぎ呟いた。
「そう言えば、違うな。村越の言う通りだ。八ヶ岳の空気はもっとクリーンだよ。それに比べ新宿は、生温かで薄汚れているように感じねえか?」
阿部が佐久間に振った。
「おお、そうだな。何時もいると分からねえが、こうして帰ってくると、一瞬、違和感を覚えるな。でも、少し経つと感じなくなるけどな。それにしても、こんなの吸っていると、八ヶ岳の清々しさが恋しくなるぜ」
佐久間が返した。
「さて、これで今回の山行は完了だ。過ぎてみればあっという間だったけれど、結構中身が濃かったんじゃねえか?」
阿部が振り返った。
「まったくだ。充実した冬山登山だったぜ。怪我もなく、天気にも恵まれ。最高だった」
満足気に佐久間が頷いた。すると、負けじと村越が悦びを表わす。
「前回の縦走より、今回の方が遥かに俺にとって良かったと思う。まあ、晴天もずっと続いたから、この頭の中にきっちりとインプット出来た。阿弥陀、横、硫黄、それと主峰赤岳と連山の大パノラマをな。すっげえ大満足だったよ」
「そうか、それは良かった。俺も同じ気持ちだ。それじゃ、写真が出来たらまた連絡するから、反省会と検討会を兼ねて、近いうちに集まろうや」
佐久間が纏めると、阿部が追従する。
「ああ、そうしようぜ。今日はこのまま帰って、早く風呂に入りてえ。三日間顔も洗ってねえし、歯だって磨いてなかったんだから」
「そりゃそうだ。それに、下着だって着っぱなしだ。きっと臭くなっているぞ」
佐久間がセーターを摘まんで嗅いだ。
「それじゃ、ここで別れよう」
「おお、それじゃな」
「またな」
夫々声を掛け合い、キスリングザックを肩にかけ、三人は夫々の自宅へと戻るべく、別のホームへ登山靴を引きずり別れて行った。佐久間も阿部も、そして村越も互いに後ろ髪を引かれる思いと共に、夫々の家路に就く。たった三日間の山行だったが、互いの胸の中はずっと一緒でいた思いに駆られ、その気持ちが断ち切られるかと思うと、少々切なさが湧いてきていた。立ち止まり振り向く。三人の山男が同時だ。持っていたピッケルを高々と上げた。
「お疲れさん!」
「お疲れ!」
「またな!」
大きな声が幾つも響いた。そして、その思いを吹っ切るように登山靴の引きずる音が散らばって行った。
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