7.a woman actor.

⑴美しい人

 I'm very definitely a woman and I enjoy it.

(私は女だし、女であることを楽しんでいるわ)


 Marilyn Monroe









 彼は病に冒されているのではない。

 これは人類の進化なのだ。


 ディスプレイの向こうで高らかに訴える白衣の医者は、高そうな眼鏡の銀縁に触れた。感慨深そうに頷くタレントやスタジオの様子は画面下、ワイプの狭い窓に撮された。


 定番のドキュメンタリーは、患者本人の許可を取らず強行されたらしい。隠撮に近い形で報道される患者――否、研究対象はテレビ画面の此方には一度として目を向けなかった。


 生まれ落ちた時から世界に拒絶された青年。人工的に完璧な環境を作り上げ、その場所から自力では一歩も動けない。呼吸すらままならない。先天性の免疫不全は、小さな傷すら致命傷に至る。後天性の奇形は、見る者全てに好奇の目を向けられる。学者達が挙って治療と言う名の研究を申し出るけれど、誰一人として彼を人間と見做してはいない。これが人類の進化の過程ならば、自分達は惑星から拒絶された滅ぶべき古い種族なのだろう。


 葵はテレビの電源を落とし、暗くなったディスプレイに溜息を一つ零した。


 家の中は死んだように静まり返っている。彼等がいなければ、この家は死んでいるのかも知れない。そんなことを思う。


 霖雨が誘拐され、拉致監禁の末に違法薬物を投与され、漸く救助された事件を切っ掛けに、葵は転居を急いだ。犯罪組織に襲撃されるような場所で生活は出来ない。霖雨の巻き込まれた事件も、転居する為に荷造りしている最中だった。引越し自体はそう手間取るものではなかったけれど、セキュリティ強化には随分と骨を折った。


 救出され一週間が経過し、季節は夏へと移り変わる。未だに入院生活を余儀なくされる霖雨の元へ、和輝はせっせと足を運んでいる。今日も見舞いの品だと言って、母国からの仕送りに入っていた駄菓子を届けに行った。和輝も頭がおかしいが、彼の周囲も大概だ。仕送りの品がダンボール一杯の駄菓子なのだから、訳が解らない。


 リビングのテーブルには、お裾分けと言って置かれた駄菓子がある。葵は首を捻るばかりだった。


 玄関から鍵の落ちる音がして、葵は振り返った。足音が一つ、二つ。

 ――ああ、今日が退院日だったのか。


 扉を押し開けた和輝が、憑き物が落ちたような晴れやかな顔をしていたので、解り易い奴だと呆れる。その後ろには、救出された時よりも大分顔色を戻した霖雨が立っていた。





「おかえり」




 葵が告げれば、二人が嬉しそうに微笑んだ。




「ただいま」




 ただ、それだけのことで。

 揃って笑う彼等が眩しく見えた。










 7.a woman actor.

 ⑴美しい人










 今朝も地下鉄構内は騒然としている。

 人々の声が決して広くはない空間に反響し、頭上から降り注ぐ。


 超音波を発して空間を把握する蝙蝠のようだ。

 和輝は、機械油で汚れたトレーナーで、頬を擦った。


 大学病院を辞めた後、車両整備士の見習いをしている。特に深い理由がある訳ではなかった。ただ、救えなかった人が、電車と線路の狭間に吸い込まれ消える様を目の当たりにしたからだ。コンピュータに詳しい葵や、それなりに知識を持つ霖雨とは違い、理工学方面への知識が疎い自覚があった。弱点であると解っているのに、克服もせず避けて通るのは狡いと思った。だから、学びたかった。


 始発前の車両点検、駅構内の見回り、利用客への対応。アルバイトとして雇用されているどころか、お手伝いという名の見習いに支給される賃金は雀の涙程だ。応じて業務内容も、正規雇用の整備士に比べれば僅かなものなのだろう。責任の無い立場は楽だが、微温湯に浸かっていれば、いずれ風邪を引く。転落は楽だ。だからこそ、一歩ずつ登ろうと思う。


 通勤に忙しない大勢の利用客は、他人の存在に見向きもせず前だけを見ている。幼児の並行遊びを思わせる。


 殺伐とした構内に似つかわしくないポップな曲が流れ、電車の到着を告げる。駅員は転落を防ぐ為、線路の傍で利用客を見張り、線路を点検する。


 じわりと、頭が痛くなった。まるで脳が重みを増したような、嫌な鈍痛だ。ぐらりと視界が歪み、和輝はこめかみを押さえた。雑用として長時間勤務しているから、疲れたのだろう。頭上から降り注ぐ旋律がハウリングのような耳鳴りに掻き消される。


 ホームの掃除でもしよう。


 踵を返そうとしたところで、何かが楔を打つように両足を踏み止まらせた。第六感と呼ぶものがあるならば、これがそうだった。


 和輝が振り向いた先に、ティアドロップのサングラスを掛けた、グラマラスな女性が立っていた。長い髪を風に泳がせ、真っ赤な唇はまるで血を啜ったかのように濡れている。


 一目で解る、一般人ではない女性。ファンデーションの塗りたくった頬は真っ白で、血の気が無い。目深に被られたベースボールキャップが影を落としている。其処にいるだけで目を引く存在感にも関わらず、周囲の人間は誰一人として目を向けない。真っ赤なピンヒールが、プラットホームを叩いた。


 カツン。


 音が違う。和輝は足を踏み出した。履き慣れたスニーカーで地面を蹴って、風前の灯火のように揺れる女性の腕を強く掴んだ。鞭打つみたいにがくりと揺れた女性が、信じられないものを見るように振り返る。


 サングラスの隙間から覗く碧眼が、ぎょろりと見開いて和輝を見た。


 電車が到着し、何事も無かったかのように扉が開けば、大勢の利用客が溢れる。その波の中で逃すまいと女性の腕を掴んだまま、和輝はいっそ恨めしい程、綺麗に微笑んで見せた。




「俺、これから休憩なんだ。一緒にお茶でも飲もうよ。ね?」




 否定を許さないような強さを滲ませ、繋いだ手を離さぬまま和輝は言った。女性は観念したように項垂れ、微かに首を縦に振った。


 上司である壮年の車両整備士の元へ、女性を連れて行く。上司―― Jonathanは、気の良い職人気質の男で、口数は少ないが、見習いである和輝のことを邪険にはしないし、理不尽なことも言わない。女性を引き連れた和輝を見ても、追求はせず何かを察したように目を細めただけだった。そして、放逐するように手を振ったので、和輝は苦笑と共に礼を述べた。


 連行するようにプラットホームを離れ、女性を連れ出す。降り注ぐ初夏の日差しは眩しく、暗闇に慣れた視界は白く滲んだ。サングラスを外さない女性を連れ、和輝は傍の小さな喫茶店へ入った。秘密基地のようにひっそりと建つ店は駅前にも関わらず利用客が疎らだ。趣味で運営しているという店主の物言いが些か乱暴で、対応も粗暴なところがある為である。それでもコーヒーを入れる腕は一品で、彼の作るホットサンドは絶品だ。


 和輝は口髭を蓄えた店主に目礼し、奥の席へ向かった。


 テーブルを挟んで奥の席へ女性を促し、逃げ道を塞ぐように反対側へ腰掛ける。やり方が乱暴だったかと逡巡するが、一刻を争う危険な状況である可能性があった。何の注文もしていないのにホットのカフェラテが二つ運ばれて来た。


 和輝は黙りこくったままの女性へカップを勧めた。女性は俯いたまま、真っ赤な唇を真一文字に引き結んで何も言葉を発さない。和輝は湯気の昇るカップを取り上げ、口元へ運ぶ。豊かな香りを吸い込み、熱いカフェラテの表面を舐めるように啜った。




「カフェインは、駄目だったかい?」




 和輝は気にしないが、健康志向の人間はカフェインを敬遠することがある。


 女性は首を振って、半ば投げやりに、諦めたようにカップへ手を伸ばした。真っ赤な唇がカフェラテを啜る。そして、引き結ばれた唇は、はっと開かれた。




「……おいしい」

「だろ?」




 自分が煎れた訳でもないが、得意げに和輝は笑った。空腹を感じ、何か食事を頼もうかと店主へ視線を送ると、既に完成したクラブハウスサンドが運ばれて来た。


 阿吽の呼吸だ。丁寧に礼をするが、店主は照れ臭いのか早々に背中を向けてカウンターへ戻ってしまった。


 料理が冷めない内に食べようと勧め、真っ先にサンドイッチへ手を伸ばす。大口で頬張れば、正面で女性が息を逃がすように笑った。




「子どものようね」

「よく言われるよ」




 あっけらかんと、和輝は言って、笑った。


 女性もカップを皿へ置き、フライドポテトへ手を伸ばした。和輝はすかさずナフキンを置く。




「女性に慣れているのね」

「そんなことないよ」




 嫌味なく返せば、女性がまた困ったように笑う。和輝は二つ目のサンドイッチへ手を伸ばしながら、サングラスに隠された彼女の顔を見た。




「そろそろ、本題に入ろうか」

「本題? ナンパだと思っていたわ」

「軽口を叩く余裕があって何よりだ。俺の名前は蜂谷和輝。車両整備士の見習いをしているよ」

「可愛い車両整備士がいたものね。児童ポルノにでも出演した方が、楽して大金を手に入れられると思うけど」




 ははは。乾いた笑いを朗らかに響かせ、和輝はサンドイッチへかぶりついた。


 まるで上滑りするような会話の応酬だ。彼女の張った予防線は、容易く超えられはしない。和輝はテーブルの下で覚悟を決めるようにして拳を握った。




「線路へ飛び込もうとしていたね。何か魅力的なものでも見つけたかい?」

「勘違いよ。酷い口説き文句だわ」

「そんな言葉で躱せると思われているなら、嘗められたものだ。これでも、人を見る目には自信を持っているんでね」




 真正面から、サングラスの向こうに隠された碧眼を睨むつもりで和輝は見据えた。女性が僅かに身を引く。


 数秒の沈黙の後、女性は大きく息を吐き逃がした。しなやかな腕がサングラスを掴み、取り払った。同時に脱いだキャップから流れるようなブロンドの髪が溢れ、香水の甘い匂いが漂った。


 綺麗な顔しているな、と呑気に考えた。少なくとも、その容姿が自殺の理由になることはないだろう。


 和輝がぼんやりしていると、女性は気を悪くした風に眉を寄せた。




「何? 言いたいことがあるなら、言って」

「ええと……。綺麗な髪だね」

「何それ」




 息を漏らすように、女性が笑った。サングラスを取り払った女性は、何処か少女のような幼さを感じさせる。


 何処かで見たことがあるような気がしていた。けれど、確信が無いことは口にするべきではない。


 呆けている和輝を不審そうに見遣り、女性は問い掛けた。




「貴方、私を知らないの?」

「……何処かでお会いしたかな」




 和輝が言えば、女性はふーっと溜息を吐いた。




「貴方、本当にナンパでも、パパラッチでも無いのね」

「何の話だ」

「此方の話」




 女性は肩に掛かったブロンドの髪を払い、テーブルに両肘を突いた。


 ゲンドウポーズだ、なんて和輝が現実逃避紛いの下らないことを考えていると、女性が片眉を跳ねさせて言った。




「私の名前はAileen」




 エイリーン? いや、アイリーンか。

 流暢な外国語に判断が遅れ、和輝は内心焦った。アイリーンは和輝の顔をじっと見詰めている。




「貴方は私のヒーローなのかしら?」

「君が、望むなら」




 和輝の返答の何が気に入ったのか、気を良くした風にアイリーンは微笑んだ。


 この女性が何者なのか。線路へ足を踏み出そうとした理由は何か。恐らくきっと、この場所で解決出来ることではないのだろう。和輝は早々に算段を点け、三つ目のサンドイッチへ手を伸ばした。


 アイリーンが何者なのか解らないまま、Jonathanへ連絡を入れる。何かを察したらしく、電話の向こうで彼は帰宅の許可を出してくれた。和輝がいなくても電車は走るし、客を運ぶ。いれば便利というだけの軽い存在に、この時ばかりは感謝した。再びキャップを目深に被り、ティアドロップのサングラスで顔を隠したアイリーンを連れ、行く宛も無いので帰宅することにした。彼女は危険人物には見えないが、何かしらの脅威に晒されていることは察せられた。


 葵がセキュリティを強化したという自宅は、相変わらず片田舎の一戸建てだ。新居は二階建てで、それぞれの部屋もその階にある。玄関を開ければ短い廊下があり、扉の向こうには一階の大半部分であるリビングがあった。


 帰宅に気付いたらしい霖雨が扉を開け放ち、和輝の横に立つ女性に目を丸めた。




「おかえり、和輝。早かったね」




 一先ず女性には触れず、霖雨が迎え入れる。


 ただいま。

 答えた和輝を温かく迎え入れながら、霖雨は女性を見遣った。




「どちらさま?」




 まるで、息子の連れて来た彼女を品定めする母親のようだ。

 和輝は苦笑し、彼女を紹介するように腕を広げた。




「名前はアイリーン。ちょっと事情があって連れて来た」

「何だよ、事情って。また、面倒事に巻き込まれているんじゃないだろうな」




 和輝は肩を竦めた。お前も他人のこと言えないだろう。巻き込まれているんじゃない。自分から首を突っ込んだんだ。


 返すべき言葉は全て飲み込んで、曖昧にお茶を濁しておく。霖雨は不満そうに口を尖らせた。その時、玄関での問答を不審に思ったのか、扉の奥から葵が現れた。相変わらず幽霊のように存在感の無い男だ。




「今話題のハリウッド女優じゃないか」




 さらりと告げた葵に、アイリーンが肩を跳ねさせ、咄嗟に和輝の腕にしがみついた。幽霊にでも出会ったようだ。


 葵は気にする風もなく、アイリーンを一瞥して和輝を見た。




「おかえり」

「あ、ああ。ただいま」

「面倒なことになるぞ。そいつを匿うなら、この場所は止めてくれ。まだ新居なんだ」




 何の事情も打ち明けていないのに、トントン拍子に話が進む。葵はやはり、基本的に脳の回転が早いのだろう。


 明らかに好意的ではない葵が、何の予備動作も見せず、さも当然のように右手を広げた。



「客なんだろ。お茶くらい、出したらどうだ」

「いいのか?」




 思わず、和輝は問い掛ける。葵が屁理屈を捏ねて追い出そうとしたら、和輝は最終手段の泣き落しをするしか無かった。


 葵は飄々とした態度を崩すことなく首を傾げた。




「長居しなきゃ、それでいいよ。この国のパパラッチは優秀だが、マナーが悪い」




 何かを知った風な葵に、渋々といった調子で従った。


 和輝も習ってアイリーンへ勧めた。凶器にでもなりそうな鋭利なピンヒールを脱ぎ、アイリーンは玄関でスリッパへ履き替える。其処で漸く、彼女が女性というよりも少女に近い年代なのだろうと察する。分厚い化粧やティアドロップのサングラスが、彼女の素性を覆い隠していた。


 リビングには落ち着いた色合いの革張りのソファが置かれていた。葵の選んだ品だが、座り心地が良く、眠気すら誘われる。ローテーブルを挟んで、ソファの上で葵は胡座を掻いて本を開く。分厚い何かの専門書なのだろう。霖雨が対角線にちょこんと居心地悪そうに座ったので、必然的に和輝はアイリーンを連れて真ん中へ座った。


 すぐさま霖雨が席を立ち、キッチンへ向かう。お茶でも取りに行ったのだろう。ふと目を上げた先で、大型のテレビに下世話なマスコミの盗撮映像が大々的に放映されていた。


 先天性の奇病を患った青年のドキュメンタリーだ。徐々に肩甲骨が隆起し、まるで翼のような奇形となっている。全て遠目からの隠撮で、青年本人の同意を得ていないことは明らかだった。担当医だという壮年の男が、銀縁眼鏡のフレームを忙しなく上下させながら、彼の病状を詳細に語っている。これはプライバシーの侵害なのではないか。病院という組織で許されることなのだろうか。和輝は気分が悪くなり、チャンネルを変えた。


 映ったのは、昼下がりの賑やかなワイドショーだった。其処で漸く、マグカップを持った霖雨が戻って来た。


 黙ってアイリーンの前へ置き、和輝には愛用の落書きだらけのマグカップを手渡してくれた。このマグカップは、友人が悪戯半分に落書きしたものだ。『You are Hero!』『I love you!』なんて思いつくまま油性のマジックで書き殴られているが、和輝はその賑やかな感じが嫌いではない。

 ダージリンティーだ。和輝が啜るように紅茶を飲み下すと、半分程コーヒーの残ったマグカップを片手に葵が言った。




「あんた、随分と人気者だねえ」




 人を揶揄する、嫌な嗤いを浮かべる。


 葵が指し示す先、テレビにはあるハリウッド女優のスキャンダルが赤裸々に語られている。映画で共演した既婚男優と不倫、枕営業、造営疑惑。有り触れた話題だが、現実感を欠いている。和輝はふと隣のアイリーンを見た。


 何処か少女のようなあどけなさを残しているが、確かに大人の女性だ。整った美しい顔立ちをしている。アイリーンは興味も無さそうに鼻を鳴らした。




「あんなもの、一体、誰が信じるのかしら」

「信じるか信じないかは、受け取る人間の自由だろう。視聴者に真偽は解らないし、元々、誰もそんなものを求めてはいない。退屈凌ぎに、天才子役から国民的スターにまで上り詰めた女優の悪口を言って、周囲の人間との一体感を深めたいだけさ」




 葵の言葉に、アイリーンは少し驚いたように目を丸めた。葵は悠々とコーヒーを飲んでいる。


 和輝はテレビをじっと見詰めていた。画面に映る女性に見覚えがある。――無い筈も、なかった。今現在、隣にいる。




「アイリーン」

「何?」




 呼べば、当たり前のように返事をする。そうだ。世間を賑わせているハリウッド女優。悪魔と名高い魔性の女。


 アイリーン。

 和輝は彼女に向き直った。




「これが、原因か?」




 葵と霖雨には、解らなかっただろう。アイリーンは不機嫌そうに鼻を鳴らし、そっぽを向いた。




「そんな柔じゃないわよ。こんなの日常茶飯事だもの」

「慣れているからって、傷付かない訳じゃない」




 和輝が言うと、アイリーンが不思議そうな顔をした。そして、笑った。少女のような可愛らしい笑顔だった。


 これが彼女の本質なのだろうと、何の確証も無く、和輝は思った。




「貴方、優しいわね」




 和輝は首を傾げるばかりだが、葵と霖雨が揃って溜息を零すので、ただ褒められたのではないと解る。


 牽制するように霖雨が言った。




「こいつを巻き込まないでくれ」

「巻き込んだつもりはないわ。この人が、勝手に首を突っ込んで来たのよ」

「おい、和輝!」




 霖雨が睨めつけるので、和輝は首を竦めた。


 ワイドショーは未だに騒いでいる。一人の人間を生贄にして、団結している。嘗てのドイツを思わせるやり方にうんざりするが、和輝は黙って見ていた。




「受け取り方は人次第か……」

「貴方は、信じる?」




 アイリーンが問い掛ける。和輝はその面をじっと見詰めた。


 さらりと返された問い掛けだが、彼女の本心が滲んでいるような気がした。和輝は視線を逸らさず、碧眼のじっと見詰めて答えた。




「君が否定するなら、それを信じるよ」




 馬鹿だなあ。

 テレビを見ながら、独り言みたいに葵が言った。

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