第三十八話 救い手は
建物の
そんなことを何度も繰り返していたのだが、再度頭を出した瞬間にドコッと脳天に衝撃を感じた。
『あんた何やってんのよ!』
大きめの黒い鴉が白い鴉の頭を出した瞬間にモグラたたきの勢いでどついたらしい。驚いて慌てふためく
『で、何してんのあんた』
鳥の言葉で話しかけているせいか、
『あー……もう面倒くさい子ねえ。鴉のくせに鳥の言葉がわからないなんて』
ヤタは白い鳥の胸にかかっている翡翠の勾玉を見ると、ジェスチャーでこちらに寄越せと示した。おずおずと頭を下げて、首から勾玉のついた紐を落とす。地面に置かれたそれをヤタは躊躇せずにパクリと嘴で挟むと、「硬ったぁ!」と言いながらものすごく不機嫌なオーラを漂わせてガリバキボキゴリと地獄の悪鬼が骨を叩き潰す音を立てて石を噛み砕き、そのまま飲み込んだ。
黒い鳥が輝きを放ち、あっという間に少女の形に変化する。
彼女は体を伸ばして逃げていた白い鴉の首をむんずと掴むと、容赦なく口づけをした。
「で? どうなったの。父は?」
「あのね、連れていかれちゃった。ぼくは隠れてろって」
「で、隠れてただけなんだ」
「うん……」
「ざっと見てまわったけど、出入り口ってあそこしかなさそうなのよね。明かり取りの窓ぐらいあればいいのに」
通風孔の類はあったが換気扇が備えられていて、そこからの侵入は厳しそうだった。顎に手をやる”考える人”のポーズでしばし頭をひねっていたが、これといって良いアイデアは閃かない。
「まあ何とかなるか!」
見た目通りの十歳の子供らしい謎のポジティブさでぐいっと
「よいしょよいしょ。ほらあんたも手伝いなさい」
「えーー開けるの!?」
「開けないとは入れないでしょ」
それはそうだけど……といろいろ言いたい事もあったけど、大人しく従う。
「これ、引き戸だと思う」
「それを早く言いなさいよ」
開け方が正解でも、幼い子供の力では重い鉄の扉はびくともしない。
子供二人がぎゃいぎゃい騒いでいれば、当然気づかれる。突然開いた扉に、ヤタと
『なんだ、このガキ共は』
『どうして今日はこんなに侵入者が。風水師は仕事をさぼっているのか?』
『……鈴の事といい、何が起きてるのか。これはボスの指示を仰がねばなるまい』
『このガキ共はどうする?』
屈強な黒服の男が、二人の子供の首の後ろを猫のようにつかみ上げた。
『迷い込んだとして、親が捜しに来たら面倒だ。これもあの化け物の餌ぐらいにはなるんじゃないか?』
『さっき男一人を飲み込んだらしいが、まだ食う余地はあるだろうか』
『腹が減ったら食うだろ』
こうしてヤタの狙い通り(?)、二人は建物の中に侵入することに成功した。
* * *
「
「はい、先輩」
二人は
「すみません、僕が向こう見ずな行動をしたから」
「ついて来たのは俺の勝手だから。具合はどうだ」
「大丈夫です、ここは不思議と落ち着く気も……」
「そうか」
ほっと息を吐くと、
「さてどうするか」
鍵のかかった小部屋にベッドが一つ。ほにゃららをしないと出られない部屋だったらどうしようなどとジョークを飛ばしてみようかと思ったが、さすがにおちゃらける雰囲気ではなさそうだ。
他に何もない部屋かと思ったが、見上げればカメラがついている事に気づく。
「監視カメラがある」
叩き壊せるような高さでもない。
「先輩、僕、あれを壊してみましょうか」
「壊せるか? そのあとどうするつもりだ」
「カメラが壊れたら、様子を見に扉を開けるのではないでしょうか」
「……そうだな」
先ほど前の弱弱しさが嘘のように、
「屋内が主戦場のFPSも、僕、得意です」
ゲームが得意だと宣言されても、鈴城のような男が相手なら鼻で笑う所だが
「チゥ」
「ん?」
聞きなれない鳴き声のような音がして、
目の端を小さな白い生き物が走った気がした。床を見れば紙きれが一枚落ちていたので拾い上げる。
「何かあるのかと思ったが、ゴミだった」
そう言って
「僕はゴミ箱じゃないですよ」
などと笑いながら受け取るが、明らかにそれは見慣れた
そして
二人は頷きあうと早速計画を実行する事にした。
* * *
「私に何をしろというの?」
「それを作ったのは君だろう?」
「!?」
「願いが三回までというのは、どうにもけち臭い。もうすでに二回分を使ってしまった。君の力で元の三回まで戻すか、新たな玉手箱を作って欲しい」
少女はぎゅっと眉を寄せるが、構わず
「この玉手箱を守っていた一族の事を後から調べるのは骨が折れたが、日本がまだ縄文の時代から太陽を主神としてあがめていたらしい。その太陽の力を集める器が鏡姫、君だった。なぜ今そんな女子高生の姿でいるのか知らないが、この国の国家機関が君を護衛していたところみるに真実なのであろう」
「今の私に、そんな力なんてないわ」
そもそも鏡姫であるという事自体、ただの自分の思い込みだった。本物はおそらく
彼を守るために、あれからも鏡姫のふりをしそう扱い続けてもらっていたのだから。そしてそれを、今こそアピールしなければならない。
「昔はみんな太陽をあがめる事で私に力を与えてくれていたけど、八百万の神の存在を信じるようになり、仏教も入ってきたし、海外のあらゆる宗教に触れる時代になって、意識が分散されたのね。太陽を祀る神社も多数あるけど、もう鏡姫自体を信心している人なんてほとんどいないわ」
「手に入れた力を失うパターンもあるのか……」
独り言のように呟き、気を取り直したように前を向く。
「確かにあの一族も、現代ではもう鏡姫を祀ってはいないな。龍への貢ぎ物を失って、以降は龍そのものを祀っているようだった。玉手箱を守っていた過去の一族の時代を誇るためなのか、いにしえをよろこぶ名を持っているようだが」
――いにしえを、よろこぶ名……?
少女の頭はフル回転をし、思い浮かぶ漢字を組み合わせまくり、閃いたその名は。
「古賀……」
龍神を祀る神社の跡取り息子。
自分の恋路のお邪魔虫が脳裏をよぎる。
もし彼がそうなら、
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