第八話 新たな師匠
鬼は、陰陽師の
式神という事は、
だから陰陽師が使う術は大部分が目くらましで、囮に使ったり情報を伝える程度となり、それをもって相手に攻撃をし、ダメージを直接与えるような事はほぼ出来ない。相手がパニックになって自滅するか、囮に気を取られている間に術者自身が攻撃を仕掛ける形となるのが定石。だから陰陽師は古来より、学者でありながら剣術にも長けていたという。儀式に用いるという名目で帯刀する事も多かった。
しかし式神を維持したまま術者が攻撃するとなると、術が揺らぐ。術を作用させながら何らかの攻撃をするというのはとても難易度が高いのだ。異なる術を複数使う事も、困難を伴う。
あの
今回の鬼は複数だが、同じ物なら同時に出せるのだろう。しかし動かせるのは恐らく一体。すべてが同時に攻撃して来る事はない。数を作るためにそれぞれの保有
このように知識はあった。
問題ない。
はずだったのだけど。
一匹の鬼が振り上げた金棒は、轟音を上げて
「うぉ、すごいな」
そのまま
じりっと
あの金棒に当たればただでは済まないと思った。
不意に肩を抱かれ、
そのまま勢いに任せて跳ね起きた
パァンという耳に刺さるような鋭い音に思わず目を閉じ、少年が再び開いた時には、最初見た程の広さではない十二畳ほどの和室が見えた。しかも板間ではなく畳敷き。部屋も幻覚だったのかと驚き見れば、その中を吹雪のように白い人型の紙兵が舞い散る。
しかしながら畳の一枚には巨大な穴が開き、複数の障子戸は原型をとどめてはいなかった。
式神にこのような力があるとは、
震える体をなんとか起こし、新たな師匠となるべき傷の男に目をやれば、彼は最初見た姿と変わらぬ正座の状態で目を閉じていた。
その目が開かれると同時に、眉間には深い皺が刻まれる。
「なるほどな。そちらの青年も一緒に修行をさせろという
苦々し気に彼はそう言いながら、
* * *
「反射だから仕方ない部分はある。一種の生存本能、危機に対応しようという反応だからだ。だがそれを矯正できなければ、君は君自身の想像力で命を落としかねない」
式神でしかない鬼達はその攻撃も幻で、実際にあの金棒で殴られたとしてもそよ風程度を感じるものだったのだろう。あの物理的な力を与えたのは
それに気づいて息を呑む。
かつてゴミ置き場の黒い
相手の動きから次の動作を想像してしまうのは、長年やって来たゲームの影響がかなりあり、普段はそうやってあらかじめイメージする事により回避等の行動を取るわけだが、現実の世界でとなると体が動かないのだ。これがゲームと現実の違い。
得意なVRゲームの 【
その点、実際の武道を嗜んでいる
そしてどうも自分は無意識に、己の中の
体の中に集められて溜まるそれは、ヤタに言わせるとかなりの量であるという。吸い取った彼女が実体を取れる程の濃度。打掛も手を握ったりできるように完全に実体化している。質量を持てる程度の
つまり、殺されると思ってしまえば、本当に殺されてしまうと言える。
「大丈夫か?」
「あ、はい」
「本当か? 真っ青だぞ。震えているし」
この震えは先程の名残ではなかった。自分自身の力が急に恐ろしい物に思えて来て苦しい。ダメだと頭ではわかっているのに、全く制御が出来ていない事がとにかく怖かった。
「
心配そうにのぞき込む
少年は息を呑んだあと、呼吸をするのを忘れていた。
* * *
少女姿のヤタが、キラキラした目で炬燵の天板上をすべる
「これが百円」
「百円」
「これが十円」
「十円」
男の言葉を復唱しながら、散らばった小銭を目線で追う。
「肉まんはいくらだった?」
「税込、百三十五円って書いてあった」
「選んでみろ」
「百、十、十、十、五」
小銭の山から指示された小銭を手元に寄せる。
「よし、買って来ていい」
「やったぁ!」
先ほど二人でコンビニまで行き、男は少女に買い物の仕方を教えた。その時に買った肉まんを食べ終え、鴉の少女はおかわりを所望した。
お金の換算が出来るなら、もう一個買って来ても良いという事になり、ヤタはこれまで以上の集中力でお金を覚えている。
今までは価値がわからないものの、キラキラとしたコインは興味を惹かれるので、宝物入れの中にもいくらかの小銭がすでに入っている。中には小判や古銭もあるという。
学術的に価値のありそうな古代の物も見受けられるが、面倒な事になりそうだったので
小銭を小さなガマ口に入れて、少女が嬉しそうにコンビニに向かう後ろ姿を見送って、玄関を閉める。
ふと足元を見れば、銀色の小さな欠片。
「忌々しいな」
独り言ちながらそれを拾い上げると、パシンとガラスが砕けるような音をさせて指先で砕く。
廊下にもいくつか落ちていて、拾っては砕くを繰り返す。
そして炬燵のある部屋に戻った時、天井からカタンと音がした。これまでノイローゼになりそうな程の回数を聞かされた、屋根に設置したヤタのための出入り口の戸口が開いた音だ。
「鴉?」
先ほど出かけたばかりの少女。何かあって、鴉の姿で急ぎ戻って来たのだろうか。
いつもは打掛が担当している襖を、男の手で開けて鳥が降りて来るのを待つ。
しかし天井から降りて来たのは黒い鳥ではなく、目が覚めるような白。
純白の羽根を備えた、見覚えのない鴉だった。
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