エピローグ
演習場を無事脱出し、離れた丘で夜明けを迎える。あまりにも濃い一夜だったが、不思議と疲労を感じていない。ただ、長い夢を見ていたような非現実的な感覚。
助け出した少女に見つめられ「どうしたの?」と声をかければ、彼女はやや躊躇して「眼鏡は?」と言った。
「今日は外して来たよ、変?」
「ううん、とてもいい」
そんな光景を見つめる一人と一羽。
『私、タクマの傍にいてもいいのかな』
バックバッグから出て来て男の腕にとまったまま、鴉は
それなりの長い付き合いになって、声色や羽毛のふくらみ加減でニュアンスがどうやら伝わったらしい。
「今更どうした。それがおまえの存在意義だろう?」
ニヤリと意味深な笑みを浮かべる無精ひげの男に背中を押され、黒い鳥は羽ばたいて、大好きな少年の肩に舞い降りる。
「どうしたの、ヤタ」
微笑みながら翼を撫でてくれる彼の頬に、顔を摺り寄せる。
『タクマ、だいすき』
「甘えん坊だね」
すり寄って来る鴉を撫でながら、
* * *
後日、一部の自衛隊員が予定にない大規模な夜間演習を無断で行い、民間人に負傷者を出したという事で、
あれほど入っていた宗教団体の関連チラシも見かけなくなり、人々の記憶が薄れる中で”
……そして、完全に消えたように見えた。
第一部 完
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