第二十九話 義兄弟の確執
じゃれ合う一人と一羽を見ながら、
足元に転がる岩に足を置き、青空の中に巨鳥を構成していた
「いい勲章が出来たじゃないか。歴戦の雰囲気が出る」
「……貴様ッ」
権力者の娘と付き合って結婚に漕ぎつけて、
しかし少年を拾って、その澄んだ瞳に映りこむ自分を見た時、押し付けられた全てを今こそ捨てるべきだと思った。荒み、疲れ、意地を張り、力に執着し続ける無様な姿。そんな自分の状態こそ、一切望んだものではなかったから。
周辺の
――どうせ力を振るうなら、気に入った物を護る方がいい。
そして今この腕の中に納まる小さな宇宙を、いつか自分の物にしてしまいたいと思ってしまった。その力をもって、いつか自分からすべてを奪った者達に復讐を。
* * *
――本当に、無駄な時間だ。
自分の陰陽師としての力を増やすために、少しでも修行をしていた方がよっぽど有意義な時間になるはずなのだが、役職を与えられては思うようにいかず。
――まるで俺達陰陽師に本来の仕事をさせないため、この小さな箱の中に閉じ込めて何も出来ないようにしているようだ……。
そして実際に、そのような予感がする。防衛大臣懇意だという宗教団体の存在がいつになく気になる。
引き出しを開ければ砕けた銅鏡の欠片が和紙の上に並べられている。あと一片が欠けているといった感じの欠け具合。間違いなく
忌々しい記憶とセットの左頬の傷を、無意識に撫でる。
不安の元は、
思い起こせば幼少期。突然、家にやって来た一つ下の少年。養子となってその日から
家の中では優位であっても、一歩外に出れば。
陰陽寮に入ってからは、仕事が出来るのは圧倒的に
政府のパーティで一目惚れしてしまった内閣府副大臣の一人娘が、
長男は自分なのにと、荒ぶる気持ちが抑えられなかった。
なのに。
付き合っていた令嬢に、大変な無礼を働いたとのことで突然の婚約破棄。激怒した父親の副大臣が手をまわしたため、
そして令嬢の婚約者の座も、
あの日、山で苦戦した自分をあざ笑うかのように、恐るべき巨鳥の怪異を一撃で仕留めて見せた
岩の割れ目に入ると、砕けた皿や供物の痕跡があった。山体崩壊の前は山の神をまつっていた祠なのかもしれないと周囲を探索する。
太陽の光を反射するように時折輝いて見えるからと名付けられたらしいが、山自体が発光しているという噂もあった。周辺では生き物の多様な進化が多く見られ、特殊な環境であるのは間違いなく、
そんな場所だったこの山には、神がいるのだろうと全ての人間が感じるのも当然だ。この祠は間違いなくこの山の神を祀ったものだという感触がある。その神の宿る物体が、この山に
隙間から差し込む光を頼りに、割れた青く錆びた銅鏡を見つけた時は思わず
「そういえば、
それもこの銅鏡が特別なものであるという証拠に思えた。
外に出て、
「一足遅かったな。鏡は俺が手に入れた!」
しかし
* * *
「ところで、俺はいつまで見ないふりをしていればいい?」
いつまでもじゃれ合っている
「す、すみません」
「クァ」
黒い鳥も、照れたように一瞬膨らんで首をかしげて誤魔化した。
「たっくんは、セーラー服とタイツが好きなんだな」
「え!? 突然なんですか」
男は少し意地悪く笑う。
「たっくんの
ギクッとしてしまう。そう、拓磨はずっとブレザーの学校だったので、セーラー服が可愛いと思ってしまうのだ。そして厚手のタイツも好きで、太さのある部分だけうっすら肌色が見える感じがドキドキしてしまう。
思わぬところで己の性癖の暴露になってしまっていたことに、少年は真っ赤になって俯くしかない。
「俺も、その組み合わせが好きなんだ。気が合うな。さすがにこの年になると、セーラー服については大っぴらには言えないが」
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