反抗期のソフトクリーム

 ボクは激怒げきおこした。かのマク◯ナル◯のソフトクリームを食い尽くさねばならぬと決意した。


 夏の日の夕暮れ時だった。


 思わぬ裏切りって物語のスパイスとして最高だよねっ。


 いままで親友で仲間だと思っていたのに後ろから拳銃で撃たれ、朦朧もうろうとした意識を手放す寸前に、赤裸々に語られる独白。


 過去の出来事とその復讐。


「お前は良いやつだよ、最高の友達だといまでも思っている。けれど僕たちの生まれが、お前と僕に流れるこの血がそれを許さなかった」ベタだけどこのような感じでしょうか?


 ストーリー的にも作者に裏切られるわけだけれど、この想像をこえてくる展開に幾度となくドキドキさせられるのだ。


 では、現実でそれが起こったらどうなっちゃうかと言うと、基本しょんぼりしますね、はい。そしておおむね言葉を失う。


 切った張ったということは事件性でもないかぎりないけれど、小さな裏切りの連続で日常はできているのだ。


 えっと……ボクだけじゃないよね?


 たとえば、一緒にコンサート行こうね。からのチケット一枚しか取れなかったごめんねとか。


 たとえば、マラソン大会ウザいよね、テレテレ走って最後に一緒にゴールしよからの先生の「おまえら、最後になったやつ補習な~」からの猛ダッシュとかさぁ。


 たとえば私たちずっと独身でいよーね、ずっ友だからねからの、キミの幼馴染くんと結婚することになったんだ。


 とかもうなんなの。ってなるヤツ。


 気がつけばアチラコチラに裏切りの種が芽ぐみを待っているのだ。


 夏の日に街をぶらついたボクの姿は、一服の清涼を求めて冷房の効いた王手ファストフードチェーン店の窓際にあった。


 注文して手にしているのはソフトクリーム。いい年齢としをしたおっさんが食べる姿は絵面的には良好でもないので詳細は割愛させていただくが、ソフトクリームである。


 冷たくて美味しいよね。


 席について手にしたソレを見たときに気がついてしまったのだ。


 コーンの持ち手のところに付いている紙があるではないですか、アレがちょっとずれてる。もしかして二重になっているではないですか。


 気になっちゃうよね、コレ?


 それで、ボクは一枚が余計だし引っ張って取り外すことにしたんだよ。


 上部のクリームを受け止める部分を右手に保持して、左手で紙の一部をさほど力を入れないで引っ張ったんだよ。


 そうしたらどうなったと思う? ちょうどコーンの境目、段差のところでパッキリ割れ、分離しました……。


 ひどい裏切りぢゃないですか、全幅の信頼をおいていたんだよ?


「あぁぁぁぁっぁljdyふう……」


と、しょんぼりでも声を失うでもなく、ひどく悲しげなおじ声が店内に響いたわけさね。


 ボクとしてはパニックだよ。


 暑い日だったしソフトクリームだから溶ける速度も早いし、上下に泣き別れてるし。手はベトベトだし甘いし冷たいし周りに人がいて恥ずかしいし。


 近くの男子高校生の群れがこちらを見て爆笑していた。


 あの日のひどい裏切りと屈辱をボクは忘れない。

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