幸せな朝のひととき
鴨田とり
幸せな朝のひととき
「ん、むぅ…。」
ごそりと、となりに眠る馬車道が身じろぎをする。
安らかな寝息を立てながら夢の中で何か食べているのか口元をむにゃむにゃと動かしながら幸せそうに眠る顔を眺め、つい笑みが漏れ出てくる。カーテンの隙間から差し込む朝日とかすかに聞こえる小鳥のさえずりに急かされ1つ大きくのびをした後、馬車道をベッドに置いてキッチンへ向かう。冷蔵庫から食材を取り出し、ベーコンを弱火でカリカリになるまで焼く。その間に卵を割って薄味を付けてよくかき混ぜる。ベーコンが焼き上がるまでの間に馬車道おすすめのベーカリーで買った食パンをトースターに入れる。
おっと、そうだお湯も沸かしておかないとな。
ベーコンの脂が爆ぜる音を確認して火から下ろし、そのままそのフライパンでスクランブルエッグを作る。スクランブルエッグは強火で手早く。あとは火を止めて余熱で卵に火を入れる。
沸騰して湯気が出る小鍋から自分のマグカップにコーヒーを淹れると自然と肩の力が抜けるのが分かった。残ったお湯でコンソメスープを作りながらコーヒーを啜る。胃の中に暖かいコーヒーが拡がるのを感じながら焼き上がったトーストにマヨネーズを薄く塗り、コショウを少し振る。
―ドンッ!
突如ベッドルームから鈍い振動が伝わってくる。キッチンの火が全て止まっているのを確認して急いで向かうと、握り拳を頭上の壁に打ち付けた馬車道がいた。昇竜アッパーかよ。自身も痛かったのか少し泣きそうな表情になりながらも起きはしていないらしい。もごもごと口が動いたので聞き耳を立ててみる。
「おれは、、、わるく、、、ねぇ、、、」
いや、寝ぼけてアッパーした手が痛いのは自業自得だろうよ。
喉の奥からこみ上げる声を押さえられるはずもなく、くくくっと笑いを噛み締めながら馬車道を撫でてやると機嫌が直ったのか、また安らかな寝息を立て始めた。
何事もなく安心してキッチンに戻り、トーストの余熱でマヨネーズが溶けているのを確認したらベーコン、スクランブルエッグ、レタスを数枚乗せてもう一枚のトーストで挟む。つぶれすぎない程度に上にまな板で重みをつけたら、馬車道を起こしにベッドルームへ戻る。
思った通りまだ夢の中で食事をしているのか口の端からヨダレが出かかっている。そんな馬車道を見て思わず笑みがこぼれた。カーテンを勢いよく開け馬車道の包まっている布団をはぎ取る。
「馬車道、起きて。朝だよー。」
目を閉じたまま眉間に皺を寄せ車エビのように体を丸める馬車道の頭を優しく撫でる。細くて柔らかな馬車道の髪。朝日に反射してきらきらと輝く様はどんな宝石よりも綺麗だ。もちろん、全力で楽しんでめまぐるしく変わる表情や案外体力のあるアクティブさも馬車道の魅力ではある。まぁ、本人に面と向かっては茶化してしか言えた試しがないが。
「ん゛ん゛……あさぁ…?」
しょぼしょぼと瞬きをする馬車道の額に優しくキスをする。
「朝だよ。おはよ。朝ご飯出来てるよ。」
「ごはんん…。」
馬車道の頬を指の甲で撫でると無意識なのか猫のようにすり寄ってくる。
「ほら、顔洗っておいで。さっき少しヨダレ垂れてたよ。」
「!!!!」
さっきまでまどろんでいたはずの馬車道が勢いよく起き上がる。ぺたぺたと口の周りを触った後、シーツを確認している。そんなに気にしなくていいのに。口を手で覆い、くすくすと笑っていると枕を投げつけられた。
完全に目が覚めたのを確認してキッチンへ戻り、スープ椀に乾燥パセリとクルトンを入れる。朝食を皿に盛り付けているとテーブルに馬車道が座るのが見えた。小さい声で独り言を呟きながら手を握ったり開いたりして首をかしげている。さっき寝たまま壁とケンカして負けてたもんな。
「今朝は何飲む?」
「オレンジジュース!」
コップを出して冷蔵庫を覗きながら声を少し張ると元気よく返事が返ってくる。
食事をテーブルに運び、馬車道の正面に座る。
「ふおぉぉぉ!トーストサンドだ!いただきます!」
目を輝かせながら手を合わせる馬車道を眺め、つい、にこにことしてしまう。
「そんな急いだら喉に詰まるよ。」
「らいひょーぶ!おいひい!」
リスのように頬張り親指を立てる馬車道にオレンジジュースを勧める。自分が作った食事をおいしそうに食べる馬車道を見るだけで心が温かな物で満たされていく。
「いつもおいしいご飯をありがと!」
胃袋が満たされた馬車道が微笑む。
「こちらこそ。いつもおいしく食べてくれてありがとう。」
さあ、エネルギー補充満タン。今日も一日頑張れそうだ。
幸せな朝のひととき 鴨田とり @kamodashi
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