第五十四話 その後の顛末


「いい仕事に」

「俺達の街を守ったことに」

「「「「「乾杯ッ!」」」」」

「今日の俺はお大尽だぁっ! マスター、酒!」

「俺は肉! とにかく肉! 怪我した分血肉を摂らねぇと!」


 ここは『フロースガルの竈亭』。

 常連冒険者達の喧騒がいつも以上に騒がしい。お祭り騒ぎのようなやり取りがさっきからそこらじゅうで繰り広げられている。


「ったく! どいつもこいつもハシャぎやがって……休む暇もありゃしねぇ!」

「ふふ……。頑張りましょうね、あなた」

「これは稼ぎ時。紐が緩くなった財布からがっぽり儲ける大チャンス。イエーィ」

「イエーィ! みんな頑張ったんだし、ま、私らも労わないとね?」


 従業員であるベオさん一家も大忙しだ。忙しなく、楽し気に常連客達の面倒を見ている。

 ベオさんも愚痴っぽい口調だがさっきから大車輪の活躍で次から次へと料理を作り続けている。

 平和な光景だ。僕らが守りたかった光景だった。


「おーおー、張り切っちゃってまあ。ベオさんも久々に大立ち回りしたからか妙にテンション上がってんなぁ」

「元・冒険者なんだよね、ベオさん。小型竜ディノニクス相手とはいえ流石」

「肉、美味ウマい。ベオ、上手ウマい」


 そのお祭り騒ぎの一角に僕とダイナ、そしてルフは同じテーブルを囲んでいた。

 麦酒エールを飲み交わす僕らの横でアグアグと嬉しそうに大量の肉を平らげ続けるダイナ。いつも通りと言えばいつも通りの光景だった。


「……気のせいか怖いこと言ってね、こいつ?」

「大丈夫、人肉の味は覚えさせてないから」

「微妙に安心できねえよその台詞はっ!?」


 と、笑い話を交わしながら、話題は当然少し前の竜災――ディノレックス率いる群竜の襲撃、その顛末に移った。


「正直あの時はビビったなー。突然ドでかい音が鳴ったと思ったら城壁が崩れて、挙句の果てにデカブツ率いる群竜ディノニクスの襲撃だもんよ。どんだけ不運が重なったんだっつーの。ギルドで聞いた時は冷や汗かいたぜ」

「全て王城の《勇者》による不徳でありただの一冒険者としては誠に遺憾です。ほんとあのバカのお陰でこっちは振り回されたよ」


 と、一応は関係者ではあるが無関係を主張する僕である。実際僕らに責任があるかと聞かれたらそんなものはないと断言させて頂きたい。


「《勇者》、《勇者》かー。……あー、この話は止めとこうぜ。酒が不味くならぁ」


 と、杯を傾けながら酷く憂鬱そうな顔のルフが言う。天道の蛮行以上に、《勇者》への思い入れからのものと感じた。

 やはりウェストランドの国民にとって《勇者》は大きな存在なのだ。それだけに王城やへの怒り、失望が激しいようだ。


「この一件、やっぱ早めにリーダーの首取れたのがデカいな。あれでディノニクスの統制が完全に崩れたみたいだし。手柄首だったな、《竜使い》殿?」

「そういうルフも活躍したんだろ? 武器を選ばず場所を選ばず。流石だね、《ウェポンマスター》殿?」


 空気を換えるためか、互いをからかう言葉で一刺しして笑い合う。ちなみに《竜使い》はダイナと僕の関係から付けられたあだ名だ。

 奴らのリーダー、ディノレックスの女王は僕らの手で倒した。

 そして女王が率いていた群竜ディノニクス達だが、その大半がの手によって倒された。

 そう、ギルド長が発行した例のクエストだ。


「確かクエストが発行できたのは……」

「ああ、殿。何があったか知らんけど、脇腹抉られて死にかけながらギルドにたどり着いて事態の報告まで気絶しなかったんだ。大した根性だよ」


 いまも生死の境をさまよっている彼の尽力によって冒険者ギルドはスムーズに手続きを完了。高額報酬につられ、今か今かとしていた冒険者達を解き放った。

 結果始まる冒険者達のフィーバータイム。

 脳筋と野蛮人の聖地マインの冒険者の質と量は一級品。都市内部に入り込んだディノニクスは一昼夜かけて完全に狩り尽くされた。


「それでも多少の被害は出たけどな。ま、あの数の魔獣に都市内に押し入られたと考えりゃ少ない方さ」


 カパカパと麦酒エールを干しながらルフが気楽に言う。流石は《狩人》、自分も含めて命が軽い。


「死んだ奴はどうにもならんが、生きてる奴はお貴族様から手厚くしてもらってるらしいしな。お前の師匠もそうなんだろ?」

「うん、マインでも指折りっていう治癒術士さんに診てもらってる。思ったより早く復帰できるみたいだ」

「聞いたことあるな。確かかなり美人って噂の……実際どうなの?」

「ノーコメントで」


 ディノレックスの突撃を受け、重傷を負ったエフエスさん。

 彼女を診た治癒術士から命に別状はないことを聞き、僕もホッと胸を撫で下ろしたことを覚えている。

 この状況下で腕利きの治癒術士をほぼ専属で付けてもらっているあたり流石はBランク冒険者、周囲も下には置かない扱いだ(のちにこれはだったことがエフエスさん経由で知らされた)。


「あ、噂と言えば。アレってマジなのか? 規格外コンビ」

「アレって? あとそのあだ名止めない? 僕らはどこにでもいる運び屋志望のDランク冒険者なんだけど?」

「いやーその発言は無理があるって。現実を見ろよ、な? Dランク冒険者がいてたまるかっての」


 その言葉に僕は思わず酢を一気飲みしたような顔をしたと思う。


「……………………」

「あ、その反応マジなんだなー……うちの公爵様のひも付きになんの? そうなると未来の騎士爵? 下賤なならず者としては敬語を使った方がよろしいでしょうか?」

「止めろよそういう反応! 微妙に傷つくだろ!?」


 話題の公爵家、正式名称はウェストガード公爵家。

 西の盾の異名を持ち、ウェストランド初代国王の弟が建てたという極めて由緒正しい超名門。

 ウェストランド第二の都市であるマインを支配する、名実ともにこの国のナンバー2である。

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