第五十話 潰す
「天道は僕が抑える! ダイナ、エフエスさんを回収して下がれ! ギフトはなし、いいね!」
「分かっタ。エフエスッ、助けル!」
僕が指示を出すとダイナが矢のような勢いでエフエスさんに飛び出していく。ディノニクスには敢えて変身しない。この状況では誤解からのフレンドリーファイアが怖すぎる。
(大丈夫、ダイナはギフトを使わなくても強い……)
見た目はよく言って中学生くらいの幼さだが、ギフトか天性の資質かダイナの身体能力は既に僕を大きく超えている。竜形態に変身しなくてもエフエスさんを担いで逃げるくらいは余裕だ。
(いま一番危ないのは天道だ。とにかく奴を止めないと!)
《極光》の破壊力と被害を出すことに躊躇しないイカレた脳味噌という最悪のコラボ。洒落抜きにマインへ最も大きな被害を与えかねないのが天道だ。ディノレックスすら奴に比べれば可愛いものだろう。
『
咆哮が轟く。
次いで衝撃が大地を走った。
「ディノレックス……! クソ、大通りの防衛線を突破された!」
城門から正面に見て真っすぐ続くマイン最大の大通り。
最も多数の兵士が即席のバリケードと肉壁で
最悪だ。天道はほぼ確実に都市の家屋ごとディノレックスへ《極光》を向けることを躊躇わない。
「天道、どうしてお前がここにいるっ!?」
その前に奴を止める。
背を向けたディノレックスを狙い、再び極光宿る剣を振り上げた天道がこちらを向いた。
「僕の邪魔をするな、『荷物持ち』が何のつもりだ!」
「それはこっちの台詞だ、このクソ野郎ッッッ!!!!」
よりにもよってこの状況で、この男にだけは言われたくない台詞を言われてしまった。
正直に言おう、ブチ切れた。やれるものなら今すぐ生まれてきたことを後悔させたい。
「決まってるだろう、バケモノ退治さ!
「お前……お前――!」
この状況を、お前が呼び込んだ災厄をよりにもよってお前が幸運だなどと。恥知らずにも程がある台詞に頭に血が昇った。
「丁度いい。お前もここで消してやる、このゴミクズがッ!」
挙句の果てに道理も何もなく僕を狙い、剣を構えて振りかぶろうとする。
ブチン、と頭の奥で”何か”がキレる音が聞こえた気がした。多分理性とか良識とか堪忍袋の緒とか呼ばれる”何か”だ。
「来いよ」
「……なに?」
「ここだよ、ここだ。しっかり狙え」
怒りが一周回って穏やかな心持ちになった僕は両手を広げ、「さあ来い」と天道を挑発する。天道の傲慢の源である《極光》への妄信。それをへし折るため敢えて余裕綽々に笑いかけた。
「気に入らないな……僕を怖がれ! 崇めろ! 跪いて許しを請え!」
「
時間が惜しいと呟けば、天道も頭に血が昇ったらしい。顔が真っ赤に染まり、怒りのままに剣を振り切る!
「いいだろう……本気でやってやる! 僕に逆らったことを地獄で後悔しろ!」
僕の目の前に黄金の輝きが迫る。触れればあらゆるものを両断する、文字通りの必殺技。
本当に、見かけだけは美しい光だ。
そして僕は――、
「《アイテムボックス》、発動」
「は……えっ……? ど、どこに消えた?」
天道の言葉通り、光の刃は僕の身体に届く直前で忽然と消えた。
だけど本当に消えたわけじゃない。僕の《アイテムボックス》内にしっかりと収納されている。
これもまた僕のギフトが規格外であることを示す一つ。
いま見せた通り、僕の《アイテムボックス》は天道が放つ極光の刃はもちろん竜種が放つブレスなど大概の遠距離投射攻撃を『収納』できるある種の盾としても機能する。
「も、もう一度だ!」
「もう諦めるまで好きなだけやれよ」
二度目の斬撃も同じように唐突に消えた。
無駄だ、既にタイミングは見切った。極光の刃は視認できないような超速度の攻撃ではない。意識外からの不意打ちでもない。
「もう一度!」
ならあとはコピー&ぺ-ストのように同じ光景が繰り返されるだけ。
「……もう一度!」
一歩、天道に向けて足を進める。
「ま……まだまだ!」
さらに一歩。
「い、嫌だ……来るなっ!」
さらに一歩。
「大人しく消えろよ、なんで死なない! お前、なんなんだよぉ……ッ!?」
さらに一歩。天道との距離はすぐそこ。もう一歩踏み出せば手が届く。
「死ね、死ね、死ね――! ……な、なんで剣が、消え――装備も!?」
ヤケになったかやたらめったらに振り回す剣と装備一式を《アイテムボックス》で強奪。徹底的に痛めつけるための下準備はこれで完了だ。
「
殺す、という言葉は好きじゃない。どこかの兄貴が言った通り使うなら「ブッ殺した」だ。けど僕にそこまでやる理由も覚悟もないから口にしても嘘になってしまう。
だからせめてこう言おう、そして実行しよう――潰す、と。
一瞬後、天道の喉から汚い悲鳴が絞り出された。
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