第三十一話 ダイナとデート
それからしばらくごく普通に
朝食を終え、部屋でのんびりしていたダイナに僕はデートのお誘いをしてみることにした。
「ねえダイナ、ちょっと僕と
「デザート? 食べル? 行くッ!」
「お菓子を食べるのはもうちょっと後でかなぁ、うん」
「?」
できるだけサラッと誘ってみたら斜め上の聞き間違いをされて思わず苦笑いだ。お互いがお互いの言葉に首を傾げつつ、僕らは外へ出かけることにした。
◇◆◇◆◇◆◇
僕がダイナをデートに、というか遊びに誘ったのは単純だ。息抜きと情操教育の一環である。
働いてばかりでは気が詰まるし、疲れも溜まる。幸いギルドのミシェルさんが僕らに給金のいい仕事を回してくれるので、(ダイナの食費を差し引いても)お金には余裕がある。
僕はどちらかというと大人しいタイプなので休みの日は大概長期契約している宿屋の一室でダラダラしたり、ちょっと散歩で外をぶらついたりすることが多かったのだが。
(うちのダイナが可愛すぎて困る……)
と、我ながら贔屓目が過ぎる感想を覚えつつ、実際この半年でダイナは本当に綺麗になった。
竜形態ほど明確ではないが人間の時の姿も成長し、今は伸びやかに振舞う十二歳くらいの少女に見える。
美少女と言っていい造形にデバフをかけていた痩せた体つきとカサカサだった髪はたっぷりの食事と睡眠、運動をとることで見るからにふっくらと色艶を増し、幼子の無邪気な笑みは見た者をホッと和ませる。
アグアグと元気よく食べ物を平らげ続ける姿はいまや逗留する宿屋やフロースガルの竈亭でちょっとした名物になっており、餌付け感覚で一品二品奢ってくる人も増え、店の売り上げも上がった。もう半分マスコットキャラみたいな扱いだ。
ギルドでより一層人目を引くようになったのもダイナの成長と無関係ではないだろう。
日に日に可愛らしく成長していくダイナを見てこれはちょっと免疫を付けないと彼女にも周囲にも良くないと考えるようになった。本人はまだまだ色気より食い気だが悪い男というのはどこにでもいるものだし、と僕自身どの目線からの考えか分からないままダイナをデートに誘うことにしたのだ。
だから一度くらいは可愛い女の子とデートしてみたいなぁという僕自身の下心によるものでは決してない。ないったらない。
「遊びに行クの? また孤児院?」
「実は絶対に最初はここに来いって言われてるところがあって……まずはそこに行こうか」
と、足を向けたのはギルドからも近いお店『フロースガルの竈亭』だった。
「ベオの店? 食べル?」
「いや、食べないよ。それに朝ごはんを食べたばっかりでしょ?」
「ショボン……」
目を輝かせた一瞬後、残念そうに肩を落としたダイナを他所に『CLOSE』となっている店のドアを叩くと……すぐに内側から開かれた。
中から現れたのは三十代半ばの落ち着いた雰囲気のご婦人と、僕と同じくらいの歳の明るい笑顔とぼんやりした顔付きがそれぞれ印象的な二人の少女だ。淡い色の栗毛が三人ともよく似ている、魅力的な女性陣だった。
「待ってたわ、ホダカ君、ダイナちゃん。今日はよろしくね?」
「いらっしゃーい」
「ようこそ」
彼女たちは店主ベオさんの奥さんと娘さん達である。全員がパッと目を引く美人さん達で、ベオさんが自慢するのも分かる気がする。
ルフに連れられて以来、僕らは何度かこの店に足を運び、彼女達と顔見知りになった。そしてダイナとの
「相変わらずダイナちゃんは
「綺麗な髪。肌も白いし、鱗もとってもチャーミング。これは着飾らせ甲斐がある」
彼女達は意味が分からずコテン、と無邪気な子猫のように首を傾げるダイナを見ると途端に相好を崩した。女性は世界と世代を超えて可愛いもの好きというが本当らしい。
いまも泣きぼくろの位置に点々と浮き上がるダイナの竜鱗を指さし可愛い、素敵ときゃいきゃいはしゃいでいる。
「でも服はダメだね、センスない」
「うん、ダメダメ。女の子に着せる服じゃない」
なお僕がダイナに着せた簡素な貫頭衣は彼女らのお気に召さなかったらしい。
そうは言ってもこちらにもギフトや予算とか色々あるのだが……今の彼女達にはどんな言い訳も通用しそうにない。僕は「沈黙は金」との格言に従い、隅っこの方で黙り込んでできるだけ気配を押し殺すことにした。
「???」
一方果たしてこれは何事かと困惑しているダイナ。
戸惑う彼女の肩に柔らかくも問答無用の勢いで二人の手が置かれる。
「それじゃおめかし、しよっか?」
「これは弄り甲斐のある素材。大丈夫、今日のあなたは街一番の素敵な女の子」
「???」
二人に手を引かれ、最後まで戸惑っていたダイナが連行されていった。
その背中に僕はひっそりと頑張れと声をかけた。そしてダイナが戻ってくるのを待とうかと適当なスペースを探したところで、
「あなたもよ? 可愛い女の子の横を歩くには、男の子も気張らなくちゃね?」
……いつのまにか背後から近づいた奥さんの手が僕の肩に置かれていた。
ニッコリ笑顔でそう言われた僕に抵抗の術はなかった。
「……よろしくお願いします」
両手を上げて降参し、奥さんの後ろをトボトボと付いていったのだった。
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