第二十五話 受付嬢との”楽しい”冒険者談義
例の
彼らからの報復を警戒しながら過ごしていたが、特に何か起きることもなく、しかしそこはかとない違和感を感じながら日々が過ぎていった。
ただ野生の勘に優れたダイナはよりはっきりと感じていたようで、ある日こんな風に溢した。
「ンー……。なんカ、変?」
「変? 何が?」
「私達、変わっテない。変わっテないのに、変わっタ」
まるでなぞなぞか禅問答のようなダイナの物言い。絡まった糸を解きほぐすようにゆっくりと問いただせば、その意味はすぐに分かった。
「これまデ私達は
ダイナが感じ取っていたのは周囲からの視線だ。これまで依頼を成功させても、
例のチンピラをぶちのめして全裸に晒し上げた件はこの街の冒険者たちへ相当に
「ええ、それはもうはたから見ているだけで愉快でしたわ。ギルドでも色々と喧伝させてもらいましたし」
とは、のちにギルドでミシェルさんが言葉通り楽しげな笑みを浮かべて言い放った一言である。
「彼らは経歴だけ長いくせに、新人を付け狙ってはカツアゲする常習犯でしたの。コソコソとケチな犯行ばかりで、だからこそ目溢しされていたのですが、そろそろ目に余り始めていたところだったので。
ホダカ様の
この街の冒険者ギルドと憲兵は優秀だ。小競り合いや単発の犯罪くらいなら目溢しもあるが、徒党を組んで組織的に、常習的にとなると途端に察知して潰しにかかるという。
そうした裏稼業専門の荒事要員を抱えているという噂すらある。すべてエフエスさんからの受け売りだが。
ヤクザに似た性質を持ち、ある面ではそれ以上に凶悪な、間違いなくこの街で最も喧嘩を売ってはいけない組織の一つだ。
「長らく目溢しされていたことで色々と高をくくっていたようですが、ホダカさん達との一件がいいキッカケになりました。軽く素行を改めれば余罪もぞろぞろ湧いてきましたし、本当に丁度いいタイミングでした」
「丁度いい?」
「一罰百戒。いい言葉ですよね♪ ええ、何故か忘れられがちですが、ギルドは善良な冒険者の味方ですので。それを示すいい機会でした」
ありがとうございます、とニッコリ笑顔でお礼を言ってくるミシェルさんが頼もしいやら恐ろしいやらで彼らの末路など聞く気にはなれなかった。
ただ僕がキッカケとはいえ、彼らの行く末はあくまで自業自得によるものだとミシェルさんは繰り返し言っていた。
「彼らもこのまま底辺冒険者としてつまらない犯罪を繰り返すより農村で監督されながら懲役刑をこなした方がまだマシでしょう。少なくとも食事にありつけて、世間の役に立つわけですし」
「底辺冒険者、ですか。確か彼らもDランクですよね」
もちろん僕もDランクだ。彼らと僕を分ける境とは一体なんだろうか。
「Dランクもピンキリですからね。Dに上がれば冒険者としてとりあえず食うには困らない。だからこそ堕落する人も多い。経験上Cランクに上がる人はここで足踏みせずにさっさと上がる傾向にあります」
物資運搬メインの
意外と言えば意外だったが、この街の冒険者界隈では経歴が長い=実力のあるベテランとは限らない。僕も所属するDランクはこの街の冒険者の半分以上を占めるという(ちなみに次に多いのは成り立てのランクなし。合わせると九割を超えるらしい)。
その大半は
「Dランクでヌクヌクやっている方が楽なんですね、結局。ギルドを通じた街からの業務委託ですが、実は普通の仕事より少し単価が高めです。
その裏にはマインで一旗揚げようとやってきた素人冒険者が資金を貯め、装備を整えて上位を目指すための支援という側面がありました」
「ああ、下層労働者にお金を流すための一種の公共事業な訳ですね」
興が乗ったのかミシェルさんも少し脇道に逸れた話を始めるが、僕としても中々面白そうだったのでそのまま相槌を打った。
「理解が早いですね。詳しく説明しても首を捻られる方が多いのですが。時に貴族の方ですら」
「アハハ……」
ミシェルさんからの感心の視線に苦笑いで返した。そりゃ現代日本における高等教育というある種のチート持ちですので。
日本でもその昔天災の度に寺社仏閣の類が建立されたというが、単に信仰心の問題ではなく、困窮した民衆に金銭をばら撒くためという側面があった。
お金は蓄えるだけでは意味がない。使わなければそれは動かない死んだ金だ。
そしてマインの指導者層は蓄えた金銭を街のウリの一つである冒険者への支援に使ったわけだ。実際悪くない目の付け所だと思う。
「ところがその試みは必ずしも大成功とは行きませんでした。一定の効果は見られたのですが、予想外の事態が起きたのです」
「予想外の事態?」
「ヒント。この街には冒険者を名乗りながら魔獣の討伐依頼を受けたことがない人達が少なからずいます」
……すいません。それ、本当に冒険者なんですかね?
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