第十七話 朝起きたら美幼女が隣で眠っていた。全裸で。

「???」


 翌朝、朝日が昇り陽の光に照らされて僕は自然と目を覚ましたのだが。

 寝ぼけ眼を開いた僕は困惑していた。


「……すぅ……すぅ……ぁふぅ」


 瞼を開いたら目の前に見知らぬ少女がスヤスヤと気持ちよさそうに眠っていた。全裸で。

 正直に言うが心臓が止まるかと思った。

 驚きのままマジマジと少女を見つめるとその大輪の花の蕾を思わせる繊細な顔立ちが見て取れる。方向性こそ違えど将来はエフエスさんにも負けない美人さんに育つに違いない。

 肩くらいまで伸びた青みがかった銀髪。むずかり、息をつく愛らしさは子猫のよう。無邪気であどけない寝顔は無防備で、母の手に抱かれた赤子のように安堵にまどろんでいる。


(誰?)


 そんな天使か子猫かというようなあどけなさと愛らしさを備えた幼女だが全くの見知らぬ他人でありつまりは不審者である。

 街道で野営中に息がかかるような至近距離に近づかれたら警戒すべき、なのだがどうにも警戒心が湧き上がらない。見た目が完全に無害な子供だからだろうか。


(というか裸……)


 出来るだけ自然な仕草で僕が包まっていた毛布を少女に被せ、すっぽんぽんな肌面積を抑えた。チラリと視界に入れただけで透けるような白い肌が見えた。こんなところをエフエスさんに見られたら誤解からの詰問が怖すぎる。あと良心が若干痛い。

 とりあえず一旦このお嬢さんのことは置いておこう。ひとまず無防備に眠っているようだし、起きてから事情を聞けばいいだろう。


(そういえばあのチビ竜はどこにいった?)


 と、ここでようやく例の子竜を思い出す。立ち上がって周囲を見渡すがその姿は見当たらない。

 そもそも昨日はあのおチビさんと一緒に寝ていたはずなのだ。もしやこの小さなお嬢さんに驚いて近くにある岩の影にでも隠れたか。またはないと思いたいが縄を切って逃げたか。

 その行方を探して両端を岩とあのチビ竜の胴体に括り付けていた紐を視線で辿っていく。岩に結んだ位置からスタート、そのまま反対側へ視線で追跡していくと……。


(???)


 再び困惑した。

 例の紐は僕の隣に眠る幼女の胴体に括り付けてられていた。


(この紐はしっかりあのチビ竜に括り付けてた。いまはこの子に括り付けられてる。つまりこの子はあのチビ竜だ、Q.E.D……ンなわけないだろ!)


 竜が人に変身するなんてありえない。

 僕の常識がそう訴え、思わず胸の内だけどセルフツッコミを入れてしまったのだが。


「ふわぁ……んー……やー」


 その気配を感じ取ったか少女が身じろぎするとパッチリと目を開いた。

 もぞもぞと気怠げな動きで起き上がり、被せていた毛布を払い落とすと眠たげに瞼を擦ろうとする。たちまち視界の中の真っ白な肌色面積が増えた。

 対面する僕と素っ裸の少女。非常に危険な構図である。


「ちょっと待った。頼むから毛布くらいは身に付けてくれ!」


 半分悲鳴を上げ、主に僕の社会生命のために少女が払い除けた毛布を肩から羽織るように被せた。

 少女は一瞬不思議そうに毛布を視線を送り、次いで僕の方を見る。そしてしっかりと目があった。途端に少女の意識が僕の方に集中するのを感じた。ギュイン、という感じで目の焦点が一気に僕の方へ向かった感じだ。


「お、おはよう?」


 向けられた真剣な視線に戸惑いながらとりあえずの挨拶。

 状況が全くつかめていないがとりあえず挨拶は大事だ。

 対して裸身の少女は、


「あー! うー!」


 喃語のような言葉にならない叫び声を上げながら太陽のような満面の笑みを浮かべた。ピョンピョンと跳びはねるような動きで僕に向かって抱きつき、甘えるようにゴロゴロと喉を鳴らす。

 抱きつかれた箇所からふわふわと女の子らしい柔らかさを感じながら、僕は困惑した。

 そして同時に気付く。この少女、腕や首の一部に明らかに人間のものではない鱗状の物体がくっついている。ファッションや付け爪の類ではないのはお洒落の概念を投げ捨てた全裸っぷりからも明らかだ。


「ちょっ、いきなりなんの真似を――!」

「?」


 異質すぎる少女へどういうことかと問いかけるも返ってきたのはにへら、と警戒心の欠片もない緩んだ微笑み。無邪気そのもの、拒絶されることなど考えてもない笑顔だった。

 この子を押しやることは簡単だったが、ここまでノーガードな笑顔を見せられると凄まじく拒絶しづらい。


「な、名前。せめて名前と状況から――」

「ホダカ」

「え、僕?」

「ホダカ!」

「いや、僕じゃなくて君の名前を……そもそもなんで僕の名前を君が知っているんだ」


 次から次へと少女が行動するたびに頭を悩ませる事項が増えていく。

 少女はこちらの気も知らずに困惑する僕にただひたすらにニコニコと笑顔を見せていた。


「んー」


 結局少女は何も答えずにグリグリと頭を僕のみぞおち辺りに擦り付け始める。親愛を示されているようだが僕はただ困惑することしか出来ない。

 そしてその拍子にまた身体を覆っていた毛布を落とし、真っ白な裸身が僕の視界に――――。


「すいませんエフエスさん。助けてください!」


 限界を感じた僕はすぐにこれ以上の対処を諦め、エフエスさんに向けてヘルプコールを叫んだ。

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