第六話 エクストラギフト
「またまた。あなた、私を担ごうとしてもそうはいかないわ。
「……え」
「え?」
奇妙な間が空き、呆けた顔を晒すと僕が素で言っていると彼女も察したらしい。
途端に笑みが消えて真剣な表情に変わる。
「本気で言っているみたいね。ならちょっと実験をしましょうか」
「実験?」
「そ。さて取り出したるはどこにでもある銅貨が一枚。置く場所は……カウンターでいいか。どうせ客もいないし」
と懐をまさぐって取り出した銅貨一枚。席を立ったエフエスさんが余計な一言ともに少し離れた位置のカウンターにこれを置いた。
あ、厨房のマスターがエフエスさんを睨んでいる。最後の呟きがマスターの耳に入ったようだ。
なおまるで気にしていないあたりなんというか逞しい人だなと思った。
「さあ、これを《アイテムボックス》にしまってみて」
「えーと」
その言葉に従い、カウンターに置かれた銅貨を見つめる。問題なくしまえそうだ。そんな確信が自然と胸のうちに湧いてくる。
不思議な感覚だった。まるで呼吸をするように自然とギフトを使えている。おそらく使いこなすまでには至っていないのだろうが。
「それじゃ、しまいます」
気負いなく、当たり前のように。
力を込めるようなこともなく『そうする』ことを念じると、視線の先の銅貨が消えた。
同時に《アイテムボックス》の収納スペースに銅貨が一枚追加されたことを感じ取る。
(改めて見ると完全にファンタジーな絵面だな。ありえないって意味で)
そのファンタジーをなしたのが自分自身ということも含めて不思議な気分だ。
「じゃあ、しまった銅貨をテーブルの上に取り出して。もちろん手は使わずに」
「はい。では出しますね」
大人しく従い、その通りにする。
机の上に現れた銅貨を手に取り、じっくりと見極めているエフエスさん。
「うん、確かに。私が付けた傷もそのままね。これで離れた場所にあるものをしまえたことは確定、と。で、申告通りギフトが《アイテムボックス》で間違いないのなら……」
細かい細工によく考えているのだなと素直に感心する。
そのまま顎に手を当てて考え込むエフエスさんは少しの時間を経て、一つの単語を呟いた。
「――
エフエスさんの頬に楽しげな笑みが浮かぶ。面白いものに出会った、そして気に入らない相手の失態を見つけた。正負両方のベクトルを持ったそんな笑み。
「
漏れた呟きをそのまま問うと、こちらを向いたエフエスさんが真剣な表情で逆に問いかけてきた。
「答える前にいくつか確認したいわ。あなた、勇者ね? 正確には王城から追い出された落ちぶれ勇者。多分今回の召喚第一号」
「……やっぱり分かるんですか? というか今回? 第一号?」
「ええ。実物は珍しいけどよく知られた話だからね。その見かけと王城から漏れる噂が重なれば推測するのはそんなに難しくはないわ」
エフエスさんが言ったとおり、僕が着込んだ学生服は周囲から浮いていた。注目を集めるとまでは行かないが、奇異な視線が向けられている。
だが僕としてはそれよりも気になることがいまの話の中にあった。
「よく知られた話? 待ってください。それはつまり」
「そうよ。この国……《ウェストランド》は大体十年周期で異世界から勇者という名の奴隷を召喚しては使い捨てて存続してきた国なのよ」
国の始まりはそんな風じゃなかったらしいけどね、と寂しそうに呟くエフエスさん。
しかしその内容は聞き捨てならないものがあった。
「やっぱりこの国はこれまでも似たような真似を続けてきたんですか?」
「やっぱり、か。あなた、中々敏いわね。そうよ、その通り。異世界から召喚されることも、落ちこぼれが真っ先に王城から追い出されるのもこれまで何度も繰り返されてきた日常茶飯事」
「……なんて
僕が吐き捨てると、エフエスさんも頷く。
「まったくね。無理やり召喚された挙句に勇者だなんだと煽てられ…。乗れば都合の良い駒として使われ、乗らなければ使えないゴミとして捨てられる。この国の上層部はクソよ。議論の余地は無いわ」
そして僕以上に苛烈な舌鋒で王国を批判、というか罵倒した。
感情が凍り付いたような無表情、氷のように真っ白な髪も相まって今の彼女は怒れる雪の女神さながらに恐ろしかった。無関係の僕ですらそばにいるだけで背筋が寒くなったほどだ。
エフエスさんはそのまましばらく冷え冷えとした空気を纏っていたが…。
「……話を戻しましょう。これ以上あの連中の話をしても良いことなんて一つもないし」
ハァ、と息を一つ吐いて怒りも吐き出したのか。
纏う空気を元の飄々としたものに戻し、話を続けた。
「貴方が召喚されて王城から捨てられるまでの流れを聞かせてくれる? 私が言う
エフエスさんの意図がつかめないが、あの連中に義理立てする理由なんて何一つ思い浮かばない。むしろ恨み言に事欠かないくらいだ。
僕は頷くと今日召喚されてからの一連の出来事をエフエスさんに話し始めた。
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