プロローグ②

 その後。

 僕は何本もの投槍が刺さったサンドリザードの亡骸から剥ぎ取れるだろう戦利品にホクホクとしていた。いや、良い臨時収入になった。

 砂漠の渇きに耐える保水力に優れた体液は様々な薬品に使われるし、巨大な頭骨は縁起物・インテリアとして需要が高い。ゴツゴツとした角質の棘が生え揃った革は防具にも使われるし、何よりその肝はこってりと濃厚な珍味なのだ。

 食べ物は大事だ。人生の幸福を左右する重要な要素である。多分日本人なら大体の人が同意してくれるだろう。


「王様にだって食べられない珍味を味わえるのは『運び屋ポーター』の良いところだよね」


 亡骸を捌いて取り出したばかりのテラテラと赤みを帯びた肝。それを適当なサイズにサクサク切って、そこに味付け程度の岩塩の粒をバラバラと振りまき……あとは好みの焼き加減になるまで焚き火で炙るだけ。


「美味しイ」

「うん、美味いね」


 切り分けた肝をひょいと口に放り込めば、口いっぱいに広がる濃厚でコクのある強烈な旨味! 僅かにふった塩がその旨味を引き立て、二切れめ、三切れ目と手をのばす勢いが止まらない。


「……もう一匹いないかナ?」

「流石にこの近くにはいないんじゃないかな」


 ダイナもひと口食べて気に入ったらしく、サンドリザードの肝に狙いを定めたようだ。しきりにチロチロと舌を出して食欲を示しながら、視線が忙しなく周囲を探っている。多分サンドリザードを獲物にすべく、その痕跡を探しているのだ。


「ホダカ、アレもう一度食べたイ。狩ろウ?」

「機会があればね。こっちからサンドリザードを探すのは難しいらしいから」


 さっきも言ったがサンドリザードの狩りは基本的に待ち伏せ型。砂漠に溶け込む保護色もあってこちらから見つけ出すのは難しい。

 なによりも僕たちはギルドからのクエストをこなさねばならない。悠長に狩りに向かう余裕はない。


「だから帰り道に探してみようか。村の人たちに聞き込めば棲み処も分かるかもしれないし」

「分かっタ!」


 瞬く間にテンションを上げたダイナが楽しそうにユラユラと体を揺らす。そしてジャレつくように僕の方へ体重をかけてもたれこんだ。なお彼女のサイズは体高だけで二メートルオーバー体重三桁キロ。金属製の大型バイク並に重い。


「ちょ、重い。その姿じゃシャレにならないくらい重い……!」

「ウー……」


 面倒そうな一声を上げるとダイナから発した一瞬の光が襲撃から立て直した野営地を覆う。

 光が収まるとそこにはダイナの青みがかったタテガミを受け継いだような青銀に近い色合いの髪をしたほっそりとした少女がいた。

 ダイナだ。ダイナは竜と人を自在に変身する《ギフト》の持ち主なのだ。


「こっちはこっちで辛いんだようなァ……」


 こちとら十代男子、女体を夢見るお年頃なんだぞ。

 子どもか妹のように無邪気に慕ってくれるギリギリ年齢下限ストライクの美少女とか理性に悪すぎる。ましてやここは旅の空でプライベートな空間など望むべくもない。


「むー……。ホダカ、好き……」


 が、お姫様はこっちの気持ちなど知ったこっちゃなく無邪気な寝言を呟きながら既に眠りについていた。ダイナの見た目はローティーンの美少女だが、実年齢はもっと幼い。まだまだ成長のために栄養と睡眠が必要なお年頃なのだ。


「……僕も寝るか」


 その幼い寝姿を見た僕はため息を一つ吐いて、同じように横になった。なんだかんだこの旅暮らしを気に入っている自分を嬉しく思いながら。

 僕がこの魔獣溢れる異世界を『運び屋ポーター』として巡ることとなったのは、一年間ほど時を遡る……。


 

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