異世界に召喚されたら『荷物持ち』と馬鹿にされ、追放されましたがギフト《アイテムボックス》で『運び屋』としてこの世界を楽しみます。もう王様や元クラスメイトが落ちぶれようがどうでもいいです
土ノ子
プロローグ①
煌々と月が砂漠を照らす。
ギラギラと太陽が照りつける昼間とは真逆、夜天の月が冴え冴えと輝き冷えた空気が支配する砂漠の夜。
噂に聞いていた以上のすさまじい寒暖差だ。
体感では真夏の炎天下と冬の寒々しい夜が半日ごとに交互にやって来ているようなもの。ちょっと油断をすれば寒暖差に体調を崩しかねない。
「寒いな」
不意に寂しくなってなんでもない独り言をふと呟く。
「さむい。ホダカ、さむい?」
その声に応える者がいる。
「ああ、寒い。でもお前は温かいな、ダイナ」
「エッヘン」
舌足らずな幼い声。
その声の主は僕が騎乗する相棒のダイナ。
その姿は科学の力で恐竜を復活させたテーマパークが舞台のアクション映画、あれに出てくる小型の肉食恐竜そっくりだ。とはいえここは恐竜が解き放たれたアメリカ大陸ではないし、そもそもまともな恐竜は喋らない。
「もう少し進んだら野営する場所を探そう。急ぐ仕事だけど僕らが倒れちゃ元も子もないもんな」
「もんナ!」
ここは異世界だ。
そして僕は令和の日本から異世界に召喚された元高校生、穂高陸。
いまは異世界の冒険者ギルドで『
僕らはいまこの砂漠を越えた先、周囲のオアシスが枯れ果てて孤立した集落に向け必要な物資を運ぶクエストの真っ最中だ。
◇◆◇◆◇◆◇
パチパチと焚き火が爆ぜる音がする。
焚き木と火種を組み合わせて手早く熾した焚き火にヤカンを掛け、お湯を沸かす。あとは手持ちのパンと干し肉を炙りながら丁度いい焼き加減になるのを待つ。
自作のコンソメもどきで作るスープもある。野営中と考えれば随分と豪華な食事だった。
「我ながら手慣れたなぁ」
異世界の夜空の下で人心地つきながらそう呟く。
インドア系ヒッキー学生だった僕がいまはこうして焚き火を熾し、野営をこなすアウトドア系男子に大変身だ。
なにもかもスケールが巨大なこの世界にきて、否応なく自分の変化を実感する。
「あったかイ。焚き火、好キ」
「分かるよ、なんかホッとするよね」
焚き火をグルリと囲うようにその大きな身体を緩く丸めて横たわるダイナ。
その対面に腰を下ろし、ゆったりとした時間を楽しむ。
殺人的な暑さが支配する昼間よりマシとはいえ、夜の移動も決して楽じゃない。足元が暗いから転びやすいし涼しいからと油断していたら風邪を引く。
静かに横たわり、眠っているように見えるダイナだが身体を休めているだけで警戒状態は継続中だ。
五感も常人並みの僕よりずっと優れている。
その証拠に、
「――――」
ピクン、と不意にダイナが警戒も顕に横たえていたその身を起こした。
近づいてくる何かがダイナのセンサーに引っかかったようだ。
「ダイナ?」
「大きいのが近づいてくル。変な音と揺レがする」
「……僕には見えない。方向は?」
「アッチ」
その鼻先で指し示す方向を落ち着いて眺める。
光源は焚き火と月明かり程度だがやはり怪しい影は見当たらない――――いや、違う。
砂漠から突き出した背びれがまるで泳ぐようにうねりながら高速で僕らに近づいてきている!
「
僕が出した大声をキッカケに砂の中にその巨体を潜めていたサンドリザードが空中に身を躍らせる。
僕を獲物と狙う顎は人間一人をやすやすと丸呑みに出来るほど巨大だった。
身体の各所に生えるゴツゴツと尖った角質の棘、可愛げの欠片もない厳つい顔立ち。生え揃った牙はギラリと危険な光を放っていた。
衝撃。
僕をおどり食いしてやろうと目論む容赦のない空中タックルを身を翻してかわし、素早く距離を取る。砂中から躍り出た巨体が大地に叩きつけられ、野営地が衝撃で一瞬にしてグチャグチャになった。
ダイナが先んじて教えてくれなかったら僕も同じように危なかったかもしれない。
が、今の僕には命の危機の次に重要なことがあった。
「あ゛あ゛あ゛ぁ゛! せっかくいい感じに夜食が焼き上がってきたのに!?」
涼しい夜に出来る限り距離を稼ごうと移動を続け、襲ってきた空腹をなだめるための夜食だったのに。
大事な夜食を台無しにされた恨みがにわかに僕の胸に湧き起こる。食い物の恨みは恐ろしいのだ。
この世界に来る前、クソなクラスメートにお昼の弁当を地面に捨てられ、踏み躙られた挙句に無理やり口に詰め込まれた時でもこんなに悔しくはなかったぞ。いや、やっぱり同じかそれ以上に腹が立つな。今度会った時は倍返しで報復してやろう。
「砂漠のトカゲモドキめ。解体して僕の夜食にしてやる……!」
サンドリザード。
異世界の砂漠環境に適応した亜竜種である。
砂漠の過酷な暑さを避けるため砂中に潜り込み、その逞しい前腕で砂をかき分けながらまるで海を泳ぐように移動する。
狩猟スタイルは砂地に潜りながらの待ち伏せ型がメインだが、砂に潜航して身を隠しながら獲物に近づき奇襲することもあるという。
その巨体から必要摂食量も多く、好物は人間。砂漠にも多く棲息していて適度に大きく柔らかい割に狩りやすいのが奴らの好みに合うらしい。今この場ではクソの役にも立たない情報だ。
この世界における一般人においては危険極まりない野生動物。出会う=死亡の捕食者だが、僕らにとってはそうじゃない。
「ワタシがやろうカ?」
僕の方を見て当然のようにダイナはそう言った。
似たような危機に遭遇するのは初めてではない。この程度の亜竜に食われるようなら僕らはとっくに別の魔獣の胃袋に収まっている。
特にダイナは僕らコンビの武力担当。サンドリザード程度なら鼻歌交じりに捌けるだろう。
「いや、いいよ。疲れているだろう、ダイナは休んでおきな」
だが僕も別に弱くはない。似たような修羅場はそれなりに潜ってきた。上を見ればキリがないが、いまさら蜥蜴程度に後れを取るつもりはない。
僕は僕のギフト《アイテムボックス》から投槍と
前触れ無く手元に現れたそれをつかみ取り、構える。
投槍を引っ掛け、てこの原理を利用して強烈な勢いで投擲する補助具こそが
素人が数時間練習しただけで槍を一〇〇メートル以上やすやすと飛ばす強力な投射武器だ。更に対魔獣用に色々と手を加えたこれならサンドリザードの厚い外皮だろうとブチ抜ける。
とはいえ投槍器だけではサンドリザードの巨体相手に立ち向かうには足りない。
「来るか」
だから
僕とサンドリザードが睨み合い――動いた!
蛇の威嚇に似た金切り音、からの再びの大跳躍。
今度こそ逃がさないとその巨体を宙に躍らせ、サンドリザードの大口が
「ちょっと派手に行こうか」
初手、《アイテムボックス》から取り出した
自分で言うのはなんだが、僕の《アイテムボックス》は規格外。これほどの巨岩を収納できる性能の《アイテムボックス》持ちは多くない。ましてやそれが
衝突からの轟音。
大質量同士の衝突が地を揺らし、砂漠の大気を震わせる。
サンドリザードからすれば全体重をかけて突撃したところに突然壁が現れて鼻面を潰されたようなもの。今頃奴の中では衝撃、痛み、混乱が渦巻いていることだろう。
――――ッッッ!!?!??!?
困惑する気配がありありと感じられ、僕はその隙を突いた。
「まず一つ」
動きを止めたサンドリザードの横腹に回り込むと、
投擲した投槍は瞬く間にサンドリザードへ迫る。そして魔獣の鉤爪を利用し、鋭利に研ぎ上げた穂先はやすやすとサンドリザードの鱗付きの皮膚を貫き、その横腹を深く抉った。
投槍が突き刺さった横腹から大量の血飛沫が飛び散り、砂漠の砂を汚していく。甲高い悲鳴が砂漠の夜を切り裂いた。
傷の深さは奴の巨体からすれば太い五寸釘が腹に刺さったくらいのイメージか。自分の身に置き換えて考えればかなり痛手だ。
魔獣の生命力なら致命傷にはならないだろうが
サンドリザードの眼光に複雑な割合でブレンドされた怒り、警戒、怯えが宿り、露骨に及び腰になった。
チャンスだ。奴は勝負を避け、怯んでいる。ここは嵩に懸かって攻めたてる。
「悪いけど逃がさないよ」
その背後に先ほど設置した大岩と同じサイズの岩石群を
これで奴の退路は断った。
あるいは砂に潜るか? なら追加の投槍で横っ腹を針山にしてやろう。そんな有り様で砂中に潜って傷口を抉るのは控えめに言って地獄だろうが。
「僕とダイナの夜食になってしまえ、蜥蜴もどき」
奴の奇襲をいちいち警戒しなければならない夜を過ごすのはごめんだ。
ここで仕留める。
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