シャーロット様との会話
……これは返事をしたほうがいいよな?
「すみません、シャーロット様。実はクリフさんは今いなくて」
「あなたは……<召喚士>のロイ? なぜここに?」
「シャーロット様の薬の材料になるというソルフ草を採取したので、ここに持ってきました。クリフさんは薬師のところにそれを届けに行っています」
シャーロット様の声色が少し変わる。
「ソルフ草ということは、霧の樹海に行ったということですか?」
「え? は、はい」
「わかりました。では、ロイ。部屋に入ってください。話があります」
「はあ……」
話ってなんのことだ?
わからないが、さすがに王族の命令は断れないよなあ。
「ロイ、どうするの? 部屋に入っちゃったら見張りができないよ」
「とりあえず、俺だけで行ってくる。三人はこのまま待機していてくれ」
「わかったー」
クリフさんに頼まれたこともおろそかにできないので、ひとまず俺だけでシャーロット様の部屋に向かうことに。
「失礼します」
シャーロット様の部屋に入る。
相変わらず広い部屋の中にシャーロット様は一人だった。ベッドの上で半身を起こすシャーロット様は俺を見て手招きする。大きな声を出すのがつらいんだろう。
「お体はどうですか?」
「ごほ、平気……ではありませんね。薬が少なくなってきたので、服用を控えていました。ロイがソルフ草を持ってきてくれたなら、薬を必要な量飲むことができます」
「……俺たちが失敗したらどうするつもりだったんですか」
「そうならないよう、いくつかのルートでソルフ草が手に入るよう依頼していました。たとえば『青の双剣』と呼ばれる冒険者パーティなど」
「ああ……」
『青の双剣』は霧の樹海で見かけた、毒でやられてしまっていた冒険者たちだ。
確かに今の霧の樹海ではソルフ草の入手は途轍もなく難易度が高いのかもしれない。
余分に取ってきておいて良かったな。
「彼らのほとんどが依頼を受けたのちに消息を絶っています。ロイたちには感謝せねばなりませんね」
「……そのこと、ギルドマスターは知っていましたか?」
「当然知っていたかと思いますが、それがなにか?」
「いや、あの人は相当腹黒い気がしてきただけです」
危険だと知ったうえで俺たちを霧の樹海に送り出したのか……
模擬戦をしたうえでの判断なんだから、実力を認めてくれたということではあるんだろうが、なんて油断ならない人なんだ。
「本題です、ロイ。霧の樹海であなたの見たものを教えてください」
シャーロット様が真剣な表情で告げた。
「ギルドマスターたちからは聞いていないんですか?」
「隠されているように感じます。クリフも知っているはずですが、教えてもらえません」
「なぜですか?」
「……いいから教えなさい。時間をかけてはクリフが戻ってきてしまいます」
これは怪しい。ギルドマスターたちが隠しているならなにか理由があるはずだし、簡単には言わない方がいいような気がする。
「ギルドマスターたちに確認を取ってからなら構いませんよ」
「王族の言葉が聞けないと?」
「うぐ、そう言われると……」
「もういいです。そういうことなら私にも考えがありますから」
目を据わらせてシャーロット様はそう告げると――いきなり服の裾に手をかけた。
それから、もぞもぞと動いて着ていたネグリジェをめくり上げていく。
白い肌と、形のいいへそが見えた。
「ちょっ……何をするつもりですか!?」
「すぐにわかります」
ネグリジェの裾は、そのまま少しずつ上へと向かっていく。絶対にまずいと思いながらも俺は目を逸らせなかった。
病気がちにもかかわらずシャーロット様の体は芸術品のような美しさだった。華奢な体つきや陶器のような肌。形のいい控えめな胸が、ネグリジェの動きに合わせてわずかに上下する。
やがてネグリジェを脱ぎ終えたシャーロット様は、脱いだ服を抱きかかえて体を隠しながら俺に告げた。
「ふ、ふふふ……これで私が悲鳴を上げたらどうなると思いますか? あなたは王女に手をかけようとした危険人物として即お縄です」
「あんた何考えてんだ!?」
体を張り過ぎだろう!? 仮にもこの人は王族なんじゃないのか!?
「叫ばれたくなければ霧の樹海での出来事を話してください」
そう再度告げるシャーロットの顔は耳まで真っ赤になっている。これは……本気だ……!
「……わかりましたよ、言えばいいんでしょう……」
「き、気が変わりましたか?」
「さすがに犯罪者になるつもりはないですよ、俺は」
「それはなによりです」
俺が折れると、シャーロット様はほっとしたように息を吐いた。
「話しますから、服を着てもらえますか?」
「……」
「なぜ黙るんですかシャーロット様」
「……あの、メイドを呼んでも構いませんか? 私、脱ぐのはともかく服を着るというのは一人では……」
「この状況で人を呼ぶなら俺は全力で逃げますからね」
「そ、そんな」
仕方ないので俺は素肌の王女様にネグリジェを着せるという、世にもおそろしい体験をすることになった。
この人、意外と無茶するタイプなんだな……
俺は諦めて霧の樹海であった出来事を説明する。
「そうですか、そんなことが……」
シャーロット様は難しい顔で俯く。
「確認しますが、霧の樹海の中心部にいた黒い塊とやらは、妖気を放っていたんですね? アルムの街に現れた『魔喰いの悪魔』と同じように」
「仲間が言うには、そういうことらしいです」
「……アランたちが私にそのことを伏せていた理由に納得がいきました」
「え?」
「なんでもありません。あなたが気にする必要のないことです」
シャーロット様の呟きを聞き返すと、そんな返事が飛んできた。
まあ、気にするなというなら従うまでだ。
俺はギルドマスターからの協力要請を突っぱねたのだから、深入りする権利は最初からない。
「こちらからも一つだけ聞いていいですか、シャーロット様?」
「なんですか?」
「シャーロット様には予知能力があるんですよね。霧の樹海のことはそれを使えば知ることができたんじゃないですか?」
「……私の予知能力は万能ではありません。一度使うと、しばらく期間を空けなくてはならないのです。『魔喰いの悪魔』の一件で予知を行ったので、まだしばらく私は予知を使えません」
なるほど。
『空渡ノ長靴』が連続で転移できないようなものだろうか?
シャーロット様の力は強力なんだろうが、そのぶん制約も多そうだ。
「げほっ、ごほっ」
「大丈夫ですか!?」
「も、問題ありません。……うう、服を脱いだせいで体が冷えたようです」
「無茶をするからですよ、まったく……」
シャーロット様の体を支えて寝かせ、毛布を被せる。
話も終わったことだし、そろそろ俺も部屋を出るか。
そう思ってベッドから離れようとすると……
くいっ。
ん?
「……シャーロット様?」
「あ、す、すみません」
なぜか服の裾を握られた。無意識の行動だったようで、シャーロット様は慌てて手を離す。
「まだ聞きたいことがあるんですか?」
「そういうわけではないのですが……ロイ、もう少しここにいてもらえませんか?」
「はい?」
俺が首を傾げると、シャーロット様は毛布を口元まで上げつつ、顔を赤くして告げた。
「その、もう少しだけ雑談しませんか。クリフが戻ってくるまででいいので」
「え? いや俺、王女様に話せるようなことなんてないですよ? ただの冒険者ですし」
「それで構いません」
「はあ……」
あー、これはあれか。
風邪のときに人恋しくなることは誰にでもある。シャーロット様は王女で、簡単に人に甘えられない。
要するに寂しいんだろう。確かにこの部屋は一人で過ごすには広すぎる。
「いいですよ、そのくらい」
「本当ですかっ」
「はい」
その後はシャーロット様にクリフさんが来たらきちんと事情を説明してもらうことを了承してもらいつつ、冒険者の仕事のことなんかを話すのだった。
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