再び王都へ

 馬車に乗って王都に戻る。


 さて、とりあえずソルフ草を王城まで届けに行かないとな。


「ロイ、まずはどこに行くの?」

「とりあえずギルド本部に行く。俺たちだけで行っても王城には入れないだろうし」


 ギルドマスターやクラリスさんのような、信用のある人物に同行してもらわないと門前払いだろう。

 ギルド本部まで移動する。


「む、ロイ殿! 久しぶりでござるな!」


 ロビーにいたカナタがこちらに駆け寄ってきた。


「ああ、久しぶりカナタ……と、クラリスさんも」

「どうも、ロイさん」


 副ギルドマスターであるクラリスさんもこちらに歩いてきた。どうやらカナタと話していたようだ。

 ……


「あの、クラリスさん。顔色が悪いようですが大丈夫ですか?」

「ふふふお気になさらず。ちょっと最近仕事で立て込んでいたときに、さらに爆弾が投下されただけですので」

「爆弾?」

「あなたが報告した内容ですよ、ロイさん。霧の樹海の異変についてです」


 ギルドの支部には『通信石』が設置されている。


 どうやらすでにそれによって話し合いを進めているようだ。


「昨日は徹夜で解毒アイテムの調達やら人員のリストアップやら、騎士団との話し合いやらをしていましたが、仕事はまだまだあります。ふふふ、今日は寝られるといいのですが」

「ろ、ロイ。逃げた方がいいわ。なんだかクラリスの目が虚ろすぎるもの」

「目のクマが大変なことになっていますね……」


 イオナとセフィラがクラリスさんの虚無的な笑みに引いている。


 は、話を戻そう。


「なにかわかったことはありますか?」

「まだ調査の準備をしている段階ですからね……正直、進展は特にありません」

「そうですか……」


 調査に協力していない負い目から言葉に迷っていると、クラリスさんは肩をすくめた。


「ロイさん。あなたはすでに霧の樹海の異変について、私たちに情報を提供しています。それ以上のことまで責任を負うことはありません」

「ですが俺は」

「だいたい、あなたはあくまでまだCランク。そんなあなたが過度な重みを背負う必要はありません」


 クラリスさんはあくまで淡々とそう告げた。


 カナタもにっこりと笑う。


「うむうむ。前回のアルムの街では拙者も不甲斐ないところを見せたゆえ、今回こそは拙者の番でござる。ロイ殿はゆっくり休まれよ」

「カナタも行くのか?」

「おそらくは。森の中となると、派手な魔術よりも地道な白兵戦のほうが安心でござるよ」

「……なるほど」

「あ、しかし例の『妖気』とかいうのについてはまた話を聞かせてほしいところでござるな。霧の樹海の奥にいたという敵も、妖気を纏っているのでござろう? それが斬れねば話にならんでござるよ」


 当然ながら霧の樹海の奥にいた黒い塊についても、ギルドには報告済みだ。


「おっけー任せて! なんでも教えるよー!」

「まあ、妖気だの神気だのに関してはあたしとシルが一番詳しいだろうしね」

「頼りにしているでござるよ、お二方!」


 シルとイオナの返事にカナタがうんうんと頷いた。


「さて、ロイさんは今日はどうしてここへ?」

「あ、そうだ。ソルフ草を採集してきたのでシャーロット様に届けに行こうと思ったんですが、俺たちだけで行くのも何かと思いまして」

「本当に助かります、ロイさん。今の霧の樹海の状況では、ソルフ草を採集するのは大変ですからね。……しかし、王城まで同行となると時間的に難しいですね」


 クラリスさんが難しい顔をする。


「クラリス、ここは拙者がロイ殿に同行するでござるよ」

「あなたはこれから仕事ですカナタ。Sランク冒険者に暇な時間があると思わないでください」

「クラリスが鬼でござる……」


 そう言ってがっくりと肩を下げるカナタを無視し、クラリスさんは告げた。


「私やギルドマスターも含め、今は王城に同行できる人員がいません。ロイさんはすでにシャーロット様と面識がありますし、私が一筆書きますので、それを持って皆さんだけで王城にソルフ草を届けていただけますか?」

「わかりました」

「ソルフ草を渡す相手はクリフさん――シャーロット様の付き人です。よろしくお願いします」


 そう指示を受け、クラリスさんから書類を受け取った俺たちは王城へと向かった。





 王城まで行き、クラリスさんから持たされた書類を提示して門を開けてもらう。見張り役の兵士が二人ついてきたのは妥当な対応だろう。


 シャーロット様の私室に続く廊下に行くと、そこには巨漢の重装騎士……クリフさんが立っていた。


「貴様らは……前に『剣聖』と一緒にいた<召喚士>とその仲間か。例のものを持ってきたのか?」


 例のもの、というのはソルフ草のことだろう。俺は頷く。


「クリフ殿、お知り合いですか?」

「ああ。この男は危険人物ではない。俺が保証しよう。貴様らは持ち場に戻っていいぞ」

「「はっ!」」


 そんなやり取りによって見張りの兵士たちは去っていった。


 第三王女の護衛を任されるだけあって、このクリフという人物は城の兵士や騎士の中でもかなり上位の立場のようだ。


「……で、例のものは?」

「これです」


 ソルフ草をクリフさんに渡す。これで依頼達成だ。どうでもいいが、報酬はギルドマスターからもらえばいいんだろうか?


「よし、間違いなくソルフ草だな。貴様はなかなか見どころがあるではないか<召喚士>」

「あ、ありがとうございます」

「タイミングもよかった。実はシャーロット様の薬のストックがそろそろ心もとなくなっていて不安だったのだ。……俺は今からこれを薬師のもとに届けてくる。貴様らはそこにいてシャーロット様の元に誰も通さぬようにしておけ」


 そう命じるとクリフさんは慌ただしく駆けていった。


 うーむ、なんだか勢いに押されて仕事を押し付けられてしまったような。


 まあいいか。クリフさんの様子だとシャーロット様への忠誠心は高そうだし、やることが終わればすぐに戻ってきてくれることだろう。


「見張りかー。なにをしてればいいんだろうね?」


 シルが首を傾げる。


 別に立っていればいいだけだと思うが、どうせ暇なので雑談でもしてるか。


「そういえば、イオナはこっちの世界に来る前は『炎の番人』って呼ばれてたんだよな」

「……なんかその呼ばれ方恥ずかしいんだけど、まあそうらしいわね」

「そうなんですか。どんなお仕事をしていたんですか?」


 初耳だったらしいセフィラの疑問にイオナが肩をすくめる。


「別にたいしたことはしてないわよ。なんなら実践してみせましょうか?」


 ……実践?


「その前に一応聞いておきたいんだが、具体的にどんなことをしていたんだ?」

「まずブレスで周囲を焼け野原にして奇襲される可能性をなくすわ」

「よしイオナ、実践はなしだ。大人しく立っていることにしよう」


 王城の中で火事なんて起こしたら俺たちに明日はない。


 そんなことを話していると。


「クリフ、いますか? 頼みたいことがあるのですが」


 扉の向こうからシャーロット様のものらしい声が聞こえてきた。

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