『空渡ノ長靴』

 まずは外に出よう。


 新しい召喚武装の能力は気になるが、キラーアントの巣の中じゃ落ち着いて試せないからな。

 来たときと同じように『大地ノ大土竜』に穴を掘ってもらい、地上に脱出する。

 入るときに使った穴をふさいでくれていた『水ノ大亀』を【送還】で回収。

 幸いキラーアントにたかられたりはしていなかった。


 せっかく女王アリを倒したことだし、巣穴も潰しておくか。

 キラーアントは人里を襲うこともあるというし。


「イオナ、ブレス頼む」

「わかったわ!」


 ゴウッ! ガラガラガラ……


 というわけで、巣穴の入り口からイオナのブレスを叩きこんで巣穴を崩落させた。

 中のキラーアントたちは崩落に巻き込まれて全滅だろう。

 地上にいたキラーアントたちはシルの能力でサーチし、討伐した。

 これでよし。


「キラーアントの巣穴をこんな短時間で潰せる冒険者なんて、初めて見たでござるよ……」


 呆気にとられたようにカナタが言っていた。

 シルとイオナのおかげだな。

 その後水場に移動し、昼食の準備をする。


「【召喚:『樹ノ子鼠』『天空ノ翔鳥』『風ノ子蜂』――」


 以前カナタが行き倒れていたときにしたように、召喚獣たちをあちこちに散らして食材を集めてきてもらう。


 ……待っている間ヒマだ。

 よし、今のうちに『空渡ノ長靴』を試しておこう。


「【召喚:『空渡ノ長靴』】」


 俺の足元に灰色のブーツが出現する。

 どうやら呼び出すともともと履いていた靴と入れ替わるらしい。


 確認のために『空渡ノ長靴』を【送還】すると、俺の足装備はもとの靴に変わっていた。

 便利だ。


「ロイ、どこか適当な場所に視線を向けて意識を集中させてみて!」

「視線……」


 シルの指示に従い、適当な場所を見る。

 意識を集中。


 シュンッ!


「うおっ、移動してる!」


 俺はまったく動いていないのに、さっき立っていた場所に十メートル先に移動していた。


「なるほど、瞬間移動ってわけね」 

「そんなことができるんですね……」

「はぁー、便利でござるなあ」


 イオナたちが口々にそんな感想を言う。


「正確には『短距離転移』っていうんだけどねー。それ、メルギスが造ったんだよ」

「ああ、それでシルは最初に気付いたのか」

「そういうこと!」


 ぐっ! とシルが親指を立ててくる。

 召喚武装はシル以外では初めてだな。

 勝手に喋ったりしないところを見ると、シルよりは格下ではあるんだろうが。

 短距離転移か。


 ……これ、使い方次第でものすごい武器になるんじゃないか?


「悪い、しばらくこの長靴の検証をさせてくれ」

「いいよー、それじゃあ私たちでお昼の準備進めとくね!」

「イオナ殿、近くに川がござった。魚のつかみ取りなどいかがでござる?」

「いいわね!」


 シルたちと一旦別れて『空渡ノ長靴』で色々実験をする。

 わかったことはこんな感じだ。


 まず転移の距離は限界でも二十メートルほど。

 二十メートルより短くはできるが長くはできない。

 また、連続で使うには十秒以上の間を空けなくてはならない。

 転移先には物体があってはならず、障害物があれば転移は失敗する。これも一回にカウントされるため、次の転移は十秒待つ必要がある。

 視界の中に転移先がないと効果が発動しない。


 ふむふむ。

 連続使用ができないのがネックだが、十分便利だ。

 敵の攻撃をよけるのに使えそうだな。


「【召喚:『樹ノ子鼠』】」


 さて次の実験は「他者を転移させられるかどうか」だ。

 『樹ノ子鼠』を視線の先に飛ばしてみよう。

 転移!


 ……


 あれ、何も起こらない。


『きゅう?』

「自分以外の生き物は飛ばせないみたいだな」


 残念だ。

 敵の魔物とかを飛ばせるなら、空に飛ばして落下させるだけで倒せそうだったのに。


 まあ、そこまでできたら強すぎるか。

 服とかはそのままだったから、多分召喚武装は一緒に転移できるんだろうけど。


「よーしよしよしよし」

『きゅうー』


 とりあえず『樹ノ子鼠』をしばらく撫でて癒されてから、【送還】しておく。


 検証は終わりだ。

 みんなのところに戻ろう。





「ロイ様、料理を教えていただけませんか?」


 昼食を作っていると、セフィラがそんなことを言った。

 ちなみに残り三人は川で魚取りをしているらしい。


「料理なら別に俺が作るけど?」

「しかし、ロイ様が作業をしている間なにもしていないのは耐えられません」

「気にしなくていいのに」

「気にします!」


 俺としてはどっちでもいいんだが……


 いや待てよ。

 俺はセフィラに「やりたいことができたら伝えてくれ」といつも言っている。

 そんなセフィラが進んでやりたがっているのだから、ここは尊重すべきだ。


「わかった。それじゃあこっちに来てくれ」

「はいっ」


 即席のまな板に乗せた果物や山菜をナイフで切ってもらう。


 ……手つきが危なっかしいな。


「セフィラ、手を猫の形にするんだ」

「こうですか?」

「そうそう、それで力を抜いて……ああ、一回実感したほうが早いな」

「え?」


 俺はセフィラの後ろに回ってセフィラの手に自分の手を重ねる。


「え、あ、あの、ロイ様」

「こういう感じで引きながら切るんだ」

「は、はい……」


 ざくざくとナイフで材料を切っていく。


 セフィラの長い耳は真っ赤に染まり、体をがちがちにして視線を下に向けている。

 どうやら凄まじく作業に集中しているようだ。


「上手だぞ、セフィラ」

「……~~~~っ、さ、今囁かれると」

「どうした?」

「み、耳が、弱いので」


 びくびくとセフィラの体が跳ねる。

 確かにこれは危ない。


「悪い、気をつける。手を切ったら危ないもんな」

「おねがいします……」


 恥ずかしそうにセフィラが言う。

 エルフと人間では耳の形が違うし、くすぐったさも違うんだろう。

 今後気を付けるとしよう。


「この姿勢、やめたほうがいいか?」

「……いえ、もう少しこのままで」


 いいのか。

 よっぽどセフィラは料理を上達させたいんだなあ。


「(……役得です)」


 セフィラがなにか呟いた気がするが、残念ながら聞き取れなかった。


「美味しい~~~~!」

「さっすがロイの料理ね! ……ん? なんかこのキノコ切れてないような」

「す、すみません。それ私がやったものかと……」

「外でこんなものを食べられるとは幸せでござるなぁ」


 五人で食事をとる。

 メニューは野菜のシチューと、イオナたちが山ほどとってきた川魚の塩焼きだ。

 素材が新鮮なおかげかどっちも美味い。

 自然の中でわいわい食べる食事は最高だな。


 昼食をとったあとは再び移動だ。


 王都に向かう馬車を出している最寄りの町まで向かう。

 そういえば……


「カナタ。今さらなんだけど、王都で俺を呼んでるって人は何者なんだ?」


 カナタはきょとんとした。


「言ってござらんかったか?」

「聞いてないな」

「アランでござる。いわゆるギルドマスターでござるな」


 ギルドマスター。

 =冒険者ギルドを統括する最高権力者にして最強冒険者。


「はあああ!?」


 予想外すぎる! そんな相手が俺に一体どんな用があるっていうんだ!?

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