王都観光

「カナタってSランク冒険者だったのか……」

「うむ。まあSランクの中では新参でござるがな!」


 わっはっは、と笑うカナタ。


 そういえば確かに思い当たる節はあったなー……

 エリクサーや通信石を持っていたり、空を走り回ってゼルギアスと戦っていたり。


「ねえロイ、Sランク? ってすごいの?」

「すごい。なんせ世界中の冒険者の頂点だぞ? Sランクの冒険者なんて、今は確か十人もいなかったはずだ」


 腕自慢の冒険者の中でもトップクラスに君臨する化け物たち。

 それがSランクだ。


 中でもギルドを統括するギルドマスターの強さは異次元と聞く。

 通り名は『剣聖』。

 この国の王都には全冒険者ギルドの本部があるらしいが、もちろん俺は顔も見たことがない。


 そんな相手が俺を呼び出すって……一体どういう用件だ?


「ちなみに拙者をアルムの街に派遣したのもアランでござるよ」

「そうなのか?」

「うむ。あの街は、雷によって壊されると予言が出てござった。街の復興がとんとん拍子に進んだのも、アランがあらかじめ準備をしていたからでござる」


 そういえばアルムの街の復興はやたらサクサク進んでたな。

 あれはギルドマスターの指示だったのか。

 ……というか予言?


「カナタ、その予言ってなんのことだ?」

「簡単に言えば、ほぼ確実に当たる未来を予測することができる人物がいるでござるよ」


 なんだそりゃ。

 もしかしてそういう『職業』があるのか?

 聞いたこともないが……


「というか、その予言っていうのがあるなら、アルムの街にもっと大勢戦闘員を配置するとか、住民を逃がすとかできただろ」

「……そのあたり、複雑な事情があり申す。アランも拙者一人を送り込むのが限界でござった。ただ一つ言えることは、そうしなければより多くの犠牲が出る可能性があったでござる」


 悔しそうに言うカナタ。

 この様子を見るに、なにか特別な事情がありそうだ。


 ……ギルドマスターに会いに行く理由が増えたな。


 ゼルギアスの出現によってアルムの街は大きな被害を受けた。

 建物は崩れ、多くの人が死んだ。

 それを仮に防ぐ手立てがありながら手を抜いたなら、一発ぶん殴ってやる。

 逆にそうでなかった場合でも、その事情くらいは聞かないと納得できない。


 ぎゅっ、とシルが手を握ってきた。


「ロイ、怖い顔になってる」

「そ、そうか?」

「前にも言ったけど、アルムの街があんなことになったのはロイのせいじゃないよ」


 励まされてしまった。

 ……俺ってそんなに顔に出やすいんだろうか。


「あたしもロイの味方よ」

「私も、ロイ様が自分を責めるのは間違っていると思います」


 イオナとセフィラがそう言ってくれる。


「ありがとな」

「あ、ロイの表情が柔らかくなった!」

「ふん、うじうじする必要なんてないのよ」

「はい。いつものロイ様です」


 三人がそれぞれそう言って微笑んでくれる。

 本当に俺には過ぎた仲間だ。


「ふふ、いいパーティでござるな」


 カナタがにっこりと笑う。

 そんな感じで移動を続け、王都行きの馬車の出ている町に着く。

 そこで乗合馬車に乗り込んでしばらく過ごせば、大きな街が見えてくる。


 王都だ。

 俺たちはこの国の首都へと足を踏み入れた。





「人が多いね! 賑やか~!」

「それに色んな出店もあるわ」

「よ、呼び込みの声が大きくて目が回りそうです……」


 シルたち三人がそれぞれそんなリアクションを見せる。

 レンデル王国の首都レディリア。

 それがこの街の名前だ。

 とにかく広くて人が多い。


「拙者も初めて来たときは同じリアクションをしたでござるなあ。こんなに活気のある街を見たのは初めてだったでござるよ」


 うんうんと頷くカナタ。

 その後は王都を観光することに。

 先にギルドマスターの用事を済ませた方がいいんだろうが、シルとイオナがうずうずしていたから仕方ない。

 言葉には出さないが、セフィラも出店を通りかかるために目を輝かせていたことだし。


「おっ、そこのお嬢さん方! アイスクリームはいかがだい?」


 とある屋台の店主がシルたちに声をかける。


「アイスクリームってなにー?」

「簡単にいやあ、冷たくて甘くておいしいお菓子だよ。王都で最近大流行なんだ」

「へえーっ! ロイ、食べてみたい!」

「あ、あたしも興味あるわ!」


 シルとイオナの要望によりアイスクリームとやらを買うことに。


 香ばしく焼き上げられた逆三角形の焼き菓子の上に、玉のような形のひんやりしたものが乗っている。味がいくつかあったので、全員バラバラのものを買ってみた。

 ちなみにシルがはちみつ、イオナがレッドベリー、セフィラが紅茶、カナタは柑橘系、俺はプレーンである。


「冷たくて美味しい~~~~!」

「すごい、こんなの初めて食べたわ!」

「エルフの里ではこんなもの見たことがありません」

「はぐはぐはぐ……むうっ、頭が痛い……!?」


 大好評だ。実際、俺も食べてみたら本当に美味かった。単なる氷ではないようだが、どうやって作っているのか不思議だ。

 それにしても、こんなにたくさん味があるのか。


「イオナ、一口交換しないか?」

「うぇっ!?」

「いや、せっかくみんなで違うものを頼んだんだから、別の味も楽しんでみたいなと」


 隣に座っていたイオナに一口トレードを申し出てみると、イオナは顔を真っ赤にして固まった。


「あ、いや、駄目ならいいんだ」

「だ、駄目じゃないけど……でも、なんか、そういうのはちょっと、は、恥ずかしい気が」


 目を泳がせてごにょごにょと言うイオナ。ううむ、そんなに抵抗があるのか。


「わかった。無理強いをするつもりはなかったんだ」

「べ、別に無理強いなんかじゃ。でもこれって間接的に口づけをしているのと変わらないと」

「それじゃあシル、俺と一口交換しな――」

「うりゃあ!」

「ぐむ」


 イオナの向こうのシルに同じ話を持ち掛けたところで、イオナによってアイスクリームを口に押し込まれた。ベリーの甘酸っぱい味が口の中に広がる。


「こっちも美味いな……」

「そ、そう。よかったわね」

「俺のも一口食べるか?」

「……うん」


 なぜシルに話を持ちかけようとした途端にトレードが成立したのかわからないが、イオナが頷いたので俺のプレーンアイスクリームも食べてもらう。イオナの小さな口が遠慮がちにアイスクリームの端をかじり、そのまま咀嚼されていく。


 こくん、とイオナは細い喉を鳴らした。


「お、美味しいわね」

「だろ?」


 わかってもらえてなによりだ。

 しかしなぜイオナの顔が真っ赤なのかわからない。


「ええと、他の三人にも交換を持ち掛けて構わないか?」

「別にいいわよ」


 ううむ、この反応だとシルと一口トレードするのが駄目とかいうわけではないのか。

 女の子はよくわからん。


「……イオナ、最初に一口交換しようって言われたのが嬉しかったんだね」

「……気持ちはちょっとわかります。最初の間接キスって一番純粋ですよね」

「む? シル殿とセフィラ殿はなにを話しているのでござるか?」


 残り三人がなにやら話し合っていたが、一体なにを話していたのやら。


 その後もしばらく王都を観光した俺たちは、冒険者ギルドの本部へと向かうことにした。

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