行き倒れの剣士(※ステータス表記あり)
「<召喚士>ロイぃいいっ! どこに逃げやがった!?」
「大人しく出てきやがれ!」
「俺たち『鉄の山犬』に手を出してただで済むと思うんじゃねえぞ!」
野太い声を上げてアルムの街を人相の悪い男たちが横切っていく。
『……ロイ、どうしよう?』
「大人しくしてろ。見つかると大変なことになるぞ」
物陰に隠れながら、俺は剣の姿になったシルにそう告げる。
街を歩いていたら、いきなり『鉄の山犬』の連中が襲ってきたのだ。
俺とシルは何が何だかわからないまま慌てて逃げ、こうして見つからないように潜伏している。
『鉄の山犬』。
アルムの街を拠点にする大規模パーティだ。所属するのは荒っぽい武闘派ばかりで、パーティランクはBとこの街のパーティの中で一番強い。
その規模や強さをカサに、アルムの街で好き放題に振る舞っている。
はっきり言ってギャングと大差ない。
そんなやつらがなぜ俺を狙うのか?
それは昨日のシルに絡んできた二人の冒険者が原因だ。
人間の姿のシルにナンパしてきて、俺が撃退したあの二人は、どうも『鉄の山犬』のメンバーだったらしい。自業自得ではあるが、『鉄の山犬』は自分たちが舐められることを何より嫌う。
しかもやられたのが底辺職の<召喚士>ならなおさらだ。
やつらは俺を引きずり出し、報復するつもりだろう。
『このまま隠れてても仕方ないよ。ロイ、戦おう! ロイならあんなやつら、簡単にやっつけられるよ!』
シルが物騒なことを言っている。
「……無理だ。人数差が大き過ぎる」
『でも、神獣を召喚すれば――』
「それだけじゃない。一番ヤバいのはあいつらのボスだ。下っ端だけならともかく、あそこのパーティリーダーを敵に回すのは本当にまずい」
黒鉄のジュード、という男がいる。
『鉄の山犬』のトップであるあの男は、暴力沙汰によって降格させられたものの、元Aランクの冒険者だった。
Aランクといえば、冒険者ギルド全体の上位〇,一パーセントに入る実力者だ。
この街で何度か見かけたことはあるが……今の俺でも勝てる気がしない。
最近はどこかに出かけていたらしいが、俺たちを追いかけていた『鉄の山犬』の下っ端たちが、『帰ってきたボスに示しがつかねえ!』などと喚いていたので、おそらく今はアルムの街にいるんだろう。
『それじゃどうするの?』
「とりあえず、この街を離れる」
『鉄の山犬』も簡単には諦めないだろうし、一度街を出てほとぼりが冷めるのを待つのがいいはずだ。
『どうやって逃げるの?』
「それなんだが、シル、『鉄の山犬』の連中がいる場所は探知できるか?」
『できるけど……』
「なら、やってくれ。相手の居場所がわかるなら、逆にそれを避ければ見つからずに移動できるだろ」
『なるほど! ロイ、頭いいー♪』
シルの能力によって『鉄の山犬』たちの居場所を検索。
足元から青い光が伸びていく。この光はシルとその契約者である俺にしか見えないので、相手に気付かれる心配はない。
青い光を避けるルートを取ることで、俺は『鉄の山犬』に見つかることなくアルムの街を脱出した。
「ロイ、これからどうするの?」
街の外で、安全な場所に出たからと人間の姿になったシルが尋ねてくる。
「そうだな……」
こうなった以上はアルムの街にはしばらく戻れない。
もともとアルムの街にいたのは、近くの『魔喰いの森』にはあまり強い魔物が出ず、底辺職の俺でも安全に活動できたからだ。
しかし今の俺なら他の場所に拠点を移してもいいかもしれない。
ここから近く、冒険者ギルドがある場所というと……
「シル。こっちとあっち、どっちかに召喚スポットの気配はあるか?」
俺が二方向を指さして尋ねると、シルは目を瞑って気配を探るような仕草をした。
「あっちにいくつかあるよ! 反対側にはなし!」
おお。
昨日も思ったが、意外とあるものなんだな、召喚スポット。
どうせ拠点を移すなら、道中に召喚スポットを経由できたほうがいい。
「それじゃあ行くか!」
「うん!」
シルと二人で新たな拠点へ向かって歩き出した。
▽
ロイ
<召喚士>
▷魔術:【召喚】【送還】
▷スキル:【フィードバック】
▷召喚獣
水ノ重亀(耐久上昇Ⅱ)
風ノ子蜂(力上昇Ⅰ)
風ノ子梟(魔力上昇Ⅰ)
大地ノ穴土竜(力上昇Ⅰ/耐久上昇Ⅰ/スキル【掘削】)
地ノ子蟻(力上昇Ⅰ)×2
地ノ子甲虫(耐久上昇Ⅰ)
樹ノ蔓茸(スキル【蔓操術】)
樹ノ子鼠(敏捷上昇Ⅰ)×3
樹ノ子百足(力上昇Ⅰ)
▷召喚武装
導ノ剣:あらゆるものへの道筋を示す。
「けっこう契約できたな」
「順調だね!」
グレフ村に向かいながら、道中の召喚スポットも忘れず回っておく。
契約した中で注目すべきは二体だろう。
まず、水属性の『水ノ重亀』。
この召喚獣は動きこそ遅いが、高さ三メートルほどもあるうえ頑丈だ。いざというとき敵の攻撃を防ぐ盾の役割を担ってくれるだろう。
さらに『樹ノ蔓茸』。
こちらは【フィードバック】に関する補正がない代わりにスキルを持っている。丈夫なツルを撃ち出し敵を絡め取るあのスキルは使いどころも多そうだ。
シルの言う通り、<召喚士>の実力を伸ばすのは順調である。
さて、そんな感じでグレフ村へと向かっていると。
なんか、道の真ん中で人が倒れていた。
「ど、どうしようロイ! なんか人が倒れてるんだけど!?」
「そ、そうだな。とりあえず声をかけてみよう。……おーい、大丈夫か?」
「う、うう……」
倒れているのは小柄な女の子だった。独特な形状で、袖がゆったりとした服を着ている。こちらの地域では見かけない服装だし、異国の人間だろうか? 腰には剣を差している。
それにしても、こんな場所で倒れているなんて一体何があったんだろうか。
魔物に襲われて致命的なけがを負っている可能性も――
「お腹が……減ったでござる……」
ぐぎゅるるるるるるるるる。
異国の少女の腹から悲しげな音が鳴った。
どうやらお腹が減って動けなくなってしまったようだ。心配して損した気にならないでもない。
「そ、そうか。何か食べ物を分けてやりたいけど、俺たちも慌てて街から出てきたからなあ……」
残念ながら分けてあげられるだけの食糧はない。
しかしこのまま見捨てるのも忍びない。
ここは<召喚士>らしく手を打つとしよう。
「シル、この近くに食べられる山菜や果物があるか探してくれ」
「わかった!」
シルが念じると、足元から無数の青い光が伸びていく。
「【召喚:『風ノ子蜂』『風ノ子梟』『地ノ子蟻』『地ノ子甲虫』『樹ノ子鼠』『樹ノ子百足』】」
それを確認してから動きの素早い召喚獣をまとめて呼び出す。
「この青い光を追って、その先にある食べ物を持ってきてくれ」
『キュイッ!』『――』『クルルッ』
召喚獣たちは俺の指示を受け、シルの発生させた青い光を追ってバラバラに動き出した。
「なるほど~、召喚獣たちに食べ物を集めさせるわけだね! ロイは賢いな~!」
俺の取った行動に、感心したようにシルがそんなことを言っていた。
数十分後。
「よし、これだけあれば十分だな」
俺たちの目の前には、召喚獣たちが集めてきた山菜や木の実、果物なんかが並んでいた。
果物はそのままでいいが、山菜はそのまま食べると食中毒になる可能性があるのでスープにする。
「いい匂いがするでござる……」
調理中、行き倒れの少女がのそりと顔を上げる。
そんな少女に出来上がったスープを渡す。
「ほら」
「……食べていいのでござるか?」
「この状況で俺たちだけで食べたら外道すぎるだろ……」
いくら何でも空腹で倒れている相手の前で自分たちだけ食事を始めたりしない。
「あ、ありがたく頂戴いたす! がつがつがつがつっ――」
異国の少女は目を輝かせて跳ね起き、一心不乱にスープをかき込んだ。
「うまい、うまいでござる!」
「はは、それはよかった。それじゃシル、俺たちも食べるか」
「うん!」
そんなわけで俺たちは三人で食事をとるのだった。
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