第2話

「もううんざりだわ」

何度コーヒーのステインを着色すれば気が済むの。せっかく新調した赤い味蕾が台無し。

ブツブツと舌が、歯のステインを削ってると、

「シッ」

前歯が鋭くとめた。

舌が見ると、血小板が、前歯の下を蠢いていた。

…自動追尾システム。サイレントキラー。

噂だが、とんがり帽子を被った血小板は、中央に情報を流し、全体の統率に寄与する。システムが情報を集積し、異端児や反乱分子はコッソリ排除される。息を潜めた舌を前に、血小板はゆっくりゆきすぎる。前歯がシィンと成り行きを見守っていた。


ぐったりとした、舌と前歯は、互いを押し合うように立ち上がった。

「疲れたわ」

舌に、お疲れ様ですと言おうとして、前歯はうまく動けず痺れた。脇の下が、茶色く変色してる。

「舌さん、それ…」

震える声で、前歯が指をさすと、舌はバッと味蕾で隠す。

「だ、だめですよ。いまの、がん細胞でしょ。捕まります…早く通報しなきゃ」

「だって、味蕾を新調したら、痛くないもん。気の所為よ。あんただって、歯肉が変色するじゃない」

「あれはいつもの歯周病だからいいんです。がん細胞は駄目です。転移でもしたらどうするんすか!」

小声で、前歯が憤る。

最近パトロールが増えたの、これじゃないか。やたらに味蕾を新調していたのは、これのせいだ。

舌が、眼尻を赤くして睨む。前歯は途方に暮れて、立ち尽くした。

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