体内オブジェクト

@yuuki9674

第1話

何故こうなるのか、鼻孔はため息をついた。ドリンクバーのコーヒーの香りがする、と伝えた瞬間に、舌は憤懣やるかたないといった次第で、ウロウロしだしたのだ。例によって、肉感的な赤い肢体をさらしながら。目も当てられない。前歯は、恥ずかしそうに目をそらすし、歳をとった奥歯は、よだれを垂らさんばかりの顔で、蠢く赤い舌をみている。

「ドリンクバーですって?」

赤い味蕾をギラギラさせながら、舌はうんざりした顔をする。

「私、身体が冷えるから嫌いなのよ。バカみたいにアイスコーヒーばかりのんだと思ったら、カプチーノの泡がベタベタくっつくじゃない。悪趣味よ。あの安っぽい匂いも嫌い。誰か叩き出してくれないかしら」

口蓋だからむりですよ、そうなだめようとして、鼻孔は舌を見下ろす。上から眺める舌は、ぬるぬると赤く、分厚く、思わず視線をそらす。

「まぁわからなくはないですけど。あ、第一陣きましたよ」

そっと前歯が、唇を開く。

黒くて冷たい液体が、口蓋を満たし、舌は大人しく黙った。

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