神の領域

お題場からここへ来ました

神の領域

先ごろ、とある国の研究所が未だ

人類が踏み込んだ事のない神の領域への実験を成功させた。


人類のこれまでの概念そのものを覆す命の尊厳を脅かす程の。


2021年 人工子宮でマウスの受精卵を「胎児」まで成長させることに成功


2022年 精子、卵子、子宮を使わずに「マウスの人工合成胚」の作成に成功


マウス胚から摘出された胚性幹細胞(ES細胞)を三種使い、一つは胎盤になるように、一つは万能性を維持し、一つは卵黄嚢になるように調整を行い混ぜ合わせた。

これを人工子宮で培養した所、8.5日までに脳が形成され心臓が鼓動し正常な発達をした。

人工的な生物を生成できる可能性を持った人工合成胚ができたのだ。


現在、ヒト胚を培養する実験は14日間までしか認められていない。

しかし、マウスのような「ヒト人工合成胚」は規制する仕組みはまだない。

仮に「ヒト人工合成胚」を「ヒト人工子宮」で培養し、人工的なヒトを作り出すことは夢物語ではない。


命と人の定義が変わってしまうのだ。


ここに二つの似て非なる国がある。

一つは、連邦議会制国家 ガルニア、首相はアズラー・スミス


一つは、独裁国家 メッサ、大統領はマモン・マズル


ガルニアは島国、メッサは大陸の中央

国土面積は40万平方キロメートル台、人口も8000万人台と似ている。

が、その歴史はかなり異なる。


メッサの歴史は戦闘の歴史。1500年以上前より他国との領土をめぐる争いを繰り返してきた。

一方、ガルニアは2000年前より王族の統治する国家であったが、500年前より連邦議会制の民主国家だ。

両国に共通する重大な課題がある。

深刻な少子高齢化だ。

ここで2022年の出来事を振り返る。

人類が神の領域に踏み込んだあの実験「マウスの人工合成胚」作成


2030年、国際的な条約で「ヒト人工合成胚」の作成は倫理的な問題から禁じられた。

禁断の扉はこのまま閉じられるのか。


二人の天才AIエンジニア


AIエンジニア ガルニアのアリエル・ジョーンズ 生い立ち 2015年生まれ 女性 父 物理学博士 

母 高校数学教師

アリエルの今。AI先進国アスマンのアスマン工科大学を首席で卒業

2040年現在 25歳 最年少で母国のガルニア大学の教授でありながら国を代表するAIエンジニア


#ここでAIエンジニアについて

AIエンジニアの役割り PYTHONなどの言語を使用した「AI開発」

AIにデータを入力して精度を上げていく「分析」を行い、AIを構築していく技術者をいう。

AIには二種類あり。特化型「チェス、将棋など」

強化型 これは人を超える知能、汎用性を持ち何でもできる超人的なAIで「汎用性AI」とも呼ばれる。

この強化型はまだ存在しない。


AIエンジニア メッサのベリアル・ノバック 生い立ち 2015年生まれ 男性

2040年現在 25歳 15年前のさきの隣国との対戦でシステムエンジニアの父 看護師の母を敵の砲弾で亡くしている。当時10歳


ガルニアの首相アズラー、メッサの大統領マモンは同じ思いを持っていた。

少子高齢化対策として人の人工胚から人を作り出し、AIロボットに子育てをさせる計画だ。

この頃、男女の婚姻による自然出生は減少の一途を辿り、少子高齢化に拍車をかけた。

人の人工胚から人工子宮で人を作りだすのは2030年に禁止されたままだ。

この二国はその禁を破り秘密裡に研究を重ねた。


自由な国ガルニアで何不自由なく育ったアリエル

方や10歳で孤児となったベリアル。彼は人並み外れた頭脳の持ち主だった。

7歳で高校レベルの数学、物理学の問題を解く程に。

が、孤児となり明日の命をも保証されない身となった。

それを救ったのは皮肉にも独裁者のマモン大統領だった。

マモンは国力を強大にする為、マモン社会労働党に「マモンジニアス」というさきの対戦で孤児となった子の中で特に優秀な者に英才教育を施す組織を作り上げた。


孤児となった時ベリアルには同じように孤児になった無二の親友マモッサ・カミンスカがいた。

マモッサの父は政治家でメッサ国粋党の幹部、母は弁護士だった。

メッサ国粋党は対戦当時、政権を担っていたがその後のクーデターでマモン社会労働党に潰された。


2025年9月18日木曜日

今朝もメッサの首都トオナでは孤児狩りが始まった。


「おい、今日は地下鉄の構内だ」

孤児狩りの隊長の声が早朝の街に響き渡った。

三人一組の孤児狩り隊が構内へと入っていく。

「ベリアル、逃げろ!」マモッサが叫んだ。

二人は必死で逃げまどう。が、

一番、二番、三番ゲートから入った隊員に間もなく捕まった。

二人はトオナの孤児収容所に放り込まれた。

広大な敷地に何千人もの孤児が教育棟、食堂棟、寄宿棟の中で育てられている。

ここでは先ず収容した孤児に知能検査を施す。

上位2パーセントが「マモンジニアス」へと送られる。

少数精鋭のこじんまりとした施設で大学教授なみの優れた教師が一人ひとりの適性を見極めて各部門の英才教育を行う。

結果、ベリアルは理系、マモッサは文系のコースに振り分けられた。

朝6時起床、夕方6時迄、各部門の教育が叩き込まれる。


8年後

二人は18歳になった。

「マモンジニアス」では18歳になると孤児を海外のS級大学へと留学させる。


2033年9月

ベリアルはAI先進国アスワンへ旅立った。

アスマン工科大学の入学式、世界中から集まった1000名の超優秀な学生が大講堂に。

ベリアルはマモン大統領からの特命を胸に。

それは「ヒト人工合成胚」から生まれた子を8歳まで育て上げる親がわりの自ら考えるAIロボの開発。

期せずして、ガルニアのアズラー首相の特命を受けここへ来たアリエルも又、同じ目的を持つ。こちらは18歳迄、養育することにあった。


アスマン工科大学 AIロボ研究室教授 アンドレア・シュミットが研究室の今年の20名に話しかけた。

「やあ、ようこそシュミット研究室へ ご存知のように私の研究は人智を超えた自らの意思を持ったAIロボの開発だ。今日からよろしくお願いする」

「はい教授、私はアリエル・ジョーンズです。ガルニアから来ました」

明るく淀みのないよく通る声でアリエルは研究室に入った喜びを伝えた。


一方ベリアルは、「ベリアル・ノバック メッサから来た。よろしくな」

口ごもったタメ口で嫌々という雰囲気で答えた。


アリエルとベリアルは対照的だった。

アリエルは長身、スレンダー、赤毛のロング、耳上辺りから緩めのパーマをかけた

ネオソバージュ、白い肌に切れ長の目、きりっとした口元に知性を感じさせる才女。


ベリアルはずんぐりむっくり、色黒、5分刈り、どんぐり眼なこ。いぶかしげな上目遣いで人見知りな口下手男だ。


研究室に入室して一週間が過ぎ緊張がほぐれだした頃、学生たちの交流も始まった。

ある日の授業の後、アリエルが隣の席のベリアルに話しかけた。

「こんにちは、ねえ今日のシュミット先生たらすごい寝ぐせで後頭部の毛がアンテナみたいで、私 笑いをこらえるのに苦労しちゃった。本当におかしかったわよね」


「どうでもいいだろ、そんな事」

ベリアルがぶっきらぼうに答えた。


「よくないわよ、これから4年間一緒に学ぶ仲間よ お互い打ち解けあわないとね」


アリエルは幼い頃よく遊んだ熊のぬいぐるみにベリアルの印象を重ねてそれからも

度々話しかけた。


あれから三年、二人は21歳になった。

研究室の研究もいよいよ佳境に入りもう少しで人智を超えた高機能AIロボの開発

間近のクリスマス休暇

アリエルはベリアルを伴ってガルニアへと旅立った。

二人はお互いに惹かれあっていた。


「やあ、君がベリアルか。よく来たね。君の事は娘から良く聞いているよ。ププハハハハハー」

「お父さん、いきなり笑うなんて失礼よ」

「すまん、すまん、いやね君が娘の熊のぬいぐるみトビーにそっくりなもんで」

ベリアルはアリエルの部屋の勉強机の上にちょこんと座っているトビーを見た。

「ウワッハハハー」

上目遣いでぶっきらぼうな所がそっくりでベリアルまで大笑いした。

ベリアルとジョーンズ家の楽しい休暇があっという間に終わり

春学期の始まり

研究は進み三月の中頃、ついにAIロボは完成した。

ガルニア用とメッサ用の二つのAIロボのバージョンは基本は同じ。

名称はガルニアタイプはAIマザー18、メッサタイプはAIマザー8

18と8が違う。

何故か。

ガルニアは子供を18歳まで育てるためのプログラム

メッサは子供を8歳まで育てるためのプログラム

ベリアルはその理由を誰にも話したことはない。アリエルにさえも。


5月の卒業式後、アリエルとベリアルはそれぞれの国へと帰路についた。

アスマン工科大学からAIマザーが両国に後日届けられた。

マザー18を見てガルニアの首相は感嘆の声を上げた。

「ようやく我が国の少子高齢化にも歯止めがかかる。よくやったアリエル素晴らしい」

アリエルは首相から与えられたモデルケースの住宅でマザー18と共同生活を始めた。18の行動を分析して改善する為に。

一方、メッサのマモン大統領の元にはAIマザー8が届きこれを見て、マモンは不敵な

笑みを浮かべた。

ガルニア同様にベリアルもマザー8と共同生活を始めた。

半年後、両方の家に二国が禁じられた研究を破り人工胚を人工子宮で育てた子が

届けられた。

ガルニアには女の子、メッサには男の子。

それから8年の歳月が流れベリアルの元の男の子は8歳になった。

独裁国家のメッサでは変わらずマモン政権だ。

ここでは全ての「人工」の「子」が男の子とされた。

メッサはさきの対戦で多くの戦士を亡くした。

8歳以降の男の子は党に忠誠を誓う教育を軍人教官率いる機関で叩き込まれる予定だ。

これがメッサのAIマザーが「8」という名称の由来だった。

ベリアルはこの事実を愛するアリエルに話せなかったのだ。

ベリアルの心の内は自らを孤児とした戦争を誰よりも憎んでいた。が、これまで生きてこられたのは戦争を引き起こしたマモンのおかげでもある。

このはざまでベリアルは死ぬほど苦しんだ。

自分の国の実情を恨んだ。


8歳まで生活を共にしてきた子アダムを軍の機関に送り出した晩

ベリアルはある人物へコンタクトを取った。

「マモッサ 俺だベリアルだ」

相手は同じ孤児でメッサの文系の「マモンジニアス」で英才教育を受け、アスマンのカロリナ大学で政治学を学んだ無二の親友マモッサ・カミンスカ。

「ベリアル、待ったぞ ようやくこの時が来たな 俺たちがこの国を変える時が」

「ああ、マモッサ ようやくだ お互いよく頑張ったな」

マモッサはカロリナ大学での4年間 政治学を学ぶ傍らアスマンの諜報機関のハロルド大佐とコンタクトを取っていた。ハロルド大佐はアスマンの人権団体にも属しており メッサの独裁政治の中枢マモン政権の打倒を企て、マモッサがカロリナ大学に入学早々に秘密裡に会いマモン政権の中にいるアスマンのスパイと共にその時を待っていた。

それは突然にやってきた。

メッサの年に一度の軍事パレード、観覧席のマモンの側近二人がマモンの両腕を掴み

いきなり手錠をかけた。

マモッサ、ベリアルはこの瞬間を待っていた。


メッサの夜明け

ベリアルはアリエルに歓喜の雄たけびを上げた。

「アリエール!俺だ ベリアルだ!ついにやったぞ。事情は後だ。とにかくやった!」

何も言わなくてもアリエルにはわかっていた。

何故、メッサのAIマザーが「8」なのか。

そのことでベリアルがどれ程苦しんできたか。


アリエルはすぐに、メッサのベリアルの元へ向かった。

メッサ国際空港で二人はきつく抱き合った。

「アリエル、俺と暮らそう」

「それって結婚して欲しいって事?」

「そ、そうだ はっきり言うな」

シャイなベリアルは そうとしか言えなかった。

「もちろんよ!ベリアル」

それから二人はガルニアのアリエルの元にいる女の子ティアナと

メッサ軍の機関にいる男の子アダムを二人の養子にした。

翌年、二人の間にも女の子が産まれた。ナディアと名付けた。

それから二人はAIマザーの子育てプログラムを放棄した。

少子化対策はメッサ国粋党の党首となったマモッサ・カミンスカとガルニアの首相に委ねられた。

ベリアルとアリエル 二人は心の底から湧き上がる声を聞いた。

「親は子に無償の愛を注ぎ、子はそれを受け止め健やかに育ち、その愛を永遠に繋いでいく」

AIマザーに育てられた子供達は皆、里親の元に委ねられた。

子育てプログラムから外れたAIマザー18とAIマザー8はその後プログラムを全て

刷新され、現場に立った。

その名はAI介護100とされた。









































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