第27話
光の射すほうへ向かうと、広い体育館に出た。否、体育館ではないかもしれない。床はプールサイドのようだが、水気が全くない。
既にその空間には多くの生徒が居た。それでも寝転がれるほどなのだから、かなり広い。大きめの象が五頭は、余裕を持って入れる。
『それでは、水中旗取りを始めまーす! ルールは体で覚えてくださーい。今から水中に送り込むので準備をしましょう!』
生徒達が先程渡された、小型の酸素ボンベのようなものを次々に咥える。俺も流れに併せて咥えた。中には体操をしている生徒もいる。
『準備はできたかなー? それでは、健闘を祈る! 《転送》!』
突如、景色が水中へと変わった。後方にはサーカス団のテントのようなものがあり、中には赤い旗がある。周囲には約十一人の生徒。おそらく、これが俺のチームなのだろう。
『みんなどうしたのー? もうゲームは始まってるよー?』
その声と同時に、何人かが飛び出して行ってしまった。まぁ、俺はとりあえず此処で旗を守るかな。
「《壁》!」
一人の男子生徒がテントの周りに壁を生み出していた。ニョキニョキと生える壁。奇妙な光景だ。
『おおっと! 緑チームの旗が取られた! 取ったのは……赤チーム!』
展開が早いな。チームは確か、聞いたところによると六つ。うまく行けば一つ、チームを落とせる。
「嘘だろ!? どいつもこいつも弱すぎだ!」
壁の外で誰かが叫んだと思うと、壁が凄まじい音を立てて崩れ落ちた。ボサボサの金色の長髪が目立つ、高身長の男子生徒だった。
「ザコはそこで見ていろ。おれが旗を取る。」
一応、旗は守っておかないとな。
「誰が雑魚だって?」
俺はそう言ってその男子生徒の前に立ちふさがった。これ終わったら何処かでひっそりとしてよう。
「このアラルに楯突くか、いいだろう。我が故郷に伝わりし秘技で沈めてみせよう。」
アラルは合掌する。
「我、神の
うおおおお! 魔法的な詠唱! で、何も起きないけど、何をしたいんだこいつ。
首を傾げる。その場にいた全員が首を傾げていた。
「我、神の梵唄を聞き、玉響の奇跡を信じる者なり。蒼穹の鎌で其の者の命を掠めよ。ソウルブレイク!」
二発目〜!? ぎゃぁぁぁぁ、あ? あれ?
「「ん?」」
全員が再び首を傾げる。
「なっ……不発! 何だ、この発動する直前に実力でねじ伏せられ、掻き消されるような感覚は!」
アラルはただのイタイやつなのか、それとも本当に不発なのか。分からなくなってきた。まぁいいや。大技っぽいのは出せないみたいだし。
「調子に乗るなよ……今に見てろ!」
アラルの手元に薙刀が現れる。薙刀は素早く振り回され、斬撃は水中により、飛ぶ不可視の斬撃となり、会場を傷つけた。
アラルは素早く薙刀を振り上げる。避けきれない! ガッ! 水中で上手く動きが取れず、モロに薙刀の柄が頭に当たり、飛ばされた。
「手こずらせる。」
アラルは旗を取った。突如、息が吸えなくなる。
「旗を取られたチームには酸素の供給が停まるそうだ。せいぜい生き残ることだな。」
なんて残酷なルール! 溺れ死ねって言ってるのとほぼ同じだろ!
いや、シンプルに不味いわ。これももういらんな。小型の酸素ボンベのようなものを捨てる。どうするかな。そういえば、マイムとか水中でどうやって息していたんだ? 特に小細工は見えなかったけど……。
横を見ると、苦しさに耐えかねた生徒が次々にギブアップしていく。一応良心はあるんだな。
さて、俺も苦しくなってきたし、そろそろギブアップ……はしないけど。
マイムやタキオンが水中で普通に活動できた理由。やっぱりスキルとしか考えられない。なら、このタイミングがベストだな。俺は、体の力を抜いた。
う……ん、だいぶ苦しいな。我慢していたら獲得できるなんてものではないのかもしれない。
そもそもどうやって息をしていたんだ? 酸素がないと息は……酸素……?
確か、水中にも酸素はあるんだよな。じゃあ、その酸素を上手く吸えば……? いや無理か。でも一か八かやって見る価値はありそうだな。
口を開けると、空気がゴボッという音を立て、抜けていった。そして、息を吸うように、水を吸い込む。
吸うまでもなく、水は入り込む。あ、ダメなやつだ。苦しいを通り越して、もう楽になってきた。
目を開くと、そこは海辺だった。綺麗な砂浜が、太陽光で反射して眩しい。目の前に誰かがいる。日焼けした肌の男の子だ。その子供は口を開き、こう言った。
「お前が泳げない理由は分からないけど、泳げないから溺れるんだろう?」
そうだな、当たり前のことだ。
「だったら、泳げるようにならなくても、溺れなければいいじゃないか!」
思わず、笑った。確かに、それは一つだな。でも、そんな滅茶苦茶な対処療法……。
スキル《水中生活》
・水中でも、呼吸ができるようになる。
・身体を取り巻く水の抵抗力を、空気と同じにする。
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