第26話
廊下を歩く。疲労がだいぶ蓄積しているのが分かった。リスクのあれはやばかった。そしてヨウタに力を削ぎすぎた。流鏑馬はいいとして、水中旗取りまで持つだろうか。
『盛り上がりは最高潮! 私が実況兼進行を初めて、最高の盛り上がりだぁー!』
すごいな、廊下からも歓声が聞こえる。
グラウンドに入場する。相手側は、全員リーゼント。何だこのチーム。前からだけど一貫性があるな。ランダムじゃないのか?
『圧倒的な戦力を抱える青チームに対し、緑チームは恐怖のヤンキー! この国では敵なしの不良たちだぁーっ!』
さて、相手はどう来るかな? パッと見た感じ、ツッコんできそうだけど。
「それでは! 試合、開始!」
ゼンの声から始まる開始の合図と同時に、相手三人がツッコんできた。よし、此処ではいい見せ場を作らないとな。
「足元にお気を付けて。」
地面がぐにゃりと捻れた。なんだコレ!? 捻じれの源を見ると、アイコが地面を布を摘むように持ち上げていた。アイコはその地面を手から離す。すると、ゴムのようにパシンと地面は戻り、その衝撃で不良は躓く。
「ロォォォォォックだ!」
シューヘイの手にギターのような楽器が現れる。ギュィィィィィンと鳴るその楽器は、あたりに衝撃を生み出し、不良を場外へと弾き飛ばしてしまった。
少し背筋が寒くなる。出番が無い……! 最初は心配だったけど、こいつらこんなに強かったのか!
「おうおう、やってくれるじゃねぇか。」
先程から動かなかった不良の一人が、ゆっくりと前に出る。拳を構え、横に振られた拳は空を切る。刹那、アイコとシューヘイが、まるで殴られたかのように吹き飛んだ。枠外に出てしまっていた。
「二対一か、悪くない。」
『でたぁぁぁっ! 味方が倒されるまで動かない、無敵の不良、リョウジ!』
何だ今の……。打撃が飛んだ……? いや、リーチが長いのか? とするとスキルか何かだな。
「オマエ、強イナ。」
「強いって……。俺は目的を果たすために鍛えただけさ。」
リョウジは両腕を引く、まずい!
「
「アオ、俺ハ何モシナイゾ。自分ノ身ハ自分デ守レ。……オ前ノダメージカラシテ、喰ラッタラ死ヌゾ。」
死ぬって……大袈裟な。いや……いいか。一時的に、結界を解禁しよう。
リョウジの拳の動きに合わせ、バババババと、絶え間なく凄まじい音が鳴り続ける。
「アガるなぁ!」
音が止む。結界を解いた。あれ、リョウジとかいうやつ、どこいったんだ?
「おらよ!」
頭に強い衝撃を受ける。蹴られた! 世界が逆さまになる。逆さの視界から、リョウジが今にも拳を振るおうとしているのが見えた。
諦めるか。もう、どうしようもない。
「俺モ、上ガッテキタ。」
バキッ、という鈍い音。その音は、ジェームズがリョウジを殴った時に出た音であった。なんか、悔しいな。
身を翻し、俺は着地した。
「手を出さないんじゃなかったのか?」
思わず口に出てしまった。
「俺ノ故郷デハ勝負事ニ関シテ、一度誓ッタ事デモ、ソレガ己ノ意志ト運ヲ上ゲルモノナラ許サレル。」
無茶苦茶だな。まぁでも、リョウジ、起きないし。
『ふぇ? ぴょっほファッへへふははい。ゴクゴク。ジェームズ選手、まさかの一撃かぁぁっ!?』
動かないな、あと五秒。流石に無理だろ。
「俺は……、たった一度もスキルを使っていない。《治癒》。」
リョウジが立ち上がる。これでスキル使ってないのかよ! 第二ラウンドか……!
「汚ラワシイ、クタバレ。」
ガスッと鈍い音を立てて、ジェームズの拳がリョウジの頭に当たった。今度こそ、リョウジは起き上がらなかった。
『団体戦、優勝は青チーム!!』
歓声に包まれる。俺、殆ど足手まといだったなぁ。凄く複雑だ。にしても、俺のこのチーム。偶然とは言えない程になかなか実力があったな。いくらランダムでも、少しは調整するなんてことは考えなかったのだろうか。
試合終了直後、ウエットスーツを受け渡され、丁度人一人入る程の個室の更衣室に案内された。次は水中旗取り。正直、泳ぐのはそこまで得意ではない。が、まぁなんとかなるだろう。もともと観賞メインでやるつもりだったし。服を脱ぎ、ウエットスーツに手を伸ばした。
着替え終わり、更衣室から出る。サイズはピッタリ。身体も万全。会場は地下にあるようで、そこへ降りる階段を探す。あった。階段の側に籠を持った教員がいたので分かりやすかった。
階段を降りようとすると、握り拳程の缶詰のようなものを渡された。裏にはシュノーケルのような、柔らかく、咥えられそうなものがある。
「これを付けていれば、水中での呼吸には困りません。」
と、その教員は言うではないか。有り難いが、水中で呼吸できる髪留めみたいなの、確かあったぞ。値段もそこまで張らなかったはず。なんでこんなわざわざゴツいものを?
疑問を抱えつつも、有り難く受け取っておいた。
階段を降りる。灯りがなく、真っ暗だった。転んで大怪我してもおかしくはないだろう。一段一段を確実に、慎重に降りていくと、正面に光が見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます