第25話

 バタリ、ヨウタは倒れ込む。


『何が起こったぁぁっ!? ヨウタ選手、依然として動かない!』


 疲れた。ヨウタ、なかなか素早かったけど脆いな。さっきのリスク程の硬さはないのか……。あれを指針にしたら駄目かもな。


『カウント終了! これにより、アオ選手の勝利です!』


 観客席からわぁぁぁっと歓声が聞こえる。これで前半は終わりかぁ。次は……団体戦。二戦やるらしいけど、体力が保つか。まぁ、なんとかなるだろう。




 準備室でウトウトしていたら、いつの間にか個人戦が終わったらしい。呼び起こされ、団体戦の準備へと向かう。まずはメンバーの確認。そして、戦略を立てるのがセオリーらしい。廊下を歩いていると、『青チーム』とドアに書かれてあった。ここだな。

 ドアをガチャリと開ける。中には、既に三人のメンバーがいた。

 一人目は、椅子の上にあぐらをかいて座っている男子生徒で、『ロック』と描かれた黒いキャップをかぶっていた。

 二人目は、かなり厚塗りのメイクをしている真っピンクな髪の女子生徒。更にメイクを塗り直していた。

 三人目は、黒いサングラスをかけ、椅子の上に一風変わった雰囲気で座っていた。体格が違う、色黒の肌の男。その肌の黒さは、着ている白いシャツの色を眩しいほどに際立たせていた。

 俺……こんなチームでやっていけるのか? 早々心配になって来たんだが。


「オマエ、モウ一人ノメンバーカ。俺ハジェームズダ。ヨロシクナ。」


 色黒の男がそう言う。


「お、おう、よろしく。」

「コノ悪ガキハ、シューヘイ。コノ無作法女ハ、アイコダ。オマエハナンダ?」


 ジェームズは俺に迫ってくる。うぉ、怖。


「お……私は、ア……アオです。」


 駄目だ……圧力凄い。こんなに人を怖いと思ったのは初めてだな。


「アオちゃーん。作戦聞いてないでしょ?」


 アイコが化粧を止め、こちらに顔を向けてくる。あぁ……なんで俺のメンバーはこんなクセの強いやつしか居ないんだ……。


「は……はい。」

「作戦は、何も考えない。唯、攻めに徹する!」


 シューヘイがガタリと立ち上がる。


「味方がピンチでも見捨てろぉ! 眼の前の敵をロォォォォォックオンだぁ!」

「ト、イウ訳ダ。理解?」


 いや待て待て、見捨てるって、それ団体戦の意味なくないか!? こーゆーのって協力するからいいんじゃないの!?


『ピーンポーンパーンポーン。コホン、団体戦の赤チームと青チームはグラウンドへと移動してくださーい。』


 アナウンスが流れる。他の三人はゾロゾロと部屋を出ていった。俺も行くか。ドアをガチャリと開け、廊下をわたる。


『さぁ、団体戦初戦! どんなアツーイ勝負を魅せてくれるのか!』


 グラウンドへと入る。ぱぁっと照らす陽の光が眩しかった。

 チームの元へ行く。反対側には、四人全員が眼鏡を掛けている生徒達がいた。


『赤チームは頭脳派! 定期考査の筆記試験上位を牛耳る者たち! 対する青チームは戦闘学で無類の才を放つ! どんな勝負になるのか!?』


 グラウンドの中央端には審判らしきフランスパン……ゼン!?


「ハッハッハ! この試合での審判は俺が務める! それでは! 試合、開始!」


 開始の合図と同時に、赤チームの生徒たちは底辺のない三角形のような陣形を組んだ。なるほど、袋叩きにする戦法かな。

 ここはひとつ……あれ、隣りにいたはずのジェームズがいない。すると、離れたところでドスッという鈍い音が聞こえた。


「コイツラ、大シタコトナイナ。」

「もう行ってるー!」


 置いていかれた! てかあそこに独りで突っ込むのは自殺行為だろ!

 案の定、ジェームズは袋叩きにされていた。言わんこっちゃない。さて、あいつは置いといて、俺も準備をするか。


「ぐっ……攻撃が通らない! 引け!」


 眼鏡にビビが入ったリーダ的な生徒が指示を出す。ん? 攻撃が通らない……? ジェームズをよく見ると、黄色い結界が纏われていた。

 息を吸うように結界使ってやがる! あれで本当に他の生徒と近い歳か!?


「何ヲシヨウガ、無駄ダ。」


 ジェームズから距離を取る相手を、手際よく次々に場外へと殴り飛ばしていった。最早驚きの声すら聞こえない。

 あっという間に、グラウンドに立っているのは俺たちだけになってしまった。


「ジェームズはね。どこかの王国の王家直属部隊の隊長を最年少で務めていたの。」


 なんと、なかなかにぶっ壊れだった。チートなやつが多いな。この学校だけで魔王に太刀打ち出来そう。


『おぁ? 失礼な、寝てませんよ! あぁぁ、えっと……青チームの……勝利!』


 ジェームズの凄さに圧倒されていた観客が未だに、シーンと静まっている。約一拍後、歓声が上がった。


「チッ、出番無しかよ。」


 そう言い捨てたシューヘイがグラウンドを後にしたのに続いて、俺もグラウンドを後にした。




 部屋では、沈黙が続いた。誰も話さず、物音も立てなかった。ジェームズに関しては起きているのかすら、分からない。


『えーと。次は団体戦最後! 青チーム対緑チーム! どちらが勝つのか!?』


 お、そろそろだな。偶然、四人同時に立ち上がった。


「気ヲ引キ締メロ。」

「「「了解。」」」

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