第24話

 担当の人に入り口へと案内された。


『さぁ、第三回戦、最初のカードは! 二回戦で圧倒的な速度を見せつけた「アオ」!! それに対するは! 相手を近づけさせない超遠距離攻撃! 「ヨウタ」だぁーっ!』


 会場に入ると、さっきの吸入器がいた。さぁ吸入器君。あれだけ自信がありそうだったし、どこまで魅せてくれるのかな。


『それでは、試合……開始!』


 ヨウタの周りに、ポッと火の玉が幾つも現れる。


「どう来る? 《怯弱》」


 火の玉がこちらに向かって飛んできた。しかし、避けられない程の速度でもなく、相手を近づけさせないというならリスクの方が上かもしれない。

 簡単に避けることができた。


「反撃はしないのか?」


 ヨウタは再び火の玉をこちらに向けてくる。やはり簡単に避けることができた。

 そろそろ充分溜まった頃だし、攻めるか。足を一歩、踏み出す。


「な……。」


 突如、胸に鋭い痛みを感じた。《怯弱》が解除され、倒れ込むように膝をつく。


「どうした? 我は何もしていないぞ。」


 すると、ヨウタは納得したというように手を叩いた。


「そのスキル、《怯弱》と言ったな。回避するほど素早くなり、受けるほど硬くなる。厄介この上ないが、その効果には上限がある。」


 上限……? そんなもの、どこにもなかったぞ。ヨウタはペラペラと気楽な口取りで話し始めた。


「スキルには重要な要素が三つある。一つは効果。これは大前提。もう一つは種類。授業で習わなかったか? 最後に『省略』。これを知っている者は一握り。スキルの説明文から省略され、体験するまで知ることのできない効果だ。」


 ヨウタは近づき、俺を強く蹴り飛ばす。クックッと、薄気味悪く笑った。


「《怯弱》は、一定速度まで上がると、使用者の防御力によって自動解除される。そして自動解除後は一週間、使えなくなる。」


 え、だめじゃんこれ。というより吸入器君。よくも無抵抗の俺を蹴飛ばしてくれたなぁ。


「君は何か勘違いをしているようだが、この吸入器は伊達じゃない。これは、私の体内に常に水素を送り続ける。そして、私は体内の気体を、熱しながら汗腺から放出できる。放出後、丁度その気体は五百度に達し、汗腺から出る、小さな燃えやすい金属の塊を媒介に発火するのさ。」


 なるほど……あの火の玉の正体はこれか。

 歯を食いしばって立ち上がる。やっぱりさっきのリスクの一撃が効いてるな。


「ハンデ戦かぁ、まぁしょうがないかな。」

「なっ……ナメるなよ。」


 ヨウタは再び火の玉で攻撃してくる。全然避けれるけど……面倒だな、あの吸入器壊すか。

 一歩踏み込み、ヨウタのもとへ駆けた。拳を高々と振り上げる。フリをして足を払った。


「なっ……。」


 ズルっと音がして、ヨウタは躓く。その隙に吸入器を叩いた。―――――硬い! 違う! 非力!

 すぐにヨウタは体制を立て直し、至近距離で火の玉を飛ばしてくる。間一髪で回避し、距離を取った。


「何をしたいのかわからないな。」


 くーっ! 良いところなんだけどなぁ。結界なしはハンデが大きすぎたか。次は……あれでいくか。再び走り出す。


「惨めだなぁ、まだやる気か?」


 ヨウタの懐にスッと潜り込み、脇の下を抜けた。


「ふぬぬぬ。《粘着性》!」


 俺の手がヨウタの背中に触れた。強力に粘着したヨウタを持ち上げる。


「よっいしょっ!」


 地面に振り下ろし、勢いがついたところで解除した。しかし、ヨウタは腕で受け身を取る。

 うーん、一筋縄ではいかないか。じゃあどうするかな。


「アリの抵抗以下だな。そんな事で我を倒せるとでも?」

「なんか腹立つな、友達無くすぞ。」


 そう言い返すと、ヨウタは震えだした。あれれれ、地雷踏んだかもしれない。


「友達なんか……友達なんか……。元からいない!」


 火の玉が絶え間なく飛んでくる。逆鱗に触れちゃったよ。なんか悪い。


『すみません、お手洗い行ってました。おおーっと! ヨウタ選手! 火の玉を飛ばし続ける! 流石にこれは避けにくい!』


 ほんとにこれ避けづらい。こんなもの、もう半ば諦めて《戦神》に賭けてるよ。熱い。


「何故だ! 何故平然としていられる!」

「なんか、痛み感じないんだよこれが。ダメージはあるけど。」


 手で服を燃やす炎を、叩いて消す。そんな燃え上がるような火じゃないな。それともこの服の防火性能が凄いのか。


「ダメージはあるのか……クックッ。ならば焼き尽くしてやろう! これは我を侮辱した罰だ!」


 火の玉の勢いは一向に衰えない。これ……あの吸入器壊したら終わるよな。熱いのは苦手なんだよ。じゃあ……使うか。いやでも……まぁ一瞬だし? 少しだけだし。なんとかなるか。

 俺は右手の指で銃の形を作った。


「何をしている? 我がそんな幼稚な脅しに乗ると思ったか?」

「へぇ~、これが脅しとでも?」


 ヨウタは急かすように、トントントンと、足踏みをする。


「笑わせるな。そんなことをできるのは創造系のスキルのみ。例えそんな芸当ができたとして、それを使う隙は幾らでもあった筈だ。」


 悪かったな、温存しておきたいもんでね! 人差し指にグッと力を込める。

 刹那、ヨウタの吸入器は壊れ、その顔は大きく仰け反った。

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